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老いる日本、15年後には道路橋の60%以上が築50年越えに

 日本はどんどん老いている。昨年度の『高齢社会白書』によれば、日本総人口のうち65才~74才の前期高齢者は13.9%、75才以上の後期高齢者は13.3%に達している。しかし、老いていくのは国の構成員だけではない、国中の社会インフラも一緒に老いていっているのだ。首都大学東京・都市環境学部教授の小根山裕之先生は「交通網は国土の骨格。それを支える道路の老朽化は大問題になる」と指摘する。

老朽化する社会インフラ。20年後は維持管理も無理に?

『国土交通白書』(平成21年度版)より

 上のグラフは、小根山先生が講師を務める首都大学東京の公開講座「大都市東京の交通─10年後、20年後を見据えた交通のあり方を考える」の中で、社会インフラの老朽化と財政のひっ迫している状況を示すものとして紹介された。

 これは、社会インフラの維持管理や更新に2010年以降どれくらいのコストが必要になってくるのか、また、どれくらいの費用を新規の建造にかけられるかを図示したもので『国土交通白書』(平成21年度版)に掲載されている。

 グラフによれば、2010年度までは維持管理・更新費用は投資総額の半分以下に収まっているが、年を重ねるにつれ膨れ上がり、2037年度時点で維持管理・更新費用が投資総額を上回ってくる。ちなみにこの時点では、2011年度から2060年度までの50年間に必要な更新費は約190兆円と推計されており、この190兆円のうち不足分は約30兆円にものぼるという。

 つまり社会インフラを新しく造る経済的余裕がないだけではなく、老朽化する社会インフラの維持管理や更新にも予算が不足し、壊れているのに直せない、もちろん新しく作るのも無理、という状況に早晩陥ってくるというのである。

 もし早期発見や早期改修といった保全活動に今以上に取り組んでいけば、2060年度までの50年間に必要な更新費は約6兆円と大幅に減少し、維持管理・更新費が投資可能総額を上回る時点も2037年から2047年度まで10年延びるという。

15年後には道路橋が60%が50年超に

「もちろん維持管理にはお金がかかります。しかしだからといってそれを渋っていると、維持管理や更新もできないという事態に、ここ20年くらいで陥る可能性があるのです。そうなると新規事業に資金を投下する余裕などなくなります」と小根山先生。

 こうした社会インフラの老朽化を具体的に示す図が次の図だ。

50年以上経過する構造物の割合 (c)oneyama

 上は「50年以上経過する構造物の割合」を、道路橋とトンネルについて調べて棒グラフ化したものだ。平成25年(2012)、35年(2022)、45年(2032)と10年ごとに道路橋とトンネルが老朽化していく様子がよくわかる。

 2012年の時点ではできてから50年を経過した道路橋やトンネルは、全体の20%以下に過ぎなかったのに、今から15年後の2032年には道路橋の60%以上が50年以上を経過してしまうのである。

 なぜこんなにも集中的に老いていくのだろうか。そこには日本独自の理由があるという。

高度経済成長に一気に作ったものが一気に老いる

「日本独自の事情として、高度成長期に一気に発展が進んでしまったことが挙げられます。戦後、大都市の多くは焦土と化し、インフラが破壊された状態から復興がスタートしました。そこから一気にインフラ整備が進み、とくに1955〜73年の約20年にわたる高度経済成長期に現在につながるほとんどのインフラが出来上がったのです。

 とくに1964年の東京オリンピックの年に首都高速道路が開通して以降、高速道路が全国を結んでいきます。
〔関連記事〕「メガシティ東京、60年の驚きの発展史がひとめでわかる!

 こんな短期間に経済発展や社会基盤の発展を遂げた国というのは、世界でもあまり例がなく、それがために道路も橋もトンネルも10年20年経つごとに一気に年を取っていくのです」 

 では、ほかの国ではどうなのだろうか。1月24日、アメリカのトランプ大統領はインフラに10年間で1兆7千億ドル(約185兆円)を投じると発表した。アメリカも相当インフラが傷んでいるということだろうか。

「アメリカは1980年以前に社会インフラへの投資を相当減らしたんです。その間に道路施設をはじめとするインフラが相当傷んだといわれ、『荒廃するアメリカ』といった言葉も生まれました。2007年にはミシシッピ川にかかっていた高速道路橋が落橋し、60台以上の車が川に転落、9人死亡、100人以上が負傷する事故も起きています。維持管理が必要だという点は世界中どこも同じです。ただ日本の場合は、これが一気に来る、しかも少子高齢化・人口減少と一緒になってやってくる、というところが厄介なのです」(小根山先生)

税収が減る中で《選択と集中》が迫られる

 日本の人口は現在、1億2,693万人(総務省「2016年10月1日現在の人口推計」による)。2010年から6年連続で減少を続けており、このまま少子化が進めば2053年には1億人を割るとの推計も出ている。一方で高齢化が進み、65才以上の高齢者は3514万人で総人口の27.7%を占める。

 日本の中でも数少ない人口増加自治体である東京を見てみても、 2020年には多摩・島しょ地域で、2030年には区部でも人口が減り始めるという。労働人口が減るということは税収が減ることにつながる。財政が厳しくなる中、求められるものは何だろうか。

「急がれるのは保全技術の開発です。そしてもう一つ、都市部であってもどこを撤退するかを考えなくてはならなくなってくるでしょう」(小根山先生)

 日常の便利な暮らしを支える社会インフラ。その維持に多くの国民が関心を持つことがまず必要だろう。

小根山裕之
おねやま・ひろゆき 首都大学東京・都市環境学部教授
平成7年、東京大学大学院工学系研究科土木工学専攻修士課程修了、建設省土木研究所環境部交通環境研究室研究員、東京大学生産技術研究所助手、国土交通省国土技術政策総合研究所企画部課長補佐を経て、平成16年東京都立大学大学院工学研究科助教授、平成17年首都大学東京都市環境学部准教授、平成24年同教授。専門は交通工学、道路交通環境、交通計画。著書に『道路環境影響評価の技術手法』『「交通渋滞」徹底解剖』『都市の技術』など(いずれも共著)。博士(工学)

◆取材講座:「江戸・東京の「まち」と「ひと」シリーズ~大都市東京の交通 10年後、20年後を見据えた交通のあり方を考える」(首都大学東京オープンユニバーシティ)

取材・文・写真/まなナビ編集室(土肥元子) 図版/小根山裕之氏提供

初出:まなナビ

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