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介護施設訪問レポート|神楽坂の高齢者を支える高齢者総合福祉施設<後編>

 高齢者向けの住宅の中から、話題の施設をピックアップ。記者が訪問し、施設で働く人の思い、設備、サービスなどをレポートする。今回は、東京都新宿区にある高齢者総合福祉施設「神楽坂」だ。

高齢者総合福祉施設「神楽坂」

 東京・神楽坂で地域の高齢者に福祉サービスを提供している高齢者総合福祉施設「神楽坂」。無料で開放している地域交流スペースとデイサービスを紹介した前編に続き、後編では、特別養護老人ホームと認知症高齢者グループホームについて紹介していく。

→前編を読む

ノーリフティングケアを導入。生活の継続を意識した特別養護老人ホーム

 高齢者総合福祉施設「神楽坂」は9階建てで、そのうち4階から8階を特別養護老人ホーム(特養)が占めている。定員は86名で、9~10人を一つのユニットとした個室ユニットケア型となっている。ユニットケアとは、少人数のグループを1つのユニットとし、決まったスタッフがケアにあたる形式のことで、利用者一人ひとりを尊重する個別ケアの介護手法だ。

 利用者または主に介護を担っている人が新宿区民であり、原則として要介護3以上の認定を受けていることがこちらの利用条件。要介護1・2の人は、「やむを得ない事情により、特養以外での生活が著しく困難であると認められる場合に限り、特例的に入所検討対象となる」と区が定めている。

「全室にトイレと洗面台がついていて、介護度に関わらず、できるだけ今までの生活を継続していくことを目指した支援を提供しています。ショートステイのご利用から特別養護老人ホームの利用に繋がることもあります。その場合は場所にも慣れていますし、スタッフとも顔見知りなので、ご本人はもちろん、ご家族にも安心感があると思います」(高齢者総合福祉施設神楽坂施設長の稲田純一さん 以下「」は同)

 ここでは入浴時やベッドから車椅子に移る際などに、利用者の身体を介護スタッフが持ち上げない「ノーリフティングケア」を取り入れている。これはオーストラリア看護連盟が看護師の腰痛予防のために提言したもので、危険や苦痛の伴う人力のみの移乗ではなく、福祉用具を使用した移乗を行うことを目指すものだという。

 介護スタッフの腰痛予防になるだけではなく、利用者にとっても抱え上げられていた時に生じていた痛みや恐怖が軽減されるなど、心身の負担が少ないケアの方法だそうだ。接触が減ることによって肌の弱い利用者の皮膚を守ることにつながったり、緊張による身体の強張りがなくなることで関節の可動域が広がり、姿勢が良くなるといった効果も期待できるそうだ。


家庭的な雰囲気の認知症高齢者グループホーム

 3階のグループホームは全室個室で定員18名。医師から認知症の診断を受けていて、要支援2以上の認定をされている新宿区民が入所対象だ。こちらも特養と同じように、9人を1つのユニットとし、家庭的な雰囲気のなか個室で生活している。グループホーム内の人間関係だけに閉じてしまうのではなく、家族や昔からの友人など外の人間関係を大事にし、心の健康を意識した支援を行っているという。

「身体的な介助中心ではなく、いかにして家族と暮らすような生活を過ごして頂けるかを考えた運営をしています。神楽坂という恵まれた場所にありますので、周辺環境を活かして、スタッフと一緒に散歩をしたり、買い物に行くこともあります」

地域の高齢者を支える総合福祉施設として

 事業主体の社会福祉法人「三篠会」の出発点は、1952年に寺の境内に開いた保育園。その後も日本初の聴覚障害者専用養護老人ホームや視覚障害者専用ケアハウスを運営するなど、社会福祉の課題に真摯に取り組んできたという。ここ神楽坂の施設もその伝統を脈々と受け継ぎながら、地域に合わせて進化を遂げている。

 2017年8月には新宿区と「災害時における福祉避難所の開設及び運営に関する協定」を締結したという。これは、万一の自然災害時に利用者の安全を守り、静かな生活を継続できるようにするためのものだ。

「地域の高齢者のために総合的な機能を有しているので、一人ひとりの状況に合わせたサービスを選んで利用いただけます。在宅で元気に生活している方はデイサービス、認知症の方はグループホーム、身体介助が必要になってくれば特養で受け入れができます。様々な状況に対応できますので、介護のことで相談に来ていただければ、何かしらの対応ができると思います」

 地域福祉の担い手として信頼を集める高齢者総合福祉施設「神楽坂」。同じような施設に対するニーズがますます高まっていくなか、こちらの取り組みは今後作られる施設のお手本になっていきそうだ。

撮影/津野貴生 取材・文/ヤムラコウジ

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【データ】
施設名:高齢者総合福祉施設「神楽坂」
公式WEBサイトhttp://www.misasakai.or.jp/shisetsu/kagurazaka.php
所在地:東京都新宿区矢来町104
最寄駅:東京メトロ東西線「神楽坂」駅から徒歩2分
類型:特別養護老人ホーム、ショートステイ、認知症高齢者グループホーム、デイサービス、居宅介護支援事業所
事業主体:社会福祉法人三篠会
敷地面積:1541.68平方メートル
延床面積:5617.6平方メートル
室数:特別養護老人ホーム定員86名、ショートステイ定員9名、認知症高齢者グループホーム定員18名、デイサービス定員30名、居宅介護支援事業所
入居要件:特別養護老人ホーム・介護保険制度の要介護状態区分の要介護3~5で、いつも介護を必要とし、ご自宅で介護を受けることが難しい方
構造:鉄筋コンクリート造地上9階建て
開設年月日:2011年2月1日
料金:特別養護老人ホーム(要介護1・1割負担の場合)
1日あたりの介護費用922円、居住費820円、食費300円、利用料2042円
料金は要介護度、収入状況等で変動するため、詳細はお問合せください。

※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。

●医療依存度の高い高齢者が最期まで過ごす医療連携型の有料老人ホーム<前編>

●終末期の高齢者が快適な最期を過ごせる住宅型有料老人ホーム<後編>

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