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父の認知症を認めず、怒鳴り散らす母をどうしたら

(c)fotolia/studiolaut

 自分が認知症であると認めるのは誰にとってもつらいことです。また、それは周囲の人にとっても同様です。とくに長年一緒に暮らしてきた配偶者にとって、夫あるいは妻が認知症であると認めるのは、一緒に築いてきた楽しい思い出が奪われるような喪失感を伴うものとなります。介護コミュニティサイト「介護100番」を書籍化した『母がお金を隠します。』には、夫の認知症を認めず怒鳴り散らす母を見て、心を痛めるお子さんからの相談が掲載されています。

「お父さんは認知症じゃない!怒鳴ればシャキッとするのよ」と母

 相談者のユキさんは、認知症になったお父様をお母様が激しく叱責することに耐え切れず、相談されました。

実家に暮らす父は何年か前からもの忘れが激しくなり、1年くらい 前からは記憶がすっかり抜け落ちてしまう、認知症の初期症状のようなものが出はじめました。今では得意だった料理さえできません。作りたいという意欲はあるようですが、順番や手順が思い出せないみたいで、変なものをつくるんです。
 
 また、いつ、何の薬を飲んだらい いのか、どうしても理解できず、朝しか飲まない薬を毎食出してみたりして、実際に飲んでしまったこともあります。なかには多量に飲むと意識が低下する血圧の薬も含まれているだけに、気が気ではありません。私は一緒に住んでいないのですが、ときどき長期の休暇をとって実家に戻り、父の 世話をしています。今も実家で父をみているところです。
 
 問題は、介護を担当している母が、父が認知症だとは思いたくない様子で、父が間違えるたびに父のことをきつく怒鳴るんです。それを受けて、父も怒鳴り返し、さらに母が怒鳴る、その繰り返しで実家が荒れています。
 
 私に対して母は、『あんたが認知症でもなんでもないお父さんを認知症扱いして駄目にする』と言います。そして、 『怒鳴ればいつもよりマシになって、シャキッとするの!認知症が改善してくるのよ』と言い張り、 『最終的に介護するのは私なんだから、 よけいな口を出さないで!』と、取りつくしまもありません。
 
 母に怒鳴り続けられるせいで父はストレスがたまるらしく、所構わず怒鳴り散らし、母の悪口を言いますが、実際、母の 助けが必要なのも事実。
 
 いっぽう母は、父が怒鳴り返してくることにさほどストレスは感じていない模様で、『お父さんは重度の認知症になる前に、今わずらっている病気で他界するんだから、何を言ったって問題ないの』とまで言います。このままでは父がかわいそうです。
 
 認知症の人に怒鳴っても構わないのでしょうか? また、怒鳴ったほうがいいという母の意見にどう言い返したらいいのでしょうか?」

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「愛人浮気妄想」で義母に責められ急死した義父

 同様の経験を持つ方から。怒鳴ることが解決にならず、結果として夫婦双方が不幸になってしまった事例が寄せられました。

実家に暮らす義父母のときと似ています。義母に認知症が出たとき、義父の対応が『怒る』でした。これは、叱責されると、一見『まともな返答』をするため、『怒る=刺激になる』と思い込んだようです。 『説教や怒号からは何も生まれないよ』 と言いましたが、最後まで義父には理解できなかったようです。
 
 認知症であっても叱られると不快ですから、症状が進行したりします。義母の場合は徘徊(はいかい)につながり、義父が少しでも目を離すと脱走するという困った状況になりました。義父はちょっとした息抜きの外出もできなくなりました。

 その後、義母に(義父に対する)『愛人浮気妄想』が出て、義父を責めたてるようになり、最終的には義父は疲弊して急死しました。
 
 また、実家の父がアルツハイマーになった時も、やはり母が父に対してキツイ言葉や『またぁ同じこと聞くの? もぅ!』『何度言ったらわかるわけ!』を連発していました。

『何度尋ねても、本人にとってはいつも初めての質問だから、根気よく受けてあげて』と私が頼 んでも、『そんなことをしたら私自身が潰れてしまうでしょ!』と返されました。
 
 私たちが『親の介護』をちょっと客観的に見れるのと違って、『配偶者の認知症』は夫婦にとって本当に大きな問題なのだと思います。
 
 まずは、お母様を追い込まないこと。

 私たちはいろいろ考えて『こうしたらいい』『ああしたらよい』と親のことを思ってアドバイスしますが、子供にアレコレ言われるのは、親にとって、私たちの想像以上にプライドに傷がつくようです。拒否反応が出たら、その場ではそれ以上言わないで、いったん引くことをオススメします。
 
 また、兄弟がいるなら気に入っている子供に話してもらうという手もあります。『娘の言うことは聞かないが、息子の話には耳を傾ける』とか、そういうことですね(うちの母がそう。むかつきますが、兄を通して私の意見を伝えてもらっています)。
 
 親に、認知症の本を渡したり情報を伝えたりして理解を深めてもらおうとしても、そもそも受け入れていないのだから、読まないし、聞きません。ネットで簡単に情報検索できる私たち子世代と違って、情報源が限られている親世代は難しい面がありますね。

 お父様が介護認定を受けているなら、デイサービスやショートステイをうまく利用して、介護者であるお母様に『介護から離れる時間』もつくってさしあげてください。進行してくれば、お母様も認めざるを得なくなるでしょう」

