健康

突然死の恐れも!「腹部大動脈瘤」を救う最新治療とは

「大動脈瘤の手術は、今でも最も難しいと言えます」と、ニューハート・ワタナベ国際病院の総長で心臓外科医の渡邊剛先生は言う。渡邊先生率いるチーム・ワタナベは15年前に大動脈瘤の新しい手術法を開発。開院以来の心臓手術成功率は99.6%を誇る。

 そこで世界のベストドクターにも選ばれる渡邊先生に「今でももっとも難しい手術」という大動脈瘤の手術と、現在主流になりつつある新たな治療法「ステントグラフト内挿術」について解説してもらった。

→「腹部大動脈瘤」は破裂すると致命的… 原因、予防法を名医が解説

 * * *

大動脈瘤が4.5㎝以上の場合は外科的処置必要

 そもそも大動脈瘤は薬では治療できない病気だ。瘤の直径6cm以上になると破裂のリスクが高くなるため、4.5cm以上にふくらんだ段階で手術などの外科的処置をすることになる(4.5cm以下の場合は経過観察)。

 1960年代以来、標準的な治療法として採用されてきたのが「人工血管置換術(じんこうけっかんちかんじゅつ)」

 お腹を切り開き、瘤ができた部分の血管を切除して、代わりに人工血管を縫いつける手術だ。

「血管と人工血管を直接つなげるため、例えば体を活発に動かすなどしても、血管のつなぎ目から血液がもれないことが手術の最大の利点です。このため、若い人や活動量の多い人に向いている方法と言えます。また、人工血管は劣化しにくいため、再手術はほぼ必要ありません」(渡邊先生、以下「」内同じ)

 ただしデメリットもある。開腹するため傷口が大きく、入院期間が長くなることだ。身体への負担が大きいため、力の乏しい人や高齢者には向いていない。また、以前におなかの手術を受けた人は内臓などに癒着が見られることがあるため、推奨されない。

●人工血管に置き換える手術
【メリット】
血管のつなぎ目から血液がもれない。
【デメリット】
開腹手術のため、入院期間が長くなる。

最近の第一選択肢「ステントグラフト」とは

 1990年代から欧米で始まったのが「ステントグラフト内挿術」だ。

 この治療法では「ステントグラフト」という器具を使う。これは「ステント」といわれるバネのような骨格と、それをカバーする「グラフト」という人工血管からできたものだ。ステントグラフトには直径8mmほどから4cmほどのものがあり、形状も曲がったもの、下側が二股に分かれた逆Y字型のものなど、さまざまなタイプがあり、医師が患部に合わせて選択する。

 ステントグラフトはきつく巻いた状態でカテーテルというプラスチック製チューブの中に収められる。

 医師は足のつけ根などに5mm~1cmほどの小さな穴を開け、そこからカテーテルの先端を入れ、レントゲン画像で確認しながら血管の中にカテーテルを通していく。カテーテルが患部に到達したら、仕込み杖のような要領でステントグラフトを送り出す。ステントグラフトはバネの力で広がり、内側から血管を補強して破裂を予防するという仕組みだ。

「ステントグラフト内挿法は全身麻酔をしなくてすみます。傷が小さい分、身体への負担が少ないので高齢者や体力のない人にも適用しやすいのも利点です。

 最近ではステントグラフトが大動脈瘤治療の第一選択肢になるほど多くなってきています。ただし、瘤ができている場所が血管の分岐点に近いなどステントグラフトが使いにくい場合や、血管が激しく傷んでいて、患部までカテーテルを通すのが危険な場合はこの方法ではなく、人工血管置換術を採用します」

 血管内にステントグラフトを留置すると血管の壁にかかる力が弱くなり、瘤が自然に小さくなるケースもある。その一方で、ステントグラフトは血管にただ置いてくるだけなので、血管壁とステントグラフトの間から血液がもれてしまう可能性がある

 また、15~20年ほど使用しているとバネ部分と人工血管がこすれてステントグラフトが劣化することがある。そうなった場合は再びステントグラフトを挿入するなど、追加の処置が必要だ。

●ステントグラフト内挿術
【メリット】
全身麻酔が不要。傷口が小さく、身体への負担が少ない。
血管内に留置後、瘤が小さくなることもある。
【デメリット】
血管とステントグラフトの間から血液がもれる可能性がある。
劣化することがあるので、追加の処置が必要な場合も。

気になる自己負担額は?健康保険は適用?と

 人工血管置換術とステントグラフト内挿術はいずれも健康保険が使える。「高額療養費制度」を利用することで、自己負担額は4~30万円となり、高齢者の場合は1万5000~10万円と、負担が少なくなる。

 どちらの治療法を選ぶかは医師との相談だ。また、治療を受けた後は年1回は検査を受け、経過観察する必要がある。

 突然死のリスクが大きい大動脈瘤の剥離や破裂。前編で紹介したように、自覚症状がほとんどなく、自己発見が難しい病気だ。昨年11月に『それいけ!アンパンマン』のドキンちゃんの声で知られる声優・鶴ひろみさんが首都高速上の車内で亡くなった原因も大動脈瘤剥離だった。

 動脈硬化の予防を心がける以外に、対策はないという。日頃の生活習慣の見直しを。

監修:渡邊剛

ニューハート・ワタナベ国際病院総長。心臓血管外科医。『The Best Doctors in Japan 2016-2017』に選出される。

【データ】

ニューハート・ワタナベ国際病院
HP:https://newheart.jp/

取材・文/市原淳子

→「腹部大動脈瘤」は破裂すると致命的… 原因、予防法を名医が解説

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