公開日:2021.02.02 |暮らし   

「死ぬまで笑って現役」を貫いた、ばぁばの美学とおひとり様ごはん

 料理家として生涯現役を貫いた“ばぁば”こと鈴木登紀子さん(享年96)は、昨年12月28日に息を引き取った。鈴木先生の担当編集者として18年、多くの料理記事を共に作り上げてきた編集者の神史子(ジン・フミコ)さんが3回に渡り、追悼記事を寄稿してくれた。最後は、ばぁばが教えてくれた生きる美学、そして食べることの大切さ。

銀髪に真っ赤な口紅をさす鈴木登紀子さん
鈴木登紀子さんは、90歳あたりからシャネルの口紅をつけるように

→鈴木登紀子さんが教えた「ようすがいい」女性になるお作法|人柄に魅了された担当編集者の述懐

→追悼・鈴木登紀子さんが愛した食と旅の話|英国紳士とロンドンで…

ばぁばは高齢化社会のスタアだった

「ひとりでいただく食事は寂しいけれど、朝昼晩としっかりお腹は空くのよね(笑い)。

 たとえひとりでも、死ぬまでは生きなくちゃならないのだし、生きるためには食べなきゃいけない。それなら、毎日おいしくお食事をいただく努力をしたほうが、人生は楽しくなると思うのよ」

“登紀子ばぁば”は、高齢化社会に生きる私たちにとって憧れのスタアだった。

 老々介護の末に、自宅で最愛の夫の静かな最期を看取り(朝、ソファに座ったまま亡くなっているのを発見)、最高齢の現役料理研究家であり、93歳まで入れ歯も不要、地獄耳で健脚。ふさふさとした美しい銀髪にシャネルの紅い口紅が似合う、おしゃれな“生涯現役”の具現者だった。

鈴木登紀子さんのしなやかな強さ

 長年、鈴木先生とは仕事をご一緒させていただいたが、90歳を迎えた頃から、たまに撮影の献立を間違えたり、食材の用意を忘れたりすることがあった。

 そんなときに私は「どうしちゃったんだろう、鈴木先生」と心配したけれど、冷静に考えれば、90歳の勘違いや物忘れを心配する私のほうがおかしい。しょうゆを買わなきゃと思いながら、1週間も買い忘れた55歳が何をかいわんやである。

 毎月10日間、ぶっ通しで日3時間も台所に立ちっぱなしで料理教室を主宰する“元気な登紀子ばぁば”が当たり前になりすぎて、つい年齢や持病のことを忘れてしまう。何でも「大丈夫、大丈夫」と笑い飛ばす鈴木先生の笑顔に安心してしまう。いや、安心したかったのだと思う。

 鈴木先生は、糖尿病、高血圧症とは長いつき合いで、肝細胞がんも年に3〜4回定期入院して治療を続けていた。幾度か生死をさまよったこともあるし、あるときは、定期治療入院中に心筋梗塞を起こしてあわや…ということもあった。

 しかし、「みっともないことが嫌い」で「苦労を見せるのも、情けをかけられるのもご免だわ」と口にしていた鈴木先生は、入院中はご家族以外の見舞いをすべて断り、退院した後も「ごはんを食べに行きましょ」といえる元気が出るまで誰とも会おうとしなかった。

 すべての“苦”を笑い話に昇華させること。それが鈴木先生の美学であり、半世紀におよぶ日本料理研究家・鈴木登紀子を支えたしなやかな強さだったと思う。

鈴木登紀子さんの写真

ひとりでも自分のためにしっかり食べる

 最後のシメは、ばぁば考案の「おひとり様ごはん」のレシピで。

『女性セブン』の料理記事で、パパさん逝去ののち、生まれて初めてひとり暮らしをすることになった鈴木先生に、「たとえひとりでもきちんと食べたくなる、そんなに手がかからない“おひとり様ごはん”」のメニュー考案を依頼した。

 打ち合わせのために鈴木先生のご自宅に伺い、おいしいしょうゆラーメンをごちそうになりながら、

「おもちはひとり暮らしには便利なのよ。小さく切れば喉に詰まらせることもないわよね」

「冬は大根を食べなきゃ。安いしお通じにもいいし。保存がきくおかずにしましょう」

「あ、そうそう、そういえばこの間ね…」と、あちこちに寄り道しながらの打ち合わせは、なんと愛おしい時間だったことか。

 ラーメンを食べ終わると、鈴木先生は「一服しましょ」と、メンソールのたばこを(ふかすだけだったが)おいしそうにくゆらせる。

「娘たちはやめろってうるさいのだけど、私は、煙がゆら〜りゆら〜りと立ち上るのを眺めながら思案するのが好きなの。パッと閃いたりするのよ。すぐ忘れちゃうんだけど。あははは」

ばぁばが教えてくれた“おひとり様ごはん「根菜づくしの一汁一菜」

ばぁばのおひとりさまご飯

【れんこんのつみれ椀】(写真手前右)

 ほっと心の温まるおふくろのみそ汁。

<作り方>
【1】れんこん約10cm(200g)皮をむき、酢少量を落とした水にさらしてからすりおろし、水気を絞る。小麦粉大さじ4と塩少量を加えてよく混ぜる。
【2】鍋にだし2カップを熱し、【1】をひと口大に丸めて静かに入れる。火が通ったらみそ適量を溶き入れて火を止める。お碗に盛り、薄切りにしたねぎ適量を散らす。

【大根の南蛮煮】(写真左奥)

「冬は根菜。大根が甘くみずみずしくなってうれしいわね」

<作り方>
【1】大根500gは皮をむき、1cm幅の短冊切りにする。
【2】鍋にごま油を熱し、大根を強火で炒める。酒・砂糖各大さじ1と1/2、みりん大さじ1/2、しょうゆ大さじ1と赤唐辛子のみじん切り少量を加えてさらに炒め、大根がしんなりしたら強めの中火にし、アルミ箔をかぶせる。時折箸であたりながら汁気がなくなるまで煮る。
【3】バットで大根の粗熱を取り、器に盛って大根葉のみじん切り適量を散らす。

【おもちのビーンスープ】

「おもちは白飯がわりに使えて便利。スープの具材はお好みで」

おもちのビーンズスープ

<作り方>
【1】生しいたけ1枚は軸を除いて笠を拭き、小角切りにする。セロリ3cm分、ベーコン少量、もち1個も小角切りに揃える。【2】鍋にだし1と1/2を入れ、酒小さじ1、塩小さじ1/3、薄口しょうゆ少量を加えてひと煮立ちさせる。
【3】しいたけとキドニービーンズを加える。
【4】もちをオーブントースターなどでこんがりと焼いて器に入れ、【3】をかける。

※レシピは鈴木登紀子さんの著書『ばぁば 92年目の隠し味』(小学館)より抜粋。

撮影/澤井秀夫

執筆

神史子(ジン・フミコ)さん/編集者。『女性セブン』(小学館)ほか、ウェブ媒体、単行本を数多く手がける。鈴木登紀子先生の編集・執筆を担当した書籍は、ばぁばの料理と人生哲学が詰まったエッセイ『ばぁばの料理 最終講義』『ばぁば 92年目の隠し味』、そして、ばぁばの遺作となった『誰も教えなくなった、料理きほんのき』を世に送り出した。

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