完璧に計算された寸分の隙も無い緻密な脚本と構成。諦観漂う現代にあって、フィルムから痛烈に訴えられる確固たる普遍的テーマは、海外映画祭でも上映され、国籍を超越した感動の波動を与えつつある。間違いなく『カメ止め』は日本映画史に残るばかりではなく、世界の映画史に燦然と光り輝く不滅の金字塔として後世、子々孫々までに語り継がれよう。そして『カメ止め』をリアルタイムで観ることの出来る私達は、時代の幸運のただ中にいるのだ。
◆聖地水戸市へ
私は矢も盾もたまらず、この映画のロケ地に向かいたくなった。詳細はネタバレになるので一切書かない(ので安心して本稿を読了されたい)が、『カメ止め』のロケ地には茨城県水戸市にある芦山浄水場が重要施設として選ばれている。いやこれだけの低予算が故に、ただこの一か所のみが本作を構成する「聖地」であると言うほか無い。私は、水戸市にロケ地現場の取材許可を申し込む必要があった。
この芦山浄水場は昭和7年(1932年)に建設され平成5年(1993年)まで稼働していたが、その後閉鎖され、現在は四半世紀の時を経て徐々に風化が進んでいる水戸市所有の公有廃墟だからである。アニメ作品のモチーフとなった土地を散策する「聖地巡礼」と違い、こちらは市の許可無しに入ることは出来ないのである。
無論、市役所から快諾を得た私は、えいとばかりに常磐道をひたすら百キロ北進し、茨城県の県都水戸にたどり着く。