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60才からの投資で注意すべき3つのルールと老後資金のおすすめ運用法【FP解説】

「老後資金2000万円といわれていますが、実際に足りるでしょうか。せっかく貯めた老後資金を枯渇させないために投資や資産運用は有効な手段になります」とファイナンシャルプラナーの大堀貴子さんは語る。60才から投資を始めるときの注意ポイントやおすすめの運用方法について詳しく解説いただいた。

60才からの投資「老後資金2000万」で足りる?

 60代以降も老後資金の資産寿命を延ばすために資産運用をすることが重要だ。ただし、年金生活などで収入や資産が増えることがない人は、何に投資するのか注意が必要だ。

 60代以降は、子供が巣立ったり、退職金を受け取れたりと少し余裕資金が生まれる人もいるだろう。その資金を運用して増やし、老後に運用益を旅行などの娯楽費にあてたいと考える人もいるかもしれない。

 老後資金を運用することは、老後資金が枯渇しないよう資産寿命を延ばす上でも重要だ。

年利0.2%の定期預金だと…

 例えば、60才のときに老後資金が2000万円あったとする。定期預金(年利0.2%)に預け、毎月生活費が5万円不足するため、毎月5万円を取り崩していく場合は、女性の平均寿命の87才※まで生きたとしたら、老後資金はいくら残るか試算してみると、447万円となる。

 しかし、87才までの27年間に、家のリフォームや介護費用などまとまったお金が必要になる可能性が高いことを考えると、447万円では老後資金が枯渇するか、節約を強いられるかもしれない。

年利3%で運用した場合は…

 一方、老後資金2000万円を年利3%で運用した場合はどうだろう。上記の例と同じように毎月5万円取り崩していったとしても、87才の時点で1967万円の資金が残る計算となり、資産寿命が延びる。これならリフォームや介護費用も用意できるだろう。

※厚生労働省「簡易生命表(令和元年)」による日本人の平均寿命:男性81.41歳、女性:87.45歳。

60才から投資でやってはいけない3つ

 投資や資産運用は、定期預金と異なり元本は保証されない。60才以降に運用で損をした場合、若い世代とは違って収入源がない、資産が増えることがない場合には、失った損失を取り戻すことは難しいかもしれない。

 60才から投資や資産の運用を考える場合は、以下で紹介する注意ポイントをふまえ、なるべくリスクを減らしておきたい。

1.ハイリスク・高利回りは避ける

 60才以降は若い世代と比べると、損失リスクを最小限に抑えた運用が最適だ。

 若い世代であれば、保証金の何倍もの金額を取引できるレバレッジを使った信用取引やFX、仮想通貨などのハイリスクな投資にチャレンジする方法もあるが、60代以降はおすすめできない。

 また、高い利回りの商品も避けたほうがいだろう。「利回りの高さ」と「損をする可能性」は天秤のような関係だ。

 高い利回りを求めればその分大きな損失が生じる可能性も高くなり、利回りが低ければその分損する可能性は低くなる。

 つまり、60代以降は損失リスクを最小限に抑えた投資が向いている。おすすめは、以下の2つだ。

・債券

・投資信託積立

 以下で詳しく解説する。

2.選んではいけない「債券」もある

 債券とは、国や会社が金融機関からではなく、投資家から借入をするものだ。債券を買うと、資金を国や会社に貸している間、年2回の利息収入を受取ることができ、満期になると元本が返還される。

 債券のリスクは、その債券を発行している国や会社が倒産することだ。

 個人が買える債券で、倒産してしまうような会社が発行していることはほとんどないため、この倒産のリスクは非常に低い。

 債券は途中で売却すると、元本が割れるが、満期まで保有すれば、保有期間中利息を受取ることができ、満期には元本が返ってくるという、60代以降におすすめの投資法だ。

 債券は主に証券会社で購入することができる。利回りは、日本の会社が発行しているものだと0.1~1%程度なので、大きな利益にはならないが、その分リスクも低い。

 債券は国が発行する国債、日本の会社が発行する社債を念頭に解説したが、債券には、以下のような種類もあり、利回りは高いが、リスクもあるので、投資する際は注意してほしい。

60才以降に注意すべき債券は2つ

・外貨建債券

 外貨建てはその国の通貨で購入するため、為替リスクがあるため、円高になれば損をする。ドルであれば、比較的円とドルの為替相場が安定しており、円高になっても円安になるまで待てば回復することもある。

 一方で、利回りが高い新興国通貨には注意が必要。大きな損失が生じる可能性も高く、円を現地通貨に換えるときの為替手数料も割高になる。

・仕組債

 株価や為替相場により、元本の返還金額や利息額が変わる債券。先物取引などの“デリバティブ取引”と呼ばれる商品が含まれており、途中売却がしにくく、想定と異なる動きをすると大きな損失が生じることも。

3.投資信託は積立で。一括で購入してはいけない

 投資信託は株式や債券などをパックにしたような投資商品のこと。株式の銘柄選択や運用をプロの投資家が行うので、投資家は自分で銘柄選別する必要がなく、初心者でも投資できる金融商品だ。

 ほとんどの投資信託は、株式で運用されている。株式は、会社が発行しているが、前述した債券のように返済義務がない。価格は会社の業績等に連動して上がったり下がったりするため、債券よりはリスクが高くなるが、その分高い利回りを得られる可能性がある。

 ただし、投資信託の運用は債券に比べると元本損失の可能性が高くなることから、老後資金を一括でつぎ込んでしまうような投資は避けるべきだ。

おすすめは少額・長期、5年以上保有を

 投資信託の運用で損せずに運用益を得るためには、少額の積立がおすすめだ。

 老後資金が2000万円あったとしてもその資金を全部投資するのではなく、毎月1~3万円など少しずつ投資信託を自動で買っていく方法だ。

 価格が安いときも高いときも長期で買い続けることにより、割高な価格で買ってしまうことを回避できる。

 さらに、平均購入価格をできるだけ下げて、売却時には利益が出るように運用することもできる可能性がある。いずれにしても長期で運用するほど有効で、5年以上続けると損失が出る可能性もかなり低くなる。

NISA口座がお得!身近な金融機関でも相談できる

 現在は「つみたてNISA」という投資信託の優遇税制もある。これは、運用益に対して通常20.315%かかる税金が非課税になるというものだ。

 投資信託を「つみたてNISA」口座で購入するには、証券会社のほか、信用金庫やJAバンク、イオン銀行など、身近にあって投資の相談をできる金融機関もあるので、相談してみるのもいいだろう。

 投資信託の積立は、最初に購入する銘柄と金額を設定するだけで、その後は自動的に購入され続ける。基本は下がっても上がっても放ったらかしでいい。そのまま続け、長期的に資産を増やしていくことがおすすめだ。

文/大堀貴子さん

ファイナンシャルプランナー おおほりFP事務所代表。夫の海外赴任を機に大手証券会社を退職し、タイで2児を出産。帰国後3人目を出産し、現在ファイナンシャルプランナーとして活動。子育てや暮らし、介護などお金の悩みをテーマに多くのメディアで執筆している。

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