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医者でもない娘から夫が認知症だと決めつけられるのは腹立たしい

 介護者を気遣うことで、関係改善をはかってはどうかというアドバイスも。

あくまでも私の個人的な意見ですが、お母様がお父様を認知症と認めたくない 理由はさておき、認知症と診断されたとしても、態度はさほど変わることはないように思えます。でも、言葉にして言わないだけで、お母様もお父様が認知症であることは薄々感じていらっしゃると思います。
 
 お父様自身も、物忘れが激しくなった、何をどうしたらよいのか結論づけられなくなった等々、自覚し混乱している部分もあると思います。
 
 医療機関でどのように診断されているのかはわかりませんが、アルツハイマーなどの初期の段階だと、認知症の検査の際、急に頭の中が冴えてしっかりとした受け答えできたりしてしまうので、見逃されることもあるのです。なお、早い段階であれば、対応の仕方によっては進行を遅らせることもできます。
 
 お母様は、『最終的に介護をするのは私なんだから、口を出さないで』とおっしゃっているようですが、お母様一人でこの先もお世話をされるのであればなおさら、 認知症を進行させないためにも、専門外来で受診をし、日常生活で注意すべき点や対応など、専門のお医者様からアドバイスを受けておくことは大切です。
 
 お母様が認めたくない気持ちもわからなくはありません。お母様からしてみれば、医者でもない娘から、夫が認知症だと決めつけられるのは、あまりよい気持ちはしないでしょう。それに、はたから見ればひどく映ることもあるでしょうが、 『できることはやらせる』という方法そのものは、とくにまだ軽度の場合は、 あながち間違いではないのです。

 とはいえ、このままだと、お母様の対応次第では進行も進み、介護負担が 重くなるのは目に見えていますから、『進行させないために一度病院でアドバイ スもらったら?』とアドバイスされるのがベストのような気がします。
 
 また、お母様に対して、『お父さんのことも心配だけど、私はお母さんのほうがもっと心配なのよ』と気遣ってあげるとよいと思います。
 
 お母様だって『少しは私のことを心配してくれてもいいでしょ!と思っているでしょうからね」

早く見てもらえればよくなるんだよ、と言っても二人とも信じてくれない 

ありがとうございます。そうですよね、本当は痛いほど現実を知っているのは母のはずですよね。認知症外来に行くのを、母と関係のよい姉を通して勧めてみます

 父は2年前、『おれ、最近頭おかしいんだよ』と言っていたのですが、1年前に会っ たときにはなんだか反応が鈍く、そして今年、私が帰ってきたときは、うつ状態で完全に違う人になっていました。しばらく一緒に暮らすうちに少し軽快しましたが、母には、良くなったとか悪くなったとか、わからないみたいなんです。
 
 私が実家に帰った当初、私が料理したものにも、父は『いらない』とか『もっとう まいものを出してくれよ』とわがまま放題。でも本人に何を食べたいか聞いても、答えないんです。なのに一度飲み込んだものを『うぇー、まずい』と言ってキッチンに吐き出す始末。
 
 でも滞在して3、 4週間経ったころ、やっと『おいしい。ありがとうございました』 と言って箸を置くようになったんです。一人でいることにも少しは慣れて来て、毎日 笑顔を見せるようになったんです。
 
 でもそういった変化も、母にとっては一過性のものと映るらしく、『甘やかさないで。 もっと厳しくしないと!』と言います。確かに私が実家から自宅戻ってしまえば、また父も元どおりになってしまうのでしょう。でも私には、母の気持ちがわかりません。
 
 母は父をどやしつけ、そんな母に父はもう、敵意しか持っていないようです。母も父も、いくら私が『早く対応すれば良くなるんだよ』と言っても、2人とも信じてくれ ないのです。
 
 でも皆さんのお話を聞いて、元気が出ました。なんとか周りから説得してもらって、もしくは父自身を説得して、認知症外来に連れて行こうと思います。本人は嫌がると思いますが……。
 
 もし軽度ですめば、それはそれで親孝行になるわけですから。頑張ります!」

知っておきたい介護の言葉 スピーチ・ロックとは?

 認知症の方に対して、注意しなければいけない対応のひとつが「スピーチ・ロック」です。 これは「言葉による拘束(こうそく)」(speech lock)の意で、介護する人の強い言葉が認知症の方を強くしばりつけることになり、結果として認知症の方に悪い影響を与えることをいいます。
 
 具体的な例としては、「動いたらダメ」「早く食事して」「立ち上がらないで」などの言葉などで、「どうしてそんなことをするの」のように叱責する言葉も含まれます。
 
 このような声掛けは、利用者のBPSD(認知症に伴う行動・心理症状)や不穏な状態を引き起こす原因となるため、声掛けする場合の言葉には注意が必要です。
 
 しかし、どのような言葉が、「言葉による拘束」に該当するかの判断基準はありません。 一般に、人間としての尊厳を傷つけるか否か、人権侵害に当たるか否かで判断されます。
 
*以上は、介護110番の「なんでも相談室」の相談スレッドを書籍化した『母がおカネを隠します。』に掲載された実際の相談事例です。
 
文/まなナビ編集室 写真/fotolia

初出:まなナビ

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