健康

胃がん発症者の99%がピロリ菌に感染。その感染ルートと対策は?

ピロリ菌は慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、胃がんを引き起こす

 日本人の多くが感染しているピロリ菌。いったいどういった経路で感染するのだろうか。また、夫婦間・家族間で感染するものなのか。そして、どのような形で診断し、除菌するのだろうか。日本医科大学病院で開催された講座「ピロリ菌と胃がん-最近の話題」(2017年11月4日開催)で、日本医科大学消化器内科学教授で同大付属病院内視鏡センター長の貝瀬満先生はわかりやすく講義した。(前の記事「胃がん患者のピロリ菌感染率は驚愕のパーセンテージ」)

ピロリ菌の感染ルートは不明だがおそらく口から?

 日本は先進国の中でも珍しくピロリ菌の感染率の高い国として知られている。では私たちは、ピロリ菌にどのようにして感染するのだろうか。

 貝瀬先生は、「ピロリ菌は胃の中だけに棲息している菌です。また、感染経路はまだ明確にはなっていないのですが、胃の中にいることから、口から感染していることは確かです」と語る。

 ピロリ菌は、人間の体内でも胃以外には棲息していないという。しかしごくたまに何らかの原因で大腸に移動することがある。大腸の中では活動できずに球状になり、いわば休眠状態になる。こういう状態で便の中に含まれることがある。また、口の中にもいないが、たとえば嘔吐をしたりゲップをしたりして、胃から上がってくることがまれにある。

 そのため感染ルートの可能性としては、以下のことが考えられる。

■幼児期に母親から離乳食を口移しで与えられていて、その時母親の口の中に何らかの原因でピロリ菌がいた場合(口口(くちくち)感染)。
■休眠状態のピロリ菌を含む糞便が入った水や食べ物を口にした場合(糞口(ふんこう)感染)。
■そのほか、今は絶対にありえないが、かつては消毒が不十分な胃カメラによる医原性のピロリ菌感染もあったという。

通常、口にも唾液にもピロリ菌はいない

 ピロリ菌に感染するのは小児期だ。だいたい1~2歳以内、遅くとも5歳以内に感染するという。大人になってからは感染しないが、幼時に感染すると、感染状態がずっと続く。

 ピロリ菌にはさまざまな種類があるが、たとえば両親と子供の3人家族で全員がピロリ菌に感染している場合、父親と母親のピロリ菌は種類が異なることが多いが、母親と子供では8割から9割がた同じ種類のピロリ菌であるという。そこから離乳食を口移しで与えることなどが濃厚に関連している可能性が指摘されている。

 しかし先にも書いたが、通常、口の中や唾液にはピロリ菌はいない。また、大人になってから感染することも非常に少ない

 そのため、配偶者間で感染することはほとんどないし、衛生環境がよくなってきた今、若年層での感染は非常に減ってきているので(前の記事「胃がん患者のピロリ菌感染率は……驚愕の%」参照)、あまり神経質にならないほうがよいだろう。

ピロリ菌の感染診断、体の負担にならない方法も

 さて、ピロリ菌に感染しているかどうかは、どうやって調べるのだろうか。

 感染診断法には、大きく分けて2つあり、内視鏡(胃カメラ)を使って胃の粘膜をとって診断する侵襲(しんしゅう)的診断法と、内視鏡を用いない非侵襲的診断法がある。

 内視鏡を使うことなく診断できる方法には、次のものがある。

■尿素呼気試験法 薬を服用し、服用前後の息に含まれる二酸化炭素の増加で診断するもの
便中抗原法 便を採取し、その中に含まれるピロリ菌の抗原の有無を調べるもの
血清抗体法や尿抗体法 血液や尿を用いてピロリ菌に対する抗体をし調べるもの。

 このうち内視鏡検査、尿素呼気試験法、便中抗原法は、ピロリ菌がいま現在いるかどうかを診断する方法。かつて感染していたが今は除菌していない、というケースではひっかからない。

 しかし、血液抗体法や尿抗体法は、過去感染していて今はいなくなった場合でもひっかかるので、注意が必要だと貝瀬先生は指摘した。

 いずれにせよ、内視鏡が怖いという人も息を吐くだけで調べられる検査があるので、まだ検査をしていない人は調べておいたほうがよいだろう。

ピロリ菌除菌で保険適用になるケースは

 ピロリ菌の感染が確認されたら、除菌となる。2013年春からピロリ菌除菌治療の保険適用が拡大され、慢性胃炎のケースも保険で除菌できるようになった。

 しかし、大事な点がある。必ず内視鏡またはバリウム検査で慢性胃炎だと診断されていることが必要だ。つまり、上で紹介した尿素呼気試験法や血液検査などでピロリ菌感染が確認されただけでは保険適用とならないのだ。

 ピロリ菌に感染していると、ほとんどすべてと言っていいほど慢性胃炎を起こしているので、必ず内視鏡検査またはバリウム検査を受けてほしい。

ピロリ菌除菌は薬を飲むだけ

 ピロリ菌の除菌は薬を7日間飲むだけだ。だいたい1次除菌で80%~90%の人が除菌に成功する。

 これで除菌できなかった場合は2次除菌を行う。そのうちの90%が除菌に成功する。つまり、1次と2次でほぼ98%~99%の人が除菌できるのである。ここまでは保険適用だ

 しかし、抗生物質に強いピロリ菌(耐性菌)を持っている人は2次除菌でも除去できない。そこで行われるのが3次除菌だが、これは自費となる。

 貝瀬先生は、除菌後に必ずピロリ菌が本当にいなくなったかどうかを確認してほしい、という。その時に血清抗体法や尿抗体法では、過去に感染しているために陽性と出てしまうので、尿素呼気試験法や便中抗原法で確認する必要がある。

 除菌成功が確認できたら、成人が再感染することはまれ(0.2%くらい)なので、検査を繰り返す必要はない。しかし、必ず胃カメラは1年に1度受けてほしいという。

必ず胃カメラ(内視鏡検査)は1年に1回は受けてください。ピロリ菌に感染していると胃がんになる可能性があるのです。実際、ピロリ菌除菌後3年たって胃がんを発症した人もいます。除菌することで発症リスクを下げることはできますが、0(ゼロ)にはできないのです

次回は「「ピロリ菌を除去すると逆流性食道炎になる」はどこまで正しい?

 

◆取材講座:第38回胸やけ・べんぴ・おなかの問題教室「ピロリ菌と胃がん-最近の話題」(日本医科大学付属病院 )

文/まなナビ編集室 医療・健康問題取材チーム

※初出:まなナビ

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