発生直後、各メディアは事件の起きた東新宿のマンションを「2人が数日前から同棲を始めた部屋」と報じた。またネットに拡散された現場写真では、血まみれで横たわる男性が全裸に見えるため、「性行為中に男性のところに他の客から電話がかかってきたため、激高した高岡容疑者に刺された」という話まで、まことしやかに広まった。
「そもそも僕は、この店に入ってから同僚たちと寮で暮らしているんです」と琉月さんは否定し、彼女との出会いから事件の経緯までをこう話す。
「半年前、高岡さんが勤務していたガールズバーに偶然遊びに行ったのが出会いでした。そこからしばらくは連絡をとっていなかったんだけど、4月の頭に、僕が働くホストクラブに来てくれて、頻繁に通ってくれるようになりました。彼女に誘われて、“ねこカフェ”に行ったり映画を見に行ったりすることもありました。お店ではいつも指名してくれて、そのおかげで5月には初めてナンバーワンを獲得しました」
ふたりは確かに親しかったが、それはあくまで「ホストと客」という関係性だったようだ。また、「激高しやすい」「エキセントリック」と報じられた高岡容疑者だったが、琉月さんの前では別の顔を見せていた。
「とにかく良い子だった、という印象しかないんです。ぼくはあまりお酒が飲めないんですが、高岡さんもそれを分かっていて“私の卓では飲まなくていいよ”と気をつかい、営業成績が伸び悩んでいると、接客のアドバイスをしてくれました。そんな風にお金を使ってくれる彼女の要望にできる限り答えたい、と思っていたところ、“部屋に大きい荷物が届くからお昼頃から片付けを手伝ってほしい”と言われていたんです。それが5月23日でした」
朝営業のホストクラブは昼頃には終わるはずなのだが、その日は、仕事が長引いてしまったという。
「彼女の部屋に着いたのが午後3時でした。片付けは手伝えたのですが、朝早くから仕事していて、かなり疲れていたのでお風呂を借りて仮眠をとらせてもらいました。僕、お風呂あがりはパンツ1枚で寝るんです。写真が全裸に見えたのは角度の問題で、パンツは穿いていました。事件は寝ている間に起きたんです。
お腹に違和感があり起きると、包丁が刺さっていて血だらけになっていました。不思議なことに痛みはなかったのですが、驚いたのと恐怖を感じたのとで、ベッドにいた彼女を突き飛ばして逃げ出しました。部屋の中を彼女が追いかけてくるんです。“殺される”と思って無我夢中で逃げました。玄関まで逃げて、ひきとめられたんですが、そこも振り切って、エレベーターに乗って……エントランスについたところで意識を失いました。あとのことは覚えていません」
報道によれば高岡容疑者は「刺したあと彼に“好きだ”と言われ、うれしかった」と供述しているという。
「確かに逃げている時に“私のこと好き?”と聞かれて、咄嗟に“好きだ”と言いました。でもそれには理由があります。これ以上刺されたら死んでしまうと思ったし、救急車を呼んでほしい一心で、そう言ったんです。彼女が僕に好意を持っているというのは分かっていました。そう言ったらやめてくれると思ったんです」
実際、救急車を呼んだのは高岡容疑者ではなく、通りかかった近隣住民だった。高岡容疑者は、「彼が死んでいくところを見守りたかったからずっとそばにいた」と供述している。意外なことに琉月さんは高岡容疑者を「恨んではいない」という。