◆野田氏は「(小池氏とは)しっかり連携しています」
そんな難しいポストに小池氏が野田氏を推薦した背景には、野田氏に天下り先を用意するという見方のほかに、別の思惑があったとも囁かれる。
「2017年の衆院選で小池氏の国政進出に最後まで反対したのが野田氏でした。これを機に対立は大きくなっていき、最近では都庁にあまり姿を見せなくなっていた。小池さんは、野田氏の処遇をどうするか悩んでいたようだ。
ただ、小池さんの表も裏も知る野田氏を一方的に切り捨てるわけにもいかない。そこで目をつけたのがTSSの社長ポスト。目の前の“締め切り(TSSとPUCの統合)”に追われるし、改革が頓挫しても野田自身の責任にできる」(都民ファーストの会関係者)
実際のところはどうなのか、筆者は野田氏に連絡を取った。
──TSSの社長に推薦された。
「私は今、就任もしていないので、お話をできるような状況ではありません。しかるべき時に改めてお話ししたいのですが」
──株主総会はいつ?
「私は“まな板の上の鯉”の状態なので、申し上げられない」
──TSSは専門性の高い企業ですが、野田さんは門外漢なのではとの指摘もある。
「私は申し上げづらいところです。ただ、あえていえば私は、3年近く特別秘書職を務めてきました。それが関連するところがあると都は判断されたのだろうとは思う。はっきりとはわかりませんが」
──会社統合も控え、この1年は難しい舵取りを迫られる。
「就任前なのでコメントは控えさせてください」
──自民党から「天下りではないか」との批判もある。
「それについてもまあ、私はまな板の上の鯉ですから(笑い)」
──昨年来、小池さんとの間で隙間風が吹いていると見る関係者もいる。
「いろいろな噂は立ちがちですが、しっかり連携していますので。小池知事とはもう20数年と長い人間関係があります。その間にはいろいろなものがありますよ。今後もしっかり連携してやっていくということで間違いありません」
〈人のお世話にならぬよう、人のお世話をするよう、そして報いを求めぬよう〉
3年前、都知事就任時の所信表明で、小池氏は約100年前の東京市長、後藤新平が残した言葉を引用した。
都民の財産を自らの“報い”につなげてはいけないと誓った言葉は、都議会自民党の“古い都政”への痛烈なアンチテーゼだった。この言葉は今、小池氏に突きつけられている。
側近人事が都民や国民に報いる改革につながるか、小池ファーストに終わるのか。1年後にははっきりするはずだ。
◆取材・文/広野真嗣(ジャーナリスト)