生前の里菜さん(写真/里菜さんの母親提供)
死の前月に残していた母親への手紙
薬物依存の入院を控え、身を寄せていた場所で、自分の娘が突然亡くなったと知らされたのだった。
「実は中田被告は、娘の子供も預かりますよと言ってくれていたんです。結婚したい、3人で暮らしたい、とまで言ってくれてたんです。これで娘も幸せになれるのかなと思っていたのに、こんなことになってしまって、しかも殺された理由も納得できるものではありません」
中田被告は法廷で「覚醒剤の売人と里菜さんがグルになって、自分を脅迫していた」と証言した。「でも本当に娘が売人とグルになっているのだとしたら、娘を殴ることで、売人から報復されると思うんです……」と、里菜さんの母親は中田被告の言い分に疑問を呈する。事件当時、指名手配中だった“売人”は、法廷で証言することもなく、現在、別件の高級車窃盗の罪で逮捕起訴されている。中田被告の主張する“脅迫”が存在したのか、法廷では語る機会のなかった“売人”に手紙を送っても返信はなかった。
「なんでこんな死に方を……」と、里菜さんの母親は再び声を詰まらせ、振り返った。
「娘には、私が仕事ばかりで育児をできていなかったことで、寂しい思いをさせたし、大人になり、娘もやっと結婚して自分の人生を幸せに送れるんだと思っていたら、DVを受けて。そこから逃れて風俗で働き始めたら覚醒剤をすすめられ……。私の勝手な想像ですが、娘は辛い人生やったやろうなと思う。殺害された前月、たまたま私に手紙を書いてくれていたんです。生きづらい人生やったにもかかわらず『産んでくれてありがとう。お母さんの子でよかったよ』って……。
あのときこうだったら、と思うことはたくさんあります。私の再婚相手とのこともそうですし、役所の対応もそうです。娘が薬物から抜け出すきっかけがあったのに、そこに至る前に殺害されてしまった。中田被告から謝罪の言葉は受けていません。法廷では、裁判官や裁判員に向かって、娘の命を奪ったことに対して『申し訳ありませんでした』と言っていましたが、私のところにはありません」
中田被告は懲役10年の大阪地裁判決を不服として控訴していたが、7月9日に大阪高裁は控訴を棄却。その後、中田被告は上告している。マンション居室という密室での死亡事件において、そこで起きたことを語れるのは、残された加害者だけ。里菜さんの母親は法廷での中田被告の言い分に納得できないままだ。
◆取材・文/高橋ユキ(フリーライター)