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コロナ禍で変わる葬儀の形|阿川佐和子さん母を送った「リモート葬儀」「お別れ会」…費用の目安

「すぐ傍にいるのに、死に目に会えない」「葬儀に呼べない」ことがあるなんて、だれが予想できただろうか。新型コロナの流行は、“最期の対面”の形さえ変えてしまった。旅立つ人と送る人、両方のしあわせのために必要な別れの形について、もう一度考えてみよう。

新型コロナを含む一~二類感染症で亡くなると、遺族は遺体に会えない

 9月6日の厚労省の発表によれば、新型コロナウイルスに感染して亡くなった人は、現在1356人。感染防止の観点から、遺体はすぐに荼毘(だび)に付されることになる。

  佐藤葬祭の社長で葬祭ディレクターの佐藤信顕(のぶあき)さんが言う。

「新型コロナを含む一~二類感染症で亡くなると、ほとんどの場合、感染対策のため、すぐに医療従事者らがご遺体を納体袋に入れて密封します。そのまま棺に入れた後、棺に目張りをしてから火葬されるので、遺族のかたはご遺体を見ることはできないのです」

 さらに現在は3密や長距離の移動を避けるため、葬儀のあり方そのものが変化してきている。

阿川佐和子さんが行った「リモート葬儀」とは?

 5月、作家の阿川佐和子さん(66才)の母・みよさん(享年92)が亡くなった。当時のことを、阿川さんは雑誌のインタビューで振り返っている。それによると、みよさんは1月半ばから高齢者専門病院に入院していたが、新型コロナが国内でも流行し始めた2月、面会禁止となってしまった。その後、米国で暮らす阿川さんの弟の提案で、LINEのビデオ通話を使って面会するようになったという。

 5月半ばにみよさんが亡くなると、住職に頼んで葬儀を執り行う寺の本堂にパソコンを持ち込んだ。おかげで弟は、みよさんが出棺されるまで、遠いロサンゼルスから“リモート参列”で見送ることができたという。

 コロナ時代を迎えたいま、見送りの方法も変わりつつある。そこで注目したいのが、参列者数も費用も抑えやすい、家族だけの「お別れ会」だ。

親しい人だけで送る「お別れ会」(自由葬)に注目

「お別れ会」というと、芸能人や大企業の経営者が亡くなった際、葬儀とは別に執り行うイメージが強い。しかし、佐藤さんは「家族だけのお別れ会もできる」と話す。

「お別れ会とは、無宗教の『自由葬』のこと。開催場所も形式も、参列者数も自由です。葬儀場だけでなく、ホテルやレストラン、自宅でも開くことができます」(佐藤さん・以下同)

 自宅を会場にして、一緒に暮らしていた家族など、本当に親密な人だけを呼んで開くお別れ会なら、3密になるリスクを最小限まで減らせる。無宗教の葬儀のため、宗教者を呼ぶ必要もない。参列者が多く宗教色のある葬儀と違って、細かいルールやしきたりを気にしなくていいことも、大きな特徴だ。

 たとえば、白に限らず、故人が好きな鮮やかな色の花を飾ったり、アップテンポな明るい音楽を流して見送ったりすることもできる。遺影も食事の内容も、しきたりにとらわれなくていい。実は、ルール的には、一般葬や家族葬でも、そうした自由な演出は可能。しかし、宗教的な制約があると、たとえ故人の希望だったとしても、赤い花で見送ることをよく思わない参列者もいるだろう。

お別れ会、家族葬、一般葬の費用は?

