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ガッキー、舘ひろしの入れ替わりドラマ『パパとムスメの7日間』に賭けた舘の勇気

 TBS「日曜劇場」の歴史をさかのぼって紐解く「水曜だけど日曜劇場研究」第2シーズン(隔週連載)。サブカルチャーの歴史に詳しいライター・近藤正高さんが今回取り上げるのは『パパとムスメの7日間』(2007年)。パパ(舘ひろし)と娘(新垣結衣)が入れ替わる話で、現在放映中の日曜劇場『天国と地獄』を観て思い出した人も多いのではないか。『天国と地獄』のような惨劇は起こらない、心温まるコメディを振り返る。

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父親と娘の人格が入れ替わる話

 日曜劇場で現在放送中の『天国と地獄〜サイコな2人〜』では、主演の綾瀬はるか演じる刑事が、高橋一生演じる殺人鬼と人格が入れ替わり、追うほうと追われるほうと立場が逆転することで物語が展開する。

 登場人物の人格が入れ替わる作品は昔から枚挙にいとまがない。日曜劇場では『天国と地獄』以前にも、2007年に放送された『パパとムスメの7日間』がこれに当てはまる。Paraviでの配信が来週水曜(2月24日)に終了してしまうので、さっそく、その物語を紹介しておきたい。

 五十嵐貴久の同名小説が原作の『パパとムスメの7日間』はタイトルからもわかるとおり、父親と娘の人格が入れ替わる話だ。ドラマ版は全7話と、通常10話ほどの作品が多い日曜劇場ではかなり短い。これは本作の放送された2007年の7月期(7〜9月)が、世界陸上の大阪大会の中継と重なったがための措置であった。

 それでも、本作はこれまたタイトルが示すとおり、父娘が入れ替わっていた7日間を描いた作品だけに、それをぴったり7話でドラマ化したのは正しい判断だと思う(ただし、途中で時間が飛んだりするので、父娘が入れ替わっていた日数は厳密には7日間ではなく、ドラマも1日=1話分という構成にはなっていない)。

父娘はさまざまな試練に見舞われる

 物語の中心となるのは、化粧品会社勤務の父・川原恭一郎と、その娘で高校2年生の小梅である。恭一郎は47歳という設定に対し、演じた舘ひろしは放送当時57歳だったが、まったく違和感はなかった。これに対し小梅を演じた新垣結衣は当時19歳と、ほぼ実年齢と同じで、等身大で演じている。

 小梅は、この年頃の少女にはありがちながら、恭一郎を遠ざけるようになっていた。そんなある日、千葉の田舎に住む母方の祖母・ひそか(佐々木すみ江)が山で倒れたというので、母の理恵子(麻生祐未)とともに駆けつける。恭一郎も遅れてやって来るのだが、幸いにもそのときにはすでにひそかは元気になっていた。

 恭一郎と小梅は、しばらく実家にいることにした理恵子より先に帰ることになる。その際、ひそかから山で採った桃を帰りの列車で食べるよう渡された。自宅のある東京まで列車で2時間あまり。しかし、父娘は話すこともなく時間を持て余す。そこで恭一郎が桃をもらったのを思い出して、小梅と一緒に食べることにした。そうしてかぶりついた瞬間、2人は列車事故に遭遇してしまう。命は取り留めたものの、病院で目が覚めて、それぞれ体が入れ替わっていることに気づくのだった。

 それからというもの、父娘はさまざまな試練に見舞われる。恭一郎は、会社で新規プロジェクトのリーダーを押しつけられていた。父と入れ替わった小梅は、そのプロジェクトを、社内から集められた落ちこぼれ社員たちと進めていくはめになる。小梅と入れ替わった恭一郎も、娘の憧れる先輩から告白されたり、代わりに受けたテストで赤点を取ってしまい、担任教師に追いかけられたりと波乱が続く。

 果たして、恭一郎のプロジェクトは成功するのか? 小梅の恋のゆくえは? そして何より2人は元に戻ることができるのか……。時に冷や冷やさせたり、ちょっとしんみりさせたりしつつも、ドラマは全編を通してコメディタッチで展開していく。

まだ初々しいNEWSの加藤シゲアキが

 父娘を取り囲む面々もなかなかに個性的だ。恭一郎が任されたプロジェクトチームの一員である西野和香子(佐田真由美)は、上司である彼にどういうわけか好意を寄せ、隙あらば彼を妻から奪おうと画策する(おかげで恭一郎と妻の理恵子のあいだにさざ波が立つ)。

