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「全員集合はひょうきん族に負けたわけじゃない」高木ブー【連載 第31回】 

「『8時だョ!全員集合』のコントは、ある意味、命がけだった」と、高木ブーさんは言う。実際、番組が終了する1年ほど前、高木さんは体操のコーナーのリハーサル中に、左足のアキレス腱が断裂してしまった。4か月の休養期間のあいだに考えたこと、16年半にわたって続いた怪物番組が終わってしまったときの思いについて語った。(聞き手・石原壮一郎)

誰かが足首を丸太で思いっ切り叩いたと思ったアキレス腱断裂

 12月12日(土)のコンサート「高木ブー&ハロナ コンサート ハワイアンクリスマスだョ!全員集合」まで、あと10日ぐらいになりました。2月にハワイでやって以来のステージかな。今、とっても楽しみでワクワクしてます。こんな初々しい気持ちが自分の中に残ってたなんて、僕もまだまだがんばれそうだなって思っちゃった。


 前回は『8時だョ!全員集合』の「三大事件」について話しました。今回は「三大」には入っていないけど、僕にとってはいちばん大きな出来事だった「アキレス腱断裂事件」について話します。リハーサル中だったからテレビで目撃した人はいないけど、急に4人のドリフになって「あれ?」と思った覚えがある人はいるかもね。

→高木ブーが明かす『8時だョ!全員集合』の三大事件とは?

 あれは、1984(昭和59)年9月14日のことです。放送前日の体操コーナーのリハーサルで、トランポリンの練習をしてた。足を踏ん張って飛び上がろうとした瞬間、いきなり足首を丸太みたいなもので叩かれた感じがしたんだよね。「ドーン」ってすごい音がして、「何すんだよ!」って言いながら倒れ込んだ。気が付いたら左の足首から先がブランブラン揺れてて、そのまま起き上がれなくなった。

 もちろん誰かが丸太で叩いたわけじゃなくて、飛び上がろうとしたはずみでアキレス腱が切れたらしい。そのまま病院に運ばれて、左足にギブスをはめられて50日間の入院生活です。ギブスは3か月近くつけてて、外れたあともすぐにはスムーズに歩けない。番組は4か月ぐらいお休みしたかな。みんなにずいぶん迷惑かけちゃった。

「このまま番組を抜けてもいいかな…」

 僕の場合、コントの中でセリフはあんまりないんだけど、いつも5人でやっていたことを4人でやると、リズムが違ってきちゃう。探検隊コントで橋をわたる場面にしたって、長さんに「よし、行け!」って言われて、まず僕と仲本が怖がりながらも無事にわたり切る。そのあとで加藤や志村が失敗するから、大きな笑いが生まれる。それがドリフの笑いなんだよね。いきなり加藤や志村が失敗しても、同じ面白さは出ないと思う。

 とはいえ、このとき僕は51歳。自分の役割はわかっていたんだけど、毎週の生放送に疲れを感じ始めてもいたのかな。ベッドに横になりながら、早く復帰しなきゃと思ういっぽうで、「このまま番組を抜けてもいいかな」という気持ちも湧いてきた。長さんにチラッと話したら、「バカなこと言わないでくれよ、ブーたん」って説得されちゃった。長さんに「ブーたんは必要な存在なんだから」って言われたら、抜けるわけにはいかないよね。

『8時だョ!全員集合』最終回の日

 ケガした翌年の1985(昭和60)年1月に番組に戻ったんだけど、結局その年の9月いっぱいで『8時だョ!全員集合』は、16年半の歴史に幕を下ろした。最終回の803回目のコントは、おなじみの「かあちゃんもの」だった。長さんが和服とカツラで「かあちゃん」に扮して、悪ガキの僕たちがいろんないたずらを仕掛けるやつね。

 家に帰ってきた加藤が「おかあさん、ただいま。一本つけろや」って言ってみんなでずっこけたり、僕は「かあちゃん、腹へった。なんかくれよ」って手を出して、長さんに「親に向かって、なんだその態度は!」って竹ぼうきの先でつつかれたり。あのチクチクした感触は、今でも覚えてる。天井から落ちてきた金だらいを頭で受けるのも、この番組では最後なんだと思うとなんか切ない痛さだったな。

 その日は荒井注さんも駆けつけてくれて、フィナーレでは僕の横で「いい湯だな」に合わせて踊ってた。ゲストも豪華で、和田アキ子さん、由紀さおりさん、研ナオコさん、郷ひろみ君、近藤真彦君……。ドリフのメンバーは蝶ネクタイにスーツ姿で、それぞれに花束を持ってね。最終回の視聴率は34%だったらしい。その頃はだいたい10%台後半だったから、たくさんの人が別れを惜しんでくれたのかな。ありがたいよね。

 よく「全員集合は裏番組の『オレたちひょうきん族』に負けたから終わった」っていう言い方をされるけど、僕はそれは違うと思ってます。全員集合とひょうきん族は、作り方も笑いの方向もぜんぜん違う。ライバルとか勝ち負けとかってことじゃなくて、作り込んだ笑いを生放送で見せる全員集合が、番組としての役割を終えたってことなんじゃないかな。

 番組が終わってから35年。大晦日の午後8時からTBSのCS放送「TBSチャンネル2」で14時間ぶっ続けの再放送もあるから、よかったらまた見てみてください。僕が言うと自画自賛になっちゃうけど、今見ても、というか今見ると余計に面白いと思うな。

『8時だョ!全員集合』最後のコントで、長さんに竹ぼうきでつつかれたあのチクチクした感触は今でも覚えている。803回の生放送、みんなよくやったと思うよ。

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高木ブー(たかぎ・ぶー)

1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1964年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD『美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』『Life is Boo-tiful ~高木ブーベストコレクション』』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。YouTube「【Aloha】高木ブー家を覗いてみよう」(イザワオフィス公式チャンネル内)も大好評! コンサート「「高木ブー&ハロナ コンサート ハワイアンクリスマスだョ!全員集合」は12月12日15時から東京・千代田区の内幸町ホールで。詳しくはこちら⇒ https://www.city.chiyoda.lg.jp/koho/event/20201212-2.html
12月31日には、ももいろクローバーZの年越しカウントダウンライブ「第4回ももいろ歌合戦」(18時~、ABEMA、BS日テレ、ニッポン放送で中継)に出場。

Hawaiian Christmas Best

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。最新刊は「恥をかかない コミュマスター養成ドリル」。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。

●「ドリフの歴史、話しておこうか」高木ブーが今改めて振りかえる

●高木ブーだけが知ってる「僕といかりや長介さんの絆」

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