公開日:2021.07.09    6

認知症の母が午後2時に焼いた”朝ご飯”の目玉焼き…息子がとった行動は?

 岩手・盛岡にひとり暮らししている認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。1か月ほど帰省して母と過ごしていたある日の午後、台所でお母さんが毎朝のルーティンになっている目玉焼きを焼いていた…。午後2時の光景を見た息子がとった行動とは…。

認知症の母が焼く目玉焼き
認知症の母が午後2時に目玉焼きを焼いている…(写真提供/工藤広伸さん)

認知症の母が午後2時に焼いた目玉焼き

 わが家の朝食は、目玉焼き、もやし炒め、食パン、牛乳が固定メニューになっていて、おそらく5年以上変えていません。その成果なのか、認知症が進行した今でも、朝食の作り方を覚えています。

 朝食の時間は6時前後が多いのですが、母が朝4時に起きて準備してしまう日もあります。この日は5時30分と、いつもより少し早めの朝食になりました。

 穏やかな1日の始まりだったのですが、このあと思わぬ光景に出くわすことになるのです。

昼食後につい昼寝をしてしまった!

 朝食を食べ終えたあと、母はいつもどおりテレビを見て過ごしました。

 昼食はだいたい11時から11時30分の間に食べ始めることが多く、この日はわたしが材料をすべて準備して、母にきつねうどんを作ってもらいました。

 お腹も満たされたところで、わたしは2階の自分の部屋に戻って、仕事を開始。母は使った食器を洗い終え、洗濯物があれば、取り込んで衣服を畳む時間です。ただ、洗濯物が乾いてなくても取り込んでしまうため、母の見えないところに洗濯物を隠さないといけません。

 この日も洗濯物は乾いていなかったので、自分の部屋に避難させました。母は午後の仕事がなくなってしまったので、ゆっくりテレビを見始めました。

 わたしは机に座ったものの、少し早めの朝食だったせいか眠くて、ふとんで15分ほど昼寝をすることに。横になり軽く目をつむったのですが、そのまま深く眠ってしまい、起きて時計を見ると14時3分。しっかり1時間近く眠ってしまったのです。

 しまった! 慌てて1階に降りると、母が台所に立って何かをしています。わたしの姿を見るなり、こう言ったのです。

母:「おはよう」

わたし:「おはよう?」

 午後2時に、おはよう? 悪い予感しかしませんでした。続いて、パチパチという音が、台所に鳴り響いています。

 最初は何が起きているのか、状況が飲み込めませんでした。しかし、パチパチという音の正体が目玉焼きを焼く音で、さらに居間にあった食パンを見て、すべてが理解できたのです。

 母は午後2時に、朝食の準備をしていました。

母の昼寝を阻止する理由

 わたしが1時間の昼寝のあと、しまった!と思ったのは、寝すぎたからではありません。母の昼寝を阻止できなかったからです。

 認知症の代表的な症状の中に、見当識障害があります。今自分の居る場所がどこで、時間や季節が分からなくなる状態を指すのですが、母は昼寝やうたた寝の直後に、この状態になりやすいのです。

 また、母は昼寝し過ぎると夜眠れなくなり、起床が朝3時や4時になります。そのため、一緒に生活しているときは、あまり長い昼寝にならないよう、1時間に1回は母の様子を確認して、寝ていたら起こすようにしています。

 この日はおそらく、わたしが昼寝していたのと同時に、母も寝てしまったようです。起きた瞬間、朝と勘違いし、そのまま朝食の準備を始めてしまったのです。

 いつもなら時計を見て、自分の間違いに気づくはずなのに、朝食まで準備してしまうなんて。ショックを受けつつ、冷静になったところで、声のトーンを押さえながらこう言いました。

わたし:「はい、あの時計を見てください。何時ですか?」

母:「何時なの、いま?」

わたし:「(時計を指さして)これこれ、今何時になってますか?」

母:「えっと、2時過ぎね」

わたし:「はい、正解!2時は朝? 昼?」

母:「お昼よね」

わたし:「(今度は目玉焼きを指さして)じゃあ、これは? さっき、お昼にきつねうどんと柏餅食べたよ」

母:「え、お昼食べ終わってたの。朝かと思ったわ」

 わたしも起きた直後は、今が朝なのか夜なのか、寝ている場所が東京の家なのか、岩手の実家なのかと混乱しますが、数秒で戻り、現実を理解できます。母は、どこかで気づけなかったのか? しかも、2時間前に食べたばかりの昼食も、忘れてしまっているようでした。

認知症の進行を強く感じた日

 母は、起きた直後に亡くなった祖母がそこにいたと言ったり、結婚して別の家に住んでいる娘を探したりしたことがありました。しかし今回の出来事は、これまでとは明らかにレベルが違います。起きてから10分経っても、現実を理解できていなかったのです。

