暮らし

「健康寿命」と「平均寿命」の差から導き出す介護費用

Q 「平均寿命」と、健康上に問題がなく日常生活を送れる期間である「健康寿命」。女性の場合、その差は何年くらい?

【1】5年
【2】12年
【3】20年

介護サービスはタダでは受けられない

 健康ではなく、人の手を借りなければ日常生活が送れない寿命までの期間は男性で9.13年、女性で12.68年となっています。

※注:平均寿命は、厚生労働省「平成22年完全生命表」、健康寿命は、厚生労働科学研究費補助金「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究」より。

 答えは、【2】の12年でした。

 この10年前後という期間に、介護費用がかかってきます。もちろん、40歳以上の国民が加入する公的な介護保険制度もありますが、果たしてそれで足りるのでしょうか。この記事では、それを考えていきます。

 まず、公的な介護保険制度について、簡単な説明をしましょう。病院で保険証さえ出せばいい医療保険と違って、介護保険は申請制です。介護が必要だということになったら、住まいのある市区町村の介護保険窓口、あるいは地域包括支援センターに相談。その後、担当員によるその人の状態の調査が行われ、要介護度が認定されます。そして、その要介護度によって、受けられるサービスの支給限度額が決まります。

「支給限度額」と聞くと、現金が支給されるようなイメージですが、介護保険は現金ではなく、介護サービスとして提供されます。また介護サービスは無料ではなく、所得に応じて1~2割を自分で負担して利用することになります。

 いちばん軽い要支援1なら、支給限度額は月額5万30円。5万30円分の介護サービスを、自己負担額1割の場合は5003円を支払って受けられる、ということです。いちばん重い要介護5なら、支給限度額は月額36万650円なので、1割負担だと3万6065円を支払ってサービスを受けることになります。ちなみに、認定された要介護度の支給限度額を超えてサービスを受けたい場合は、超えた分が全額自己負担となります。

老後のお金、大丈夫?

お金だけでなく、介護期間を短くするという手も

 では一体、総額でどれくらいを支払うことになるのでしょうか。

 調査によれば、住宅補修や介護ベッドの購入などの一時的な出費の合計が平均80万円、公的介護保険の自己負担分を含む毎月の出費は平均7.9万円。また、過去3年間に介護経験がある人に介護期間を聞いたところ、期間は平均59.1カ月(4年11カ月)でした(生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」/平成27年度より)。

このデータから考えると、一時的にかかる費用80万円に、1カ月にかかる介護費用約8万円×12カ月×約5年の480万円を足すと、介護費用は560万円となります。夫婦であれば、2人分で1120万円程度と試算できます。

 しかし、介護費用への備えが難しいのは、介護がいつ発生するか、発生したら何年続くかがわからないからです。上記に挙げた数字はあくまで平均であり、自分や家族がどうなるかは、その時になってみなければわかりません。前述の調査データでは介護期間は平均で約5年ということでしたが、同じ調査で質問に対し「10年以上」と答えた人も約16%いるという結果も出ています。

1カ月にかかる介護費用は、自宅介護か施設介護かでも異なり、さらに施設のタイプでも金額が変わってきます。だいたい自宅で介護を受ける場合は月額約5万円以上、施設に入る場合は月約20万円以上かかることが多いと思っていたほうがいいようです。どこで、どれくらいの期間、どういう内容の介護を受けるかという点で、介護費用はかなり違ってきます。いくら「かかる」かというより、いくら「かける」か、という発想に転換することもあり得ます。

 介護に備えるためには、1人500万円を目安に。そして、老後にかかる生活費の不足分などにこの金額を上乗せして、老後資金を考えていけると安心です。

 貯金や運用も一つの方法ですが、一定の介護状態になった場合に保険金が受け取れる民間の介護保険もあります。要介護認定を受けた段階で一時金が出るタイプや年金形式で支給されるタイプ、またはその両方が支払われるタイプなど商品によって異なります。民間の介護保険に加入する際は、支払い要件を約款などでよく確認しておくといいでしょう。

 さらに、お金の準備をすると同時に、日常生活でできるだけ健康寿命を伸ばすことも意識するのも大切です。生活リズムを見直し、バランスのよい食事を摂ること、適度な運動をすることを心掛けます。言うは易しで、なかなか実行は難しいですが、介護費用の節約を考えたら、介護を受ける期間をいかに短くするかということも、準備だと言えます。お金を貯めるのが難しいという人でも、手をつけられることでしょう。

自分が認知症になった時の備えも忘れずに

 老後のお金のことで忘れてはならないのは、「認知症」を念頭においた準備です。認知症を患い認知機能が低下すると、自分の介護費用の捻出をはじめとする財産の管理ができなくなる可能性があります。

 そんなときのために、法的に支援する成年後見制度などありますが、信頼できる親族がいるのなら、簡易な手続きで家族間の財産管理ができる「家族信託」を検討してみてもいいかもしれません。

「家族信託」とは財産管理のひとつの方法で、資産を持ってる人が特定の目的にしたがって不動産・預貯金等の資産を信頼できる家族に託し、管理・処分を任せる仕組みです。家族間でも契約が必要となる制度で、公証役場などで手続きをします。

◎タイプ別施設利用料 *公営については所得や収入、地域、要介護度により、民間施設についても地域、施設、要介護度により、かかる費用に幅がある。

施設 特徴 初期費用 月間利用料
自宅   0円 0円
<公営>特別養護老人ホーム 通称「特養」と呼ばれる施設。自宅介護が難しく要介護3〜5の人しか基本的には入れないとされる。待機者も多い。 0円 5~14万円(1割負担の場合)
有料老人ホーム 入居する施設の豪華さやサービス内容に差がある。建物が古くてもサービスの質が高い施設もある。 0~数千万円 30万円前後
サービス付き高齢者住宅 高齢者向けのサービスが付いた民間の賃貸住宅。介護は外部に委託されている場合が多いので、介護度によってはさらにお金がかかる場合も。 数十万~数千万円 10~20万円
グループホーム 認知症に対応した民間の介護施設。専門知識を持つ職員の援助を受けながら、少人数(5〜9名)で自立を目指した日常生活を送る。 数十万~100万円 14~20万円
 <公営>介護療養型医療施設  要介護1以上で、長期にわたる医療や介護の必要な高齢者のための、あくまでも療養のための病院施設。2018年4月に廃止。形態転換予定。  0円 7~13万円

出典(一部抜粋):TJMOOK「『平穏死』の真実と準備」(2017年、宝島社)

アドバイス/志村直隆(ファイナンシャルプランナー、がん治療コンサルタント、2017 MDRT終身会員)

取材・構成/生島典子(フリーライター) イラスト/とげとげ。

初出:まなナビ

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