健康

薬もユニバーサルに。子供からお年寄りまで飲める薬に

帝京大学薬学部教授・丸山先生

 最近、薬が苦くなくなった。識別しやすくなった。従来は飲み薬だったものが貼り薬などに変わってきた。私たちが知らない間に薬が変わってきている。子供からお年寄りまで、より有効に、より安全に、より使いやすくなってきているのだ。知っておくと絶対役立つ、最新のユニバーサルデザイン製剤について、帝京大学薬学部教授の丸山一雄先生に聞いた。

薬の苦みを感じさせないための目からウロコのアイデア

 帝京大学薬学部は今年40周年を迎える。それを記念して開催されたのが連続講座「大学教授が教える!知って得するお薬と健康の話」だ。丸山先生によれば、薬の世界でも急速にユニバーサルデザイン化が進んでいるという。

 薬を飲むのを嫌がる子供や、嚥下機能の低下したお年寄りでも服用できるよう、薬の形は進化している。それも、より安全に、より使いやすく変わってきているのだ。

 子供は苦い薬を飲むのが苦手だ。一番いいのはシロップ薬だが、冷蔵庫で保管したり持ち歩くのにかさばったりとデメリットもある。そこで、苦みを感じさせない工夫として、糖衣錠はもちろんだが、そのほかに唾液で溶けない薬もあるという。でも胃ではちゃんと溶けるようになっている。

「唾液で溶けなければ苦みは感じない。だから子供でも飲めます」(丸山先生。以下、「 」内同)とは、目からウロコのアイデアだ。

 前の記事「絶対に噛み砕いてはいけない薬も。大学教授の薬講座」では、絶対に割ったり噛み砕いたりしてはいけない薬について紹介したが、錠剤を飲み込むのが苦手な子供向けにはお菓子みたいにボリボリ噛ませて飲ませるチュアブル錠もある。これは水がなくても飲める薬だ。

薬を飲み込むのが苦手な人には

「嚥下障害のある高齢者とか、水分摂取を制限されたりしている患者さん、薬を飲み込むのが苦手な子供には、口腔内崩壊錠(OD錠、Oral Disintegration)がおすすめです。これは口の中に入れれば、すっとすぐに溶ける。また、口に入れるだけで唾液でもすぐ溶けるので、水がなくても飲み込めます。だからといって、寝たままの状態で水なしで服用することはしないこと。立ち上がる必要はないが、上半身だけでも起こして服用してください。

 唾液にすっと溶けるということは、錠剤の内部に水が入りやすいということ。そのため湿気に弱いので、服用直前まで取り出さないなど注意が必要です。ラムネ菓子のようにもろく壊れやすいものを想像しますが、この、すっと唾液で溶けて、しかも壊れにくい錠剤を工場で大量生産するのには、高度な製剤技術が必要です」  

 ただ、高齢者となると一度に5つ6つの薬を服用することも多く、そのすべてにOD錠があるわけではない。そうした多くの薬をするっと飲み込む時に役立つのが、服薬ゼリーだ。

 薬はコップ1杯の水で飲むのが基本だ。しかし水と一緒に錠剤やカプセルを飲むと、時にのどにくっついたり引っかかったりすることがある。水と錠剤やカプセルでは喉を流れるスピードが違うため薬が置いてきぼりになるのと、カプセルなどが水を含んでふくらんでしまうためだ。そうなると不快感が残ったり、炎症が起きたりする。

 しかし服薬ゼリーと一緒に薬を飲むと、薬がゼリーに包まれて運ばれるために、スルっと入る。開発元の説明動画によれば、水と一緒に薬を飲んだ場合は胃に届く時間は約18秒だが、服薬ゼリーの場合は約8秒だという。薬が喉に付着しないので、するっと早く胃に到達するからである。

より長時間効く薬も

 薬を服用する負担を減らし、飲み忘れを防ぐためには、服用回数を減らすことも大切だ。近年増え続けている、長時間効果が持続する徐放製剤については、前の記事「絶対に噛み砕いてはいけない薬も。大学教授の薬講座」をお読みいただきたい。長時間作用する薬として、皮膚に貼付する貼り薬も増えているという。

「ちょっとしたはずみで紙で指を切って血が出ることがあるでしょう? それくらい皮膚の下にはすぐに血管が走っています。この血管に入ってくる薬があるんです。テープ状になっていて、皮膚に貼ることで、薬が皮膚を透過して持続的に血管に入ってくる仕組みです。

 疼痛(とうつう)治療のための有効成分フェンタニルを配合した貼り薬も発売されていて、それまでは点滴しなければならなかったものが、貼付すればフェンタニルが皮膚を通して少しずつ体内に吸収され、72時間血中濃度が一定に保たれるため、在宅治療ができるようになりました。

 こうした貼り薬のよいところは、投与や中断が簡便に行えること、比較的作用時間が長いところです。また、喘息の薬のホクナリンテープなどは、寝る前に貼って寝れば一番症状がひどくなる未明に薬が最適な血中濃度になるようになっています。そのため子供などにはとても使いやすい薬です」

 こうした誰もが使用しやすいように工夫された薬をユニバーサルデザイン製剤、またはバリアフリー製剤という。これには薬を間違えないように識別できる包装技術やデザインなども含まれる。

 今や薬の剤形は、ガム剤(ニコチンガムなど)やスプレー剤など新しい技術が開発され、71種類にものぼるという。このように薬を「より有効に、より安全に、より容易な」投与形態で届けるシステムを「ドラッグデリバリーシステム(DDS)」といい、これから注目される分野となっている。

〔前の記事〕
絶対に噛み砕いてはいけない薬も。薬の正しい飲み方講座

◆取材講座:薬学部40周年記念連続講座「大学教授が教える!知って得するお薬と健康の話」第3回「薬に技あり!秘められた製剤技術の紹介」(帝京大学総合博物館)

文・写真/土肥元子(まなナビ編集室)

初出:まなナビ

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