「なんで、午後2時に朝食作ってるの!」ぐらい言ってもおかしくない状況で、あまりに驚いてしまい冷静に対処した自分に恐怖を感じました。

 きっと、ここまで認知症が進行してしまったのかという諦めの思いが、こういった行動につながったのだと思います。

 目玉焼きは、昼食を食べ終えた直後だったので、手をつけずに冷蔵庫に片づけました。

 この日の夕食は、しゃぶしゃぶ。材料の種類が多い鍋物はわたしが準備するのですが、何も言わずに、母が作った目玉焼きをご飯に乗せて出しました。すると母は、こう言ったのです。

母:「あら、何なの? この目玉焼き?」
 
 久しぶりのしゃぶしゃぶを親子で堪能し、ご飯の上のトッピングである目玉焼きを何事もなくおいしく頂きました。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)。音声配信メディア『Voicy(ボイシー)』にて初の“介護”チャンネルとなる「ちょっと気になる?介護のラジオ」(https://voicy.jp/channel/1442)を発信中。

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▶コメント

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  1. さくらんぼ より:

    初めまして

    宮城県在住。コロナのせいなのか東京で暮らす両親(父90、母87才)二人とも認知症になってしまいました。介護のため離職し、宮城-東京間を月1、2 回行ったり来たりの生活を始めて10ヶ月。この先、どうしたらいいのか悩んでいたところ たまたま移動中の高速バスの中で記事をみつけました。
    これから他の記事も読ませていただき参考にさせていただきますね。
    今のところ なかなか『しれっと』の境地には至りませんが 皆さんの 
    お話を聞けるだけでも救われる気がします。

    9+

  2. K より:

    私の両親は2人で調布の実家に暮らしており、私は世田谷区で1人暮らしをしています。
    母は5年程前から少しずつもの忘れ(認知症)の兆候が見られたのですが、2週間前に父が多発性脳梗塞で緊急入院し、実家の母を案じて調布から会社に行くようにしたのですが、明らかにもの忘れが進行しました。
    急ぎ、地域包括センターやかかりつけの先生への相談を始め、向き合い方を調べていたところ、この工藤さんの記事にたどり着きました。
    母の現状とそっくりで、とても参考になります。
    まだこの状況に向き合い始めたばかりなので、工藤さんの記事すべてに目を通し、「しれっと」付き合っていけたらいいな、と思っています。
    ※父は退院してほぼ後遺症もなく、母の現状を把握出来ていない状況です。

    6+

  3. ぽよん より:

    初めまして。
    「しれっと」……クスッと笑ってしまいました。良いですね!色々な想いが重なる様子が実感をもって伝わります。

    2+

  4. 英子 より:

    私も91才の母の介護をしてますが、認知症が進んだ❗と気付いた時のショックは本当に凄いです。冷静でいられません。母は認知症だけで要介護3ですが料理は全く出来ません。後、何ヵ月続けられるのか分かりませんが、もう少しやってみます。

    14+

  5. やしま より:

    私の祖母も認知症でした。
    小学生の頃まで一緒に住んでいて、その後入院し、老人ホームに入ってしまったので、一緒に住んでいた時のことはうろ覚えです。
    『家にお相撲さんがいる』とか、ヘルパーさんに対して、『あの人には気をつけて!くっついてくるのよ!』と言ったり、怖いと言うので、犬のぬいぐるみをかしてあげたら、紙袋に入れられていて、『かじられちゃうから』と言ったりしていました。
    認知症ってこんなにおかしくなっちゃうのか、と思いました。
    私が19の時に祖母は亡くなりましたが、その時に母が『おばあちゃん、自分がおかしくなっていくのに気づいていて、泣いてたんだよ』と教えてくれました。段々と自分がおかしくなっていくのが怖かったんだそうです。
    おかしくなった時の自分と、現実に戻った時の自分の事をわかっていたんだそうです。
    認知症になった本人も辛いんだな、とその時に始めて知りました。
    もっと早く教えてくれていれば、認知症になってしまった祖母ではなく、認知症と戦っている祖母として接することができたのではないかと思いました。
    子どもにそんな事教えてくれなかったかもですけど。
    自分のことばかり書いてすみません。
    この記事を読んで思い出したことだったので思わず書いてしまいました。
    しれっと対応できる方が、お母様にとっても、ご家族にとってもいいことなんだと思います。
    私も今後介護が必要になる時がきたら、しれっとやっていきたいです。

    16+

  6. より:

    初めまして。
    記事を読ませて頂きました。症状が父と同じです(笑)
    私は10年位前から両親の介護をしています。
    イライラして大喧嘩になる事もありますが、なかなか楽しい介護ライフだと思っています。
    遠距離介護はとても大変だと思いますので、どうかご自愛頂きつつお過ごし下さいませ。
    突然のコメント、失礼致しました。
    それでは…。

    9+