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高齢の親と上手につきあうための7つのルール 親の自尊心を傷つけない話し方のコツ

 親は高齢になっても、子供になるべく迷惑をかけずにいたいもの。その思いが、時には裏目に出て反発心を生んでしまう。親の自尊心を傷つけず、良好な関係で日々を過ごしていくために必要な7つのルールを3人の専門家が伝授。

【1】言いたいことは相談の形で

「改善してほしいところは相談する形で話すと、角が立たずに伝わりやすい」

 そう教えてくれたのは、老年学研究者・島影真奈美さん。

「明らかに危ない場合でも、『危ないからどかすよ』といった“結論ありき”の物言いは禁物。売り言葉に買い言葉で、もめ事に発展しやすくなります。

『つまずいて転びそうで心配だから、ほかの場所に移してもいい?』と心配していることを率直に伝えつつ、相談するのが鉄則です。『この子は私の気持ちを聞いてくれる』と、親も応じやすくなります」(島影さん)

親に皿洗いが上手でさすがーと言っているイラスト

 ほめられて嫌な気分がしないのは老いも若きも同じ。日本老年医学会専門医 榎本睦郎さんは、

「高齢になると『なぜできないの?』『またこぼして』などと、ダメ出しをされることが増えていきます。

 でも、否定的な言葉ばかりをかけられると、自信をなくしてイライラがつのり、気分も暗くなってネガティブになっていくのです。大事なのは、些細なことでもほめること。たとえ10分の散歩でも、『たった10分』ではなく『10分も歩いてすごい』と、よいところを見つけてほめてください。毎日少しずつでもほめていけば自信につながり、元気になっていきます」(榎本さん)

【2】気持ちに寄り添い受け止める

「高齢者になると、活動範囲が狭くなり、興味の対象が限られるため、同じ話を繰り返すことが増えます。これは、知的活動を司る前頭葉の機能が衰えてしまうため。前頭葉は、加齢によって脳のほかの部分より早く衰え始めるので、60才を過ぎれば大半の人が低下し始めます」(榎本さん・以下同)

親の昔話をおだてる子供のイラスト

 何度も同じ話をされると、「その話、聞くの1000回目!」などと、きつく言い返してしまいがちだが、こう言われると高齢者は否定された、認知症扱いされたと思い、ますますへこんでしまう。

「高齢者にとって何よりもマイナスなのは、やる気をなくすこと。やる気がなくなると、食欲が衰え、外に出る気力も衰え体力が低下していきます。それを防ぐためには、同じ話を何回もしても『またか』と思わず、『へえ、すごいね』と受け止めたり、話のキーワードを繰り返してみましょう。気持ちに寄り添い『興味を持って話を聞いてもらえた』と満足感を持ってもらえれば、同じ話を繰り返すことが少なくなっていきます」

【3】大事なことは第三者に言ってもらおう

 家族、とりわけ自分の娘や息子に「こうしろ」「ああしろ」と言われると、親は「お前に言われたくない」と頑なになってしまいがち。

「第三者から言ってもらうと、すんなりいくケースが多いんです」と島影さん。

 第三者とは医師や看護師、ケアマネジャー、ヘルパーなど。

医者の話を素直に聞いている老人のイラスト

「子供が『頑張って水分とってよ』と言ってもなかなか聞いてくれないのに、医師から『もうちょっと水分をとった方がいいですね』と言われると、すんなり飲むようになることも多いんです。親の体面を保つためにも、家族以外にいいところを見せたいと思うものなので、第三者から伝えてもらうとスムーズです」(島影さん)

【4】役割を確保する

 必要とされてないと感じると、やはりネガティブな方向に考えるようになるもの。

「それを回避するためにも、子供から親に“頼る”ことが大切です。『ちょっと洗濯物をたたんでもらえる?』『洗い物を手伝ってもらえる?』など、簡単な家事は手伝ってもらいましょう」

 と、教えてくれたのは、医師で医学博士でもある平松類さん。その中でも、うってつけなのが植物を育てることだ。

植物の世話をしている老人のイラスト

「植木の水やりは体への負担も少なく、なおかつ植物が成長していく過程を楽しめるので、気持ちを前向きにするのにぴったりです。植木鉢の花を育てるのもいいですよ」

 庭仕事は軽い運動にもなるので、おすすめだ。

【5】ポジティブな言葉をかける

「同じ内容でも言葉の選び方で印象は変わる」と、榎本さんは言う。

「認知症かなと思っても、“認知症の検査”はNGワード。代わりに“物忘れ”という言葉に置き換え、『物忘れには、進行を遅らせられるいい薬があるから、いまのうちに検査しておくと安心よ』などと、前向きな言葉をかけましょう。親が薬をのみたがらない場合も、『のんでおくと安心』と伝えると好意的に受け取ってくれます」(榎本さん・以下同)

【6】あなたも一緒に楽しむ

 昔好きだった趣味を親がやりたがらない。そんな場合は、教えてもらいたいと親に持ちかけるのがコツ。

「『ここわからないんだけど、教えてくれる?』『これで合っている?』などと、親に教えてもらおうとすれば、『ちょっと私に貸しなさい!』などと、やってくれるようになることもあります」

 あれこれ教えてくれたら、前向きになっている証拠だ。

【7】人からの刺激を与える

 感情がコントロールできなくなってきた親には、人との距離を遠ざけるのではなく、人からの刺激を与えること。

あの人の帽子ステキー! と言っているイラスト

「毎日、同じ人とばかり話しているのでは刺激がないため、脳の神経回路がどんどん働きにくくなります。緊急事態宣言もあり、会うのは難しいかもしれませんが、オンラインなどで遠方の子供や孫と話す機会を作るのもいい。

 あるいは外に出て、人間観察をするだけでもOK。他人を見て『あの人の服装、ステキ』と、思うだけでも、充分脳には刺激になります」

取材・文/廉屋友美乃 イラスト/はまさきはるこ

※女性セブン2021年6月10日号

教えてくれた人

榎本睦郎さん/日本老年医学会専門医 榎本内科クリニック院長高齢者を中心に地域医療に励む。著書に『老いた親へのイラッとする気持ちがスーッと消える本』(永岡書店)ほか。

平松類さん/医師・医学博士 眼科医。のべ10万人以上の高齢者と接してきており、シニア世代の症状や悩みに精通。著書に『老人の取扱説明書』(SB新書)ほか。

島影真奈美さん/老年学研究者 ライター・編集者。夫の両親との別居介護の経験をもとにもめない介護にまつわる情報を執筆。著書に『子育てとばして介護かよ』(KADOKAWA)。

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