連載

民間の介護保険、加入前に検討すべき5つのポイント

 認知症に対応する介護保険、要介護状態になったら必要な補償をサポートする介護保険…民間の保険会社が展開する介護保険は必要だろうか? 介護保険のメリットデメリットとともに、選び方のポイントをファイナンシャルプランナーの大堀貴子さんに解説いただいた。

民間の介護保険とは?

 民間の介護保険とは、保険会社を通して加入する保険のことで、介護にかかるお金を一時金や年金形式などで受け取ることができる。

 公的介護保険と同様に、要介護認定を受けた場合に保険金を受け取る仕組みだ。認知症などにより自分で請求手続ができない場合でも、親族が代理で保険金を請求できる代理人請求の特約を付けることもできる。

 40歳以上の人が強制的に加入する公的な介護保険とは異なり、自らの意思で介護保険の商品を選ぶため、本当に必要か、どんな商品なのかよく吟味する必要がある。

民間の介護保険は必要か…知っておくべきこと3つ

 民間の介護保険が必要かどうか、以下の3つのポイントで検討してみるといいだろう。

【1】介護費用は公的介護保険の保障で足りるか?

【2】不足分を民間保険で補うか?貯蓄でまかなえるか?

【3】民間保険のメリット・デメリットは?

→介護が始まるときに慌てない!要介護認定の申請、介護保険サービス利用の基礎知識

【1】介護費用は公的保障で足りるか?介護にかかるお金とは…

 公的な介護保険は、40歳以上になると全員が公的介護保険に加入し、65歳以上で要介護・要支援状態になると介護保険サービスを原則1割負担で受けることができる。

 また、自己負担額が高額になった場合には、「高額介護サービス費」「高額介護合算療養制度」などにより上限額を超えた分は還付が受けられる。さらに、低所得者の場合、通常は自己負担となる住居費と食費の軽減制度などもある。

 ただし、所得金額と年金収入が一定以上になると、負担額が2割、3割と増えるため、かかる介護費用が増えていくことに注意したい。

→高額介護サービス費制度とは?自己負担上限金額、申請方法【介護の基礎知識】公的制度<8> 

【2】不足分を民間保険で補うか、貯蓄でまかなえるか?

 生命保険文化センターの調査※1によると、介護期間の平均は4年7か月。一時的な介護費用(住宅のリフォーム、介護用ベッド購入)は69万円、月額7万8000円となっており、介護には平均合計425万円かかることになる。

 また、介護状態になったときには、自宅改修費用、住居費、食費、家事代行費用は原則自己負担となる。自己負担になる住居費は個室になれば高くなる。要介護5の人で多床室の場合は約2万5200円だが、ユニット型個室を利用した場合、毎月約6万円に跳ね上がる※2。

 公的な介護保険で不足する費用を貯めておくか、民間保険を活用すべきか、かかる費用と貯蓄額を考えておきたい。

→介護施設の食費が6万円も安くなるのはどんな人?|知らないと損する介護保険の話

※1 生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査」/平成30年度
https://www.jili.or.jp/lifeplan/lifesecurity/nursing/4.html

※2 厚生労働省「サービスにかかる利用料」
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html

【3】民間の介護保険のメリット・デメリットとは?

 民間介護保険のメリットとデメリットを理解し、その上で必要かどうか検討してほしい。

■民間の介護保険のメリット

・介護でかかる大きな出費を補える

 公的介護保険制度で介護費用はある程度保障はされている。しかし、介護がはじまったときにかかる施設などへの入居費用や住宅のリフォームなどの大きな出費が。さらに、介護費用の自己負担分、介護保険で補うことのできない家事代行、居住費・食費、嗜好品などの費用は継続的にかかる。民間の介護保険で備えておくことで、そういった出費に備えることができる。

