連載

兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第95回 脳内は“お爺ちゃん”でした】

 ライターのツガエマナミコさんが一緒に暮らす兄は若年性認知症だ。日常生活にも介助が必要になってきた兄に先日、ついに要介護2という通知が届いた。この後、ケアマネジャーを立てたり、デイケア施設を探したりと、ツガエさんの多忙な日々は続くのだが、そんな中通院の日もやってきた。前回の通院より新しい医師に変わり、その医師の態度に不信感を抱いているツガエさん。さて、今回の診察はどうだっったのか?

「明るく、時にシュールに」、でも前向きに認知症を考えます。

→前回を読む

 * * *

診察前は、まず兄に入浴してもらうのがひと苦労

 兄の要介護認定の結果(第94回)が届いた2日前、2か月に1度の受診日でございました。

 財前(仮名)先生とは2回目の対面になるわけですが、初対面の印象が悪すぎたので受診日が憂鬱で仕方がありませんでした。

→財前先生と初めて対面した回を読む

 前回、認知症薬のアリセプトを5mgから10mgに引き上げられたものの、結局わたくしは兄に5mg錠しか飲ませていないので、「10mgにしてどうでしたか?」という質問に嘘をつくしかない…と気が重くなっていました。

 もう一つの憂鬱はお風呂です。ペトペトの髪と濃厚な加齢臭のオジサン(兄)と並んで外を歩くのは嫌ですし、何と言っても今回はMRIという検査があるので、是が非でもお風呂に入ってもらわねばなりません。

 いつもは「え?別に汚れてないからいいよ」という兄に「いやいや、病院に行くんだから入らないと失礼でしょう」と言い聞かせ、気の進まない兄をお風呂場に連れていきました。着替えを用意し、洋服を脱ぐのを見守りながら、脱ぐ順番まで指示を出し、一枚脱ぐたびに「脱いだ服はカゴに入れておいて」と何度も何度も同じトーンで繰り返しました。

 半裸になると「え?これを着るの?」と湯上がり用に用意した服を持ち上げるので「そうそう、それはお風呂から上がったら着るやつね」と、これまた何度も言わないといけません。いよいよ、あとはパンツを脱いだらお風呂へGOという段階で、わたくしは脱衣所から出て扉を閉めて全裸待ちをいたします。ですが、なかなか浴室に入った気配がしないので、扉ごしに「お風呂入った?」と訊ねました。

 中から「う~ん…まだ」と言うので、扉を開けると5分前と同じパンツ一丁スタイル。「なにモタモタしてんのよ」としか言いようがないのですが、そこはぐっとこらえて「パンツ脱いで、お風呂に入っておくれ」と言い、結局パンツを脱ぐのも見守りました。

 脱いだら脱いだで浴室と脱衣所を行ったり来たりし、やっと入ったと思っても浴用タオルを持ってまた脱衣所に戻り、今度はパンツを持って入ろうとするし、「ドライヤーがないな」と言って探してみたり……。浴室で落ち着くまで無駄に時間がかかります。

 ひとしきり兄のボケに付き合ったあと、兄の背中にシャワーでお湯を掛けながら、兄が体を洗うのを介助し、湯船に浸かって出てくるのを廊下で待ち、兄がドライヤーで髪を乾かしたあと、脱いだ服を再び着てないかカゴの中身をチェックして、垢だらけになった浴室・浴槽を掃除するのです。こんなこと、1か月に何回もできませんでございましょう。

 さて、診察日。

 財前(仮名)先生と2度目の対面は、なぜか前回とは違う印象でした。それはわたくしが徹夜明けでなく、たっぷり睡眠をとっていたせいかもしれませんし、前回の最悪な印象を2か月の間に何倍にも膨らませていたせいかもしれません。時間の関係で先にMRI検査を受けたのもよかったのだと思います。

 先生の診察室に入ると「お待たせしてすみません。MRIの結果が出てきたので、見ながらご説明したいなと思いまして少し遅くなってしまいました」と意外なほど低姿勢。しかも、兄とわたくしの両方に均等に目くばせしながら話し始めたのです。