「お別れ会の内容に規定はありません。最低限、『開式、弔辞、献花』があれば充分。開会の言葉の後に、参列者が弔辞として故人へのお別れの言葉を述べ、あとは音楽を流して生前の映像を上映したり、ろうそくを立てて献灯したり、献花をしたりするのが、スタンダードなお別れ会の流れです」

亡くなった人の見送り方 種類と費用

お別れ会(自由葬)

 お別れ会なら、ごく近しい人たちだけで故人の遺志を最大限に尊重して、送り出すことができるのだ。

 さらに、「お別れ会」のもう1つの特徴は、お布施がかからないことだ。一般葬より小規模な「家族葬」は、比較的安く済ませられるとあって、コロナ禍の前から選ぶ人が増えているが、宗教式である以上、家族葬であってもお布施は必要。

 寺に渡すお布施の相場は地域や寺によってばらつきがあるが、相場は30万~50万円ほどにもなる。

家族葬

「家族葬は、大々的に葬儀の知らせをする一般葬と異なり、近しい人にだけ知らせを出す『密葬』の一種です。

『家族葬』は葬儀会社が使う“商品名”のようなもので、葬儀の内容自体は一般葬と変わりません。ただ、参列者の数が少なくなるため、飲食代や会場費などの費用を抑えやすい」

 家族葬は80万~150万円が相場だという。

一般葬

 都内で一般葬(参列者70人と仮定)の見積もりをとったところ、お布施を除いた葬儀費用は144万7000円(税抜)だった。

 主な内訳は、基本料金に棺や祭壇、会場スタッフの人件費などを合わせた費用が62万7000円、会場費22万5500円、飲食費44万7000円、火葬関係費14万7500円だった。

「葬儀にかかる費用は地域差がありますが、都内の場合、一般葬は150万~200万円がおおまかな相場です。

 無宗教のお別れ会なら、お布施がないので、参列者数や内容によっては費用をその分抑えられます。

 ただし、ホテルで行う場合は高めの会食費がかかりますし、繁忙期だと値段が高くなるので、一概に“お別れ会なら安く済ませられる”というわけではないので気をつけてほしい」

正しいお葬式など存在しない。家族が悔いなくが大切

 実際にお別れ会を選択する場合は、どうやって遺骨を供養するかを決めておいた方がいい。

「無宗教のお別れ会だと、戒名をつけてもらわないので、仏式のお墓に入ることはできません。先祖代々お世話になっている菩提寺があるなら、火葬のみを行って、対外的には無宗教のお別れ会を開いた後にお墓に入れてもらうのがよいでしょう。その場合、お布施を払い、お経を上げて戒名をつけてほしい旨を住職に相談する必要があります」

 できるだけ小規模で、安く。無宗教でこぢんまりした「お別れ会」だと、もし生前「お葬式は盛大にやってね」と言われていたら、故人に申し訳なく感じるかもしれない。

 しかし、いまの世の中で、大人数が参列する葬儀を執り行うのは非現実的だ。遺族に負担がかかるなら、故人の思いを叶えられなくても仕方がないことだと、佐藤さんは言う。

「故人の希望を叶えたくても叶えられないケースはたくさんあります。故人は密葬を希望していたけれど、自宅に弔問客が大勢来るからと一般葬にした家族もあります。反対に、故人は盛大な一般葬を望んでいたものの、金銭的に厳しいからと簡素に済ませた家族もいる。葬儀は亡くなった人のために行うものですが、実際に行うのは遺族です。生前の遺志に従うかどうかは、残された家族や親族が判断していいと思います」

「葬儀に来られなかった遠方の親族のため、後日お別れ会を開く」というやり方もある。実際に、家族だけで火葬を行った後、「頃合いを見てお別れ会を開こう」と、感染が落ち着くのを待っている人は少なくない。

 佐藤さんは佐藤さんは、「そもそも“正しいお葬式”というものは存在しない」と繰り返す。

 火葬だけでも立派な葬儀であり、お別れ会も故人を見送る儀式である以上、“お坊さんがいないだけのお葬式”なのだ。大切なのは、亡くなった人を弔う気持ち。生きていくのは、残された家族たちだ。故人の思いを大切にしながら、悔いなく見送りたい。

教えてくれた人

佐藤信顕(のぶあき)さん/佐藤葬祭・社長兼葬祭ディレクター

※女性セブン2020年9月24日・10月1日号
https://josei7.com/

●施設、病院で家族に面会ができない!葬儀にも参列できない…コロナ時代こんなに変わる

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