健康

聴覚の衰えは50代から始まる|本当につらい難聴の主な種類・特徴・治療法を医師が解説

 今年1月、アイドルグループ「Hey! Say! JUMP」の八乙女光(31才)が突発性難聴により活動を休止した。同様の症状に悩む芸能人は多く、歌手のスガシカオやタレントの相田翔子らも闘病を告白している。芸能人だけではない。コロナ禍のストレスで、耳の不調を感じる人が増えているという。その原因と治療法を専門家が解説する。

聴覚の衰えは50代から始まる

 たびたびニュースにあがる有名人の突発性難聴―ー。特別な病気であり、自分には関係ないと思っている人が多いようだが、実はそうではない。

「聴覚は50代から衰え始め、65~74才では3人に1人、75才以上では約半数が難聴を発症。最初は高音域が聞こえにくくなります」

 とは、自治医科大学名誉教授で耳鼻咽喉科専門医の市村恵一さん(「」内、以下同)だ。

 難聴は、加齢とともに誰もがなる症状なのだ。さらにストレスも関係しており、コロナ禍のマスク生活で、声が聞きづらくなったという人が増えているという。

「耳は、音を伝える“外耳”“中耳”(伝音系)と、音を感じる“内耳”“蝸牛(かぎゅう)神経”など(感音系)から構成されています。難聴はその機能のいずれかに異常が起こることで発症します。これは年齢に関係なく起こり、若いから大丈夫というわけではありません

 子供のかん高い声がわずらわしいと感じたり、声をかけても返事をしてもらえないと感じる経験があれば、難聴の可能性が高いという。

“聞こえ”の仕組み

 外耳道から入った音が鼓膜を震わせ、その振動を中耳が内耳に伝え、内耳が信号に変換して脳に伝達し、“聞こえる”という状況が生まれる。

難聴はうつや認知症の引き金にねることも…

 難聴の治療で重要なのは、早期発見・早期治療だと市村さんは言う。放っておくと別の問題を引き起こすからだ。

「難聴になると、円滑なコミュニケーションがとりにくくなります。声をかけられているのに気づかず無愛想だと勘違いされたり、つい大きな声になってしまうことで相手を不快にさせてしまったり…。そんなことが続けば、話すのも話しかけられるのも億劫になり、引きこもりがちに。次第に孤独感にさいなまれ、うつ症状を起こすケースが多いんです。また、人との会話が減れば、認知症のリスクも高まります」

 国際アルツハイマー病協会も、「難聴が認知症発症のもっとも大きな要因である」と報告している。

「耳からの情報が脳に届かなくなると、脳の機能も衰えます。耳から情報を入れることは、脳を活性化させるだけでなく、心の健康も維持してくれます。少しでも不調や聞こえづらさを感じたら、すぐに検査を受けてください」

 下記チェックリストも参考にしつつ、聞こえづらさはないか確認し、検診を受けてみよう。

あなたは大丈夫? 難聴チェックリスト

1個でも当てはまったら病院で聴力検査を!

□「1時」と「7時」など、似た言葉を聞くとよく間違える。

□ 相手の話を聞き返すことが増えた。

□ 騒々しい場所での会話は、理解するのが疲れる。

□ バラエティー番組などの速いテンポの会話についていけない。

□「声が大きい」と言われるようになった。

□ テレビなどの音量を下げたり上げたりという動作が増えた。

場合によっては腫瘍ができている可能性も!

 難聴といってもさまざまな種類があるが、大別して「感音難聴」と「伝音難聴」がある。なかでも多いのが「感音難聴」の一種である「加齢性難聴」だ。しかし最近は、スマホなどの普及により、若者を中心に「急性低音障害型感音難聴」や「騒音性難聴」も増えているという。

「上記以外でも、おたふく風