レモンを「甘い」と感じるまで稽古しろ
歌舞伎の伝統が長い歴史を紡ぐなかで、その世界の特殊性も醸成されていった。「師匠」と「弟子」の関係は絶対であると同時に、師匠の引き立てをもらうことで、歌舞伎役者は初めて舞台に立つことができる。しかし、「芸の相伝」と「ハラスメント」の境界が曖昧なのもまた事実だ。
「歌舞伎界には、“とにかく汗を流して、汗を流して、レモンをなめたときに『甘い』と感じるまで踊らなければ、稽古したとはいえない”という話があります。まるで昭和の部活動で、科学的とはまったく言えない。しかし、そういった考えがまかり通る世界なのです」(前出・歌舞伎関係者)
旧態依然とした上下関係に、ハラスメントは隠されている。2001年、当代一の女形と呼び声高い坂東玉三郎(73才)は、元弟子(当時19才)とその母親から1200万円を求める民事訴訟を起こされている。元弟子の入門直後の1996年、地方公演で宿泊したホテルで、玉三郎がズボンの上から弟子の股間を触ったことへの精神的苦痛にともなう慰謝料請求だった。
また、昨年8月、市川中車(香川照之、57才)の銀座クラブホステスへの性加害が『週刊新潮』で報じられた。
「表舞台から姿を消すきっかけになった性加害は銀座の夜の女性に対するものでしたが、騒動渦中には『週刊文春』で、香川さんの理詰めの叱責を繰り返し受けた若手の男性マネジャーが精神を病み、退職を余儀なくされたとも報じられました」(スポーツ紙記者)
さらに本誌『女性セブン』は、今年4月27日発売号で、尾上菊之助と、一門に長年仕えた弟子・尾上音三郎(50才)の衝突を詳報した。菊之助の長男・丑之助(9才)への指導を巡って、菊之助は音三郎を繰り返し叱責。菊之助は音三郎を自宅に呼びつけたうえ散々に罵倒し、「息子に土下座しろ!」と迫ったこともあったという。