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『半沢直樹』が帰ってくる!総集編でおさらい、チェックしたい新シリーズの見所

 堺雅人主演『半沢直樹』の新作が7月19日からスタート、それにさきがけて7月5日、12日と2夜にわたって、前作の「特別総集編」が放送される。『半沢直樹』を待ちながら「日曜劇場研究」を連載してきた近藤正高さんがいよいよ本丸に斬り込んで行く。待たされた分、期待も膨らんでいる。ぜひ倍返ししてもらいたいものだ。まずは「特別総集編」観賞の手引として、前作放送時、2013年の世情、ドラマ事情を振り返りながら、池井戸ドラマの魅力を考察する。

→コロナ延期のドラマ半沢直樹を待ちながら【月曜だけど日曜劇場研究】第1回

『半沢直樹』からは「倍返し」、『あまちゃん』からは「じぇじぇじぇ」

 今夜9時からTBS系で『半沢直樹 特別総集編』が2週にわたって放送される。これは、7月19日より始まる『半沢直樹』新シリーズを前に、7年前の7〜9月に放送された前作を前後編に分けて振り返るものだ。前作はこれまで再放送も配信もされてこなかっただけに、多くの人にとっては久々の半沢との再会になるだろう。

 前作が日曜よる9時台の「日曜劇場」で放送された2013年夏から秋にかけては、エンターテインメント界が色々と盛り上がっていた時期である。テレビドラマでは『半沢直樹』と並んでNHKの朝ドラ『あまちゃん』がヒットしていた。2つの作品はまったく性格は異なるが、見たあとで誰かと話題にせずにいられない、視聴者の心に引っかかるような要素が毎回用意されていた点で共通する。『半沢直樹』からは「倍返し」、『あまちゃん』からは「じぇじぇじぇ」と、それぞれ流行語が生まれたことはその何よりの証しだろう(いずれも同年の新語・流行語大賞に選ばれている)。すでにツイッターなどSNSが普及しており、放送時には実況や感想、考察などもファンのあいだで盛んに交わされた。

 さらにあの時期を振り返ると、映画界では、7月に公開された宮崎駿監督の劇場アニメーション『風立ちぬ』がヒットしている。宮崎監督はこのあと9月1日に長編映画制作からの引退を発表して注目された。2020年のオリンピックの東京開催が決定したのはその6日後のこと。IOC総会での投票を前に最終プレゼンテーションを行なったキャスターの滝川クリステルの「お・も・て・な・し」も流行語となった。 

 10月にはスタートから31年を迎えた『笑っていいとも!』が、翌年3月末をもって終了すると、司会のタモリの口からあきらかにされた(ちなみに『半沢』主演の堺雅人とタモリは同じ事務所に所属する)。さらに11月には、宮崎駿とともにスタジオジブリの屋台骨を担ってきた高畑勲監督が、結果的に生涯最後の作品となる『かぐや姫の物語』を公開している。このように『半沢直樹』前作が放送された前後は、話題に事欠かない時期であった。

 あれから7年。予定どおりにいけば開催まであと3週間を切っていたはずのオリンピックは、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大のため1年延期された。他方、『半沢直樹』は前作の最終回で続編がほのめかされながらも、その後長らく告知がなく、もう実現しないのではないかとさえ一部では噂された。それだけに昨年ようやく続編が発表されるとファンを喜ばせたが、いざ制作に入った矢先、やはりコロナの影響で撮影が中断、結局予定より3ヵ月遅れでのスタートになった。

池井戸潤原作ドラマの魅力

『半沢直樹』の続編が待たれていたあいだ、「日曜劇場」では同じく作家の池井戸潤原作によるドラマがあいついで放送されてきた。2014年には電子部品メーカーの野球部が舞台の『ルーズヴェルト・ゲーム』(唐沢寿明主演)、2015年と2018年には小さなバルブメーカーがロケットエンジンなどに挑む『下町ロケット』(阿部寛主演)、2017年には老舗の足袋屋がマラソンシューズ開発に乗り出す『陸王』(役所広司主演)、そして昨年には自動車メーカーのラグビー部の再建を描いた『ノーサイド・ゲーム』(大泉洋主演)が放送されている。

 これら一連の作品は、いずれも企業が舞台で、弱い立場にある主人公側が圧倒的な力を持つ集団に立ち向かい勝利する逆転劇だった。各作品の主人公はそのため、自分と同じ集団に属する一人ひとりをまとめあげ、形成したチームを主体として困難に挑み、その結果として敵を打ち負かす。そう考えると、『半沢直樹』はこれら作品とかなり色合いを異にすることに気づく。本作においては、主人公の半沢にはそのときどきで協力者は出てくるものの、戦う主体となるのはあくまで半沢という個人だからだ(タイトルが個人名なのはそのあたりも反映しているのだろう)。そこには半沢の個人的な事情がかかわっている。