 65歳以降も収入が高い人は、公的介護保険の自己負担割合が高くなる傾向にあるため、民間の介護保険で備えておく手もあるだろう。

・所得控除を受けられる

 支払保険料の一定金額を所得から控除することができ、所得税や住民税などの税金を軽減することができる。特に高所得者になるほど、税金の軽減効果が大きくなる。

 たとえば、年間に支払った保険料が24万円の場合、最大で12万円が控除される。

・受取り時の保険金が非課税

 民間の介護保険で受け取れる保険金(一時金型、年金型ともに)は非課税となる。

 なお、死亡保険金や個人年金は、死亡保険金が(被保険者と契約者が同じ場合)相続税の対象となる(ただし、500万円×法定相続人の非課税枠の適用あり)。

 年金保険は、公的年金等控除の対象ではあるものの雑所得がかかる。

■民間の介護保険のデメリット

 指定の介護状態にならなければ保険金が受け取れない。介護状態にならずに元気に過ごした場合、死亡した場合には掛け捨てとなってしまうタイプも。

民間の介護保険を選ぶ5つのチェックポイント

【1】解約返戻金を確認

 民間の介護保険は、途中で解約したときに払い戻される解約返戻金(かいやくへんれいきん)の金額により、「死亡保障型」「低解約返戻金型」「無解約返戻金型」の3つに分けられ、それぞれ特徴が異なる。

・死亡保障型

 指定の介護状態になったときに介護一時金が受け取れる点においては他のものと同じだが、介護状態にならなかった場合でも死亡時に死亡保険金が受け取れる。

 介護状態にならなくても掛け捨てにならないのが大きなメリットだが、支払い保険料が1~3万円など高額になりやすい。比較的資金に余裕があり貯蓄目的、支払保険料を掛け捨てにしたくない人にはおすすめといえるだろう。

・低解約返戻金型

 途中で解約してしまうと戻ってくる解約返戻金が少ないタイプの保険。支払う保険料は抑えられるが、指定の介護状態にならなければ掛け捨てとなる。

 なお、支払い期間が決まっている商品の場合、期間終了後の解約は、保障と同額程度の解約返戻金が受け取れる。

・無解約返戻金型

 途中解約時に解約返戻金が全く返ってこないタイプの保険。低解約返戻金型よりも支払保険料を抑えることができる。低解約返戻金型と同様介護状態にならなかったときは掛け捨てとなる。

【2】保険料控除になるかどうか?

 保険料の控除は、介護保険の種類によって控除対象が異なる。

「死亡保障型」であれば新生命保険料控除、「低解約返戻金型」「無解約返戻金型」等であれば介護医療保険料控除の対象となる。

【3】「認知症」「介護状態」など補償の範囲は?

 最近の介護保険では、認知症に焦点をあてた介護保険もある。認知症と診断されたときに介護一時金が受け取れるもので、認知症ではなく介護状態になったときには保険金が受け取れないこともあるため、どのような状態になったら保険金が受け取れるのか確認しておくことが必要だ。

【4】どんな状態のときに保険金が出るか?

 民間の介護保険は、保険金を受け取れる基準が公的介護保険制度の基準(要介護認定)と同じか、類似していることがほとんどだ。

 要介護1から給付されるのか、要介護2以上なのかなど、商品によって条件が異なるので、いくつに認定されたときに保険金が出るのかを加入前に確認しておくことが大事だ。

 介護度が低くても保険金が受け取れる商品は、その分保険料も割高になっていることが多い。

【5】「一時金」か「年金形式」か…受け取り方法は?

 保険金の受取り方法には、「一時金」または「年金形式」がある。

「一時金」での受取りは、介護状態になったときにかかる老人ホームへの入居費用、住宅のリフォームなどの急な大きな出費に備えることができる。

「年金形式」は、毎月決まった額が受け取れるため、月々の介護にかかる自己負担額など継続的な出費に備えることができる。

 高齢化が進み、長生きすればするほど介護にかかるお金の負担は増えていく。もしものときに備えて民間の介護保険を検討してみるといいだろう。

→マネー記事シリーズ一覧を見る

文/大堀貴子さん

ファイナンシャルプランナー おおほりFP事務所代表。夫の海外赴任を機に大手証券会社を退職し、タイで2児を出産。帰国後3人目を出産し、現在ファイナンシャルプランナーとして活動。子育てや暮らし、介護などお金の悩みをテーマに多くのメディアで執筆している。

●親の介護保険、子が入る場合の注意点は?必要?|ファイナンシャルプランナーが解説!

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