健康

アーユルヴェーダを高齢者ケアに取り入れる|関節痛をやわらげる「ごま油」マッサージ<1>

「アーユルヴェーダ」といえば、「インドから伝わったエステ」、「ごま油を頭皮に垂らすヘッドスパ」といったイメージがあるかもしれない。

 しかし、本来のアーユルヴェーダとは、インドで5000年前から培われ、現在も医療の現場で採用されているれっきとした伝承医療だ。アーユルヴェーダには、日本の台所にもある調味料やスパイスを利用して、高齢者の心や体に働きかけられるテクニックが数多く存在するという。

 ミライプロジェクト(本社:東京都渋谷区)が、『TOKYO Beauty & Care アカデミーの短期講座』として、開講したワンデイレッスン『高齢者介護とアーユルヴェーダ~台所調味料でできる家庭の介護ケア~』で、アーユルヴェータ ビューティカレッジ代表の新倉亜希さんにその方法を教えてもらった。

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講師の新倉さんは、内閣府認定アーユルヴェーダ協会の理事も務める

 * * *

そもそもアーユルヴェーダとは? 

 インドのアーユルヴェーダ医師のもとで修行した新倉さんは、日本全国でセミナーや勉強会を開催。アーユルヴェーダの考え方や技術を高齢者支援やメンタルケアなどに応用したプログラムを指導している。

「アーユルヴェーダは日本人にはなじみが薄いように思えますが、そんなことはありません。実はアーユルヴェーダが日本に入ってきたのは奈良時代。8世紀の中頃に建てられた東大寺の正倉院には仏典と一緒に、アーユルヴェーダについての資料や、施術に使うスパイスなどが収められているんですよ。

 それに、日本に昔から根付いている民間療法の中にも、アーユルヴェーダに由来するものがあるんです」(新倉さん、以下「」内同)

乾布摩擦はアーユルヴェーダの基本!?

 そのひとつが乾布摩擦だ。

「乾布摩擦は「ガルシャナ」と呼ばれ、アーユルヴェーダの基本的な健康法のひとつです。ガルシャナには絹の手袋を使います。手袋で全身の皮膚をこすることによって、血行がよくなり、動脈硬化の予防、冷えやむくみの解消、皮膚が丈夫になるんです。

 ガルシャナは、体の末端から心臓に向かってこするのが原則。例えば足首から膝に向かって、手首から肘に向かって優しくこすります。

 高齢で肌が乾燥していて、絹手袋の摩擦では刺激が強すぎる場合は、『ハンドガルシャナ』といって素手でマッサージするのも有効です」

 セミナーで実演したところ、手袋をつけた手で数回こすり上げるうちに、モデルの腕はみるみるうちに透明感が出て白くなってきた。

ごま油マッサージで骨の強化に

 ガルシャナに続いて行うのは、ごま油を使ってのマッサージ。使用するのは、焙煎していないごまから作られる「太白ごま油」。茶色のごま油のような独特の香りはなく、さらりとした軽い感触のオイルだ。

食用なので、安全。高齢者ケアにも安心して利用できる

「アーユルヴェーダでは、ごま油をはじめ、キッチンでおなじみのスパイスなどをよく使います。医薬品と違って、オイルやスパイスには副作用がほぼありません。もちろん肌に触れたり、万が一飲み込んだりしても安全なので、高齢者ケアにも安心して利用できます」

 太白ごま油は抗酸化作用を高めるため、小さな鍋などに入れ、100℃まで加熱した後、常温に戻してから使用する。この作業を「キュアリング」という。キュアリングしたごま油は酸化しないように瓶などに入れて冷暗所に保存し、1週間ほどで使い切る。

【キュアリングの手順】

1.太白ごま油は、小さな鍋に入れて加熱。

2.100℃まで加熱したら、常温に戻す。

3.キュアリングしたごま油は、小さい瓶に移し冷暗所で保存

※1週間で使い切る

 マッサージのやり方は簡単。適量のごま油を手に取り、ガルシャナをした後の腕や脚に先ほどと同じようにすりこむだけだ。

ごま油が潤滑油がわりとなって関節痛を和らげる

「ごま油は5分ほどで骨髄まで浸透し、骨を強化すると考えられています。また、高齢になると、関節どうしがぶつかって、きしむように痛みが出ますが、体内に浸透したごま油がその潤滑油がわりとなって、関節痛を和らげるのです。

 私たちが継続的にケアに伺っている施設で、歩けなかった高齢の女性にこの施術を続けたところ、半年後には歩行器を支えに歩けるようになり、1年後には自力で歩けるようになりました」

 ごま油には痛みの改善も期待できるので、床ずれ対策にもなるという。また、体を温める作用もあるため、冬にこのマッサージをすると洋服を1枚羽織ったように温まるそうだ。

「アーユルヴェーダでは、『髪や爪は、骨の老廃物からできている』と考えられています。ですから、ごま油マッサージで骨を強くすることで、髪や爪も丈夫になるんです。長年このマッサージを続けていると、冬でも体が冷えないし、髪が抜けにくく、爪も割れなくなります」

 * * *

 次回、「家庭にある調味料でアーユルヴェーダ」<2>では、歯周病やほうれい線対策に役立つ「ごま油うがい」をご紹介します。

→歯周病、ほうれい線にも役立つ「ごま油うがい」~家庭にある調味料でアーユルヴェーダ<2>

監修:新倉 亜希

アーユルヴェーダビューティカレッジ 代表、日本アンチエイジング&ヘルスデザイン協会(JAH)代表理事、内閣府認定 アーユルヴェーダ協会 理事、一般社団法人 国家ビジョン研究会 農業・食料問題分科会 研究員。インド・ジャイプールにある医療法人Chakrapani Ayurveda Clinic & Research Centerにてアーユルヴェーダ医師のもとで修行をし、現在では特に高齢者支援、アンチエイジング、妊活、育児、メンタルケア、教育にアーユルヴェーダを取り入れたメソッドなどに取り組んでいる。

【協力】
株式会社ミライプロジェクト http://www.mirapro.net/

撮影/津野貴生 取材・文/市原淳子

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