 そもそも半沢が銀行に入る発端は、彼がまだ少年だったころ、町工場を営んでいた父親(劇中では笑福亭鶴瓶が演じている)が銀行から融資を受けられず破産、それを苦にして自殺してしまったことにまでさかのぼる。ここから半沢は、あえて父を死に追いやった銀行(大手メガバンクの東京中央銀行)に入行し、銀行を変えようともくろんだのだ。ようするに一種の復讐心が、銀行員としての彼のモチベーションになっているわけである。

『半沢直樹』のあとの池井戸ドラマは、チームワークで敵を打ち負かすことで視聴者は快感を抱いた。だから後味がいい。『半沢直樹』もまた、半沢が最後の最後で敵を従わせる展開はたしかに痛快ではあった。“顔相撲”とも呼ばれたように登場人物たちの駆け引きを表情で表したり、敵役に土下座をさせてみたりと、大げさともいえる演出によって復讐劇を見事にエンターテインメント化していた。ただ、その根底には常に半沢個人の恨みがあると思うと、どこかすっきりしないところが残る。銀行を変えるという彼の最大の目的も、達成までにはまだまだ遠い。ほかの池井戸ドラマでは、たとえどんなに困難な目的であっても、比較的短いスパンで立てられており、最後には必ず達成が待っていたから、その点でも『半沢直樹』は一線を画している。

 もともとこのドラマは、TBSの福澤克雄監督が、池井戸に原作使用の許諾をとるにあたって「半沢が頭取になるまで僕にやらせてください」と頼み込んだところから始まっている。今回の新シリーズも、そんな壮大な物語の、まだほんの序章にすぎないともいえるのではないか。

新シリーズキャストにも期待

 主演の堺雅人にとって半沢は当たり役となった。堺といえば、顔に笑みを浮かべながらも、ときに怒りや悲しみといった感情をも込める演技が印象的だが、それは複雑な事情を背負った半沢というキャラに見事にハマった。そんな半沢の脇を固めるキャストも個性派ぞろいであった。とりわけ、彼の最大の敵役である東京中央銀行の大和田常務に扮した香川照之は、見事なヒールっぷりを見せて、堺にとっての半沢と同様に当たり役となる。香川は今回の新シリーズにも、同銀行の中野渡頭取役の北大路欣也、金融庁の主任検査官・黒崎役の片岡愛之助などとともに、前作に引き続き出演する。

 新シリーズから登場するキャストにも注目すべき演者が多い。たとえば、銀行内で大和田の愛弟子と呼ばれたという証券営業部長の伊佐山の役には、市川猿之助が起用された。大和田役の香川照之とはいとこ同士での共演ということになる。両者は「日曜劇場」ではすでに昨年放送の『集団左遷!!』で、香川がレギュラー、猿之助が1エピソードのゲストとして共演を果たしているとはいえ、今回はいずれもレギュラー入り、それも近い関係にある役での共演となるとやはり注目せざるをえない。もともと「日曜劇場」、とくに池井戸ドラマでは歌舞伎界からの出演が目立つが、今回も愛之助や猿之助のほか、尾上松也がIT企業「Spiral」の社長役で出演する。その部下のひとりに、ミュージカル界のトップスターである井上芳雄がキャスティングされているのも、何とも豪華だ。ミュージカル界からは前作では石丸幹二が半沢の敵役として登場し、好演していただけに期待が高まる。

“顔相撲要員”(?)としては、とくに東京中央銀行の副頭取として登場する古田新太と、半沢の出向先である東京セントラル証券の役員のひとりを演じる池田成志と、小劇場出身の2人がどんないやらしい表情を見せてくれるのか楽しみだ。小劇場演劇の世界からはこのほか、劇団「MONO」代表の土田英生、「拙者ムニエル」の看板俳優・加藤啓などが新たなキャスト陣に加わった。

 前作もそうだったが、全体的に女性キャストが少ない『半沢直樹』にあって、東京セントラル証券の若手社員役として今田美桜が、今年1月に放送されたスペシャルドラマ『半沢直樹II・エピソードゼロ〜狙われた半沢直樹のパスワード〜』に引き続き出演するほか、IT企業「電脳雑伎集団」の副社長にして社長夫人の役で南野陽子も登場する。ナンノがどんな女帝ぶりを演じるのかも見どころだろう。

 こんなふうに配役を見ただけで期待が高まる新作だが、放送はまだ2週間先のこと。ひとまず、今週と来週の総集編で、半沢のこれまでの歩みとその世界観をチェックしてみることとしよう。

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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