「画像は頭を横に輪切りにしたもので、黒く映っているのが水分、つまり空洞です」との説明から始まり、全体に縮んでいることを丁寧に説明してくださいました。

 結論的には「だいたい80歳ぐらいの方と同じです」とのこと。わたくしはお兄ちゃんと2人暮らしではなく、実質お爺ちゃんと2人暮らしだったと言えそうです。

 今後の空洞の広がり方によっては性格が変わるかもしれないとも言われました。画像はまだ出来上がっていないものもあるそうなので、次回は改めて全部を説明してもらえそうです。

 案の定、「10mgにしてどうでしたか?」という質問がありましたが、「大丈夫でした」と嘘をついてしまいました。本当のことを言ったら、せっかくのいい空気が台無しになってしまうと思ったからです。「今日は気持ちよく帰りたい」そんな下心がありました。

 前回のような尖った印象がない先生を拝見していたら、ふと「もしかして、介護ポストセブン『兄ボケ』を読んだのでは?」と妄想してしまいました。普通に考えて、それはあり得ませんが、「もしかしてオレのこと?」と思っていただけたのなら、これ幸いです。

前の話を読む 次の話を読む 

この連載の一覧へ!

文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性58才。両親と独身の兄妹が、7年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現62才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

●「要介護認定」のコツ|ケアマネは絶対教えてくれない【裏ワザ】

#介護が始まるときに知っておきたいこと

#介護保険制度の基礎知

ニックネーム可
入力されたメールアドレスは公開されません
編集部で不適切と判断されたコメントは削除いたします。
寄せられたコメントは、当サイト内の記事中で掲載する可能性がございます。予めご了承ください。

この記事へのみんなのコメント

  • 五月ももう終わる

    初代ドラえもんの声優だった大山のぶ代さんもお風呂の入り方が分からなくなり 浴室でぼんやり座っているだけで身体を洗えなかったそうです。案外、お風呂は複雑な機序や判断が必要なのだとか。 お兄さんも何をしようとしていたか混乱するのでしょうね。やはりデイサービスで 週1でも入浴介助をしていただくほうが 良いように思います。ツガエさんにはその時間だけでもホッとしてほしいです。 さて、財前センセイ(仮)、少し優しくなって良かったです。どこか他の患者さんやご家族からクレームが入ったのではないでしょうか。それか気分屋で波があるのかもしれませんね。 病状によっては今後お兄さんの性格が変わるかもしれない、というのが心配です。 なんとか穏やかなままで暮らしてほしいですね。 コロナ禍が長引いていますが、どうかお身体大切になさってください。

最近のコメント

シリーズ

介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
介護付有料老人ホーム「ウイーザス九段」のすべて
神田神保町に誕生した話題の介護付有料老人ホームをレポート!24時間看護、安心の防災設備、熟練の料理長による絶品料理ほか満載の魅力をお伝えします。
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
「老人ホーム・介護施設」の基本と選び方
老人ホーム(高齢者施設)の種類や特徴、それぞれの施設の違いや選び方を解説。親や家族、自分にぴったりな施設探しをするヒント集。
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
「老人ホーム・介護施設」ウォッチング
話題の高齢者施設や評判の高い老人ホームなど、高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップ。実際に訪問して詳細にレポートします。
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
「介護食」の最新情報、市販の介護食や手作りレシピ、わかりやすい動画も
介護食の基本や見た目も味もおいしいレシピ、市販の介護食を食べ比べ、味や見た目を紹介。新商品や便利グッズ情報、介護食の作り方を解説する動画も。
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の悩み ニオイについて 対処法・解決法
介護の困りごとの一つに“ニオイ”があります。デリケートなことだからこそ、ちゃんと向き合い、軽減したいものです。ニオイに関するアンケート調査や、専門家による解決法、対処法をご紹介します。
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
「芸能人・著名人」にまつわる介護の話
話題のタレントなどの芸能人や著名人にまつわる介護や親の看取りなどの話題。介護の仕事をするタレントインタビューなど、旬の話題をピックアップ。
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護の「困った」を解決!介護の基本情報
介護保険制度の基本からサービスの利用方法を詳細解説。介護が始まったとき、知っておきたい基本的な情報をお届けします。
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
切実な悩み「排泄」 ケア法、最新の役立ちグッズ、サービスをご紹介
数々ある介護のお悩み。中でも「排泄」にまつわることは、デリケートなことなだけに、ケアする人も、ケアを受ける人も、その悩みが深いでしょう。 ケアのヒントを専門家に取材しました。また、排泄ケアに役立つ最新グッズをご紹介します!