健康

高齢者の体重減少は、怖いフレイル・サイクルの入り口かも

 人生100年時代がすぐそこまで来ている今、老後の生活設計や生活の質に大きな影響を与えるのは、健康でいられるかどうかだ。日本の平均寿命は男性80.98年、女性87.14年と世界でもトップクラスだが、残念ながらその最後の10年前後は、人の手を借りなければ日常生活が送れない、不健康な期間となっている。その前段階ともいえるのが、近年大注目を浴びつつあるフレイルだ。いったいどういう症状が出るのか。昭和大学公開講座で同大学藤が丘リハビリテーション病院の川手信行准教授が詳しく解説する。

フレイルって何? その基準は?

 とくに大きな病気やケガがなくても、高齢者が徐々に歩けなくなったり動けなくなったりするのは、加齢とともに筋力が痩せてゆき、心身の活力も低下していくことが大きな原因だ。まだ要介護状態にはなっていないが、そうなりそうな状態、それをフレイルと呼ぶ。

 次の5つが「フレイル」の基準だ。この5つのうち1つでも当てはまればフレイルの前段階である「プレフレイル」、5つのうち3つ以上当てはまれば「フレイル」とされる。

(1)体重減少
1年間で体重が4.5㎏以上減っている。もちろんもともとの体重が軽い人は、減少量がもっと少なくてもフレイルにあてはまることがある。

(2)著しい疲労感の自覚
自己評価で「先月頃よりいつも以上に疲労感があるなあ」「ここひと月で弱くなったなあ」と感じている。

(3)(握力などの)低下
握力(握力計で簡単に測ることができる)がおよその目安は女性で17~18㎏未満、男性で29㎏未満。

(4)歩行速度の低下
1メートル歩くのに1.5秒以上かかっている。

(5)活動レベルの低下
これは生活活動量などを総合的に判断して評価する。

フレイル・サイクルにはまったら、やがて寝たきりに

 1つでもあてはまるとなぜ怖いのか。それは、次のようなフレイル・サイクルにはまってしまいかねないからだ。

 活動量が低下する→エネルギー消費量が低下する→お腹が空かなくなり食べる量が減る→体重が減り低栄養状態になる→筋肉量が低下する→活動量が減る……こうした悪循環がフレイル・サイクルだ。

 筋肉や骨量はただでさえ加齢によって低下するのに、活動量の低下や低栄養状態がその減少に拍車をかけてしまうのである。その先に待っているのは、寝たきりだ。

 その先に待っているのは、寝たきりだ。

「ちょっと歩くとくたびれるようになった」「体重がどんどん減っていく」「歩くのが目に見えて遅くなった」……こういう症状が自分や家族に現れたら、「年を取ったんだから仕方ない」で済まさないで、近くの医療機関を受診したり、心がけてしっかり活動量を増やしたほうがよいだろう。

動かないことは危険「不動・廃用症候群」

 フレイルでなくとも、高齢者は、病気やけがで、安静状態でいなければならない場合が多くなる。そこで注意しなければならないのが不動・廃用症候群だ。これは、動かない・動かせない状態が長期間にわたって続くことで生じる2次的な障害である。

 寝たきりになると、褥瘡(じょくそう)といって、ベッドや布団と接している部分が体重によって圧迫されて深い傷になることがある。床(とこ)ずれともいうが、これは不動・廃用症候群のひとつだ。

 不動・廃用症候群は必ずしも老化だけがきっかけではない。たとえば骨折をしてギブスをはめていると関節が固まって動かなくなることがあるが、これも不動・廃用症候群のひとつだ。

 また、飛行機のエコノミークラスの狭い座席に長時間座っていると足や下腹部の静脈に血栓ができ、この血栓が肺につまって呼吸困難やショックを起こす「エコノミークラス症候群」を起こすことがある。原因となる血栓を作ってしまう深部静脈血栓症もまた、不動・廃用症候群のひとつなのだ。ちなみにエコノミークラス症候群は、長時間同じ姿勢を取り続けて下肢がうっ血することで起こるので、エコノミークラスだけでなく、ビジネスクラスでも起こりうるし、長距離長時間運転などでも起こる。

 そう考えると、高齢者はもちろんだが、若い人も十分に注意しなければならないものが、この不動・廃用症候群なのだ。

 ちなみに不動・廃用症候群には、次のようなものがあるという。

関節拘縮、筋萎縮・筋力低下、褥瘡、骨萎縮・骨粗しょう症、起立性低血圧、深部静脈血栓症、尿路感染症、精神機能低下

 川手先生は「人間は動くもの。動かなくなると途端に骨や筋肉が減ってきます」と言う。とくに筋肉が落ちやすいのは、足のあの部分だ。これについては「つまづく、転ぶ。それは、あそこの筋肉が衰えてきたから」で解説。

昭和大学藤が丘リハビリテーション病院リハビリテーション科の川手信行准教授

◆取材講座:「生活の中での体力づくりとは?─活動を大切に─」(昭和大学公開講座/昭和大学藤が丘病院)

取材・文/土肥元子(まなナビ編集室)

初出:まなナビ

ニックネーム可
入力されたメールアドレスは公開されません
編集部で不適切と判断されたコメントは削除いたします。
寄せられたコメントは、当サイト内の記事中で掲載する可能性がございます。予めご了承ください。

最近のコメント

シリーズ

介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
神田神保町に誕生した話題の介護付有料老人ホームをレポート!24時間看護、安心の防災設備、熟練の料理長による絶品料理ほか満載の魅力をお伝えします。
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
老人ホーム(高齢者施設)の種類や特徴、それぞれの施設の違いや選び方を解説。親や家族、自分にぴったりな施設探しをするヒント集。
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
話題の高齢者施設や評判の高い老人ホームなど、高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップ。実際に訪問して詳細にレポートします。
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
介護食の基本や見た目も味もおいしいレシピ、市販の介護食を食べ比べ、味や見た目を紹介。新商品や便利グッズ情報、介護食の作り方を解説する動画も。
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の困りごとの一つに“ニオイ”があります。デリケートなことだからこそ、ちゃんと向き合い、軽減したいものです。ニオイに関するアンケート調査や、専門家による解決法、対処法をご紹介します。
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
話題のタレントなどの芸能人や著名人にまつわる介護や親の看取りなどの話題。介護の仕事をするタレントインタビューなど、旬の話題をピックアップ。
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護保険制度の基本からサービスの利用方法を詳細解説。介護が始まったとき、知っておきたい基本的な情報をお届けします。
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
数々ある介護のお悩み。中でも「排泄」にまつわることは、デリケートなことなだけに、ケアする人も、ケアを受ける人も、その悩みが深いでしょう。 ケアのヒントを専門家に取材しました。また、排泄ケアに役立つ最新グッズをご紹介します!