 また、プロジェクトで恭一郎の片腕役を担う中嶋耕介(八嶋智人)はお調子者の反面、出世コースに乗る同期にコンプレックスを抱いたり、父が病気で入院しても、わだかまりから見舞いに行こうとしなかったりと、わりと屈折したところがある。時折、ノリツッコミしてみせたりもする八嶋演じる中嶋(名前が似ていてややこしいが)と並び、田口浩正演じる小梅の担任・両角のコメディリリーフぶりも見どころだ。金八先生に憧れる両角を、金にも銀にもなれないアルミという意味で、生徒たちが陰で呼んでいる「アルパチ」というネーミングも秀逸である。

 ほかの配役も、小梅と付き合い始める健太先輩を、まだ初々しいNEWSの加藤シゲアキ(当時の表記は成亮)が、恭一郎の年下の上司である桜木を格闘家の高田延彦がそれぞれ演じていたりと、いま見ると色々と発見がある。

 冒険を好まず、事なかれ主義を押し通す会社の役員連中を、小野寺昭や大和田伸也といったいかにもな俳優たちが演じているのも愉快だし、社の最高決定機関である「御前会議」で、江守徹演じる創業家の4代目社長が奥の間から仰々しく登場するのも滑稽だ。

舘ひろしの勇気ある決断

 しかし、本作でもっとも笑いを誘うのは、小梅に入れ替わった恭一郎の挙動だろう。いつもは男くさい役の多い舘ひろしが、ケータイでメールを早打ちしたり、憧れの先輩を想って体をじたばたさせたりと、乙女になりきるさまはインパクト大だ。

 舘はこれ以前にも、ドラマ『あぶない刑事』や映画『免許がない!』などといった作品でもコミカルな演技を見せていたが、さすがにここまで振り切るのは冒険だったに違いない。事実、舘は最近のインタビューで本作への出演は、俳優人生のひとつのエポックであったとして、次のように語っていた。

《いま僕が七十歳を過ぎて俳優としてやれているのは、あの作品をやる勇気があったからだと思うんです。/これまで僕を見てきた人たち、ハードボイルドのイメージを持っている人たちはあの作品を観ない。でも、女子高生は観る。それは僕にとって新しい、そして素晴らしいマーケットでした。そう考えると、あの作品に出るべきだという答えになってくるわけです。でも、やはり勇気のいる決断でした》(『週刊ポスト』2021年2月12日号)

 勇気をもって新たなマーケットを開拓しようとする姿勢は、彼が本作で演じた恭一郎とも重なる。本来の恭一郎は、社内では穏便にやりすごすべく、上の人間に反論したりしないよう心がけてきた。しかし、彼に入れ替わった小梅は物怖じせず、旧態依然とした会社のあり方に率直に疑問を呈し、女子高生ならではの発想で企画を推し進めていく。彼女に入れ替わった恭一郎もその様子を傍で眺めるうち、それまでの自身の姿勢を改めるにいたる。

父親を見直す娘

 小梅も小梅で、恭一郎の立場を経験することで、それまで蔑んでいた父親を見直すようになる。おかげで2人は、互いの立場を知って、心の距離を縮めることができたのだった。こうして見ると、本作は現実にはありえない設定をとってはいるものの、テーマはきわめて普遍的だ。放送を夏休みシーズンに合わせたのもこのテーマゆえだろう。のちには韓国、ベトナムと海外でもリメイクされたのもうなずける。

 劇中では、現代の入れ替わり物作品のルーツというべき映画『転校生』(大林宣彦監督、1982年)に、恭一郎が言及する一幕もあった。それは父娘が入れ替わった直後のこと。恭一郎は何とか元に戻ろうとして、『転校生』で描かれていたように石段を娘と一緒に転げ落ちるのだが、結局、けがを負っただけに終わる。それというのも、入れ替わりの原因が、そもそも列車の事故とは別にあったからなのだが……。これについては、最後の最後でそれらしい説明が用意されている。ぜひ本作の配信が終わる前に確認していただきたい。

※次回は2月24日(水)公開予定

『パパとムスメの7日間』は「Paravi」で視聴可能(有料)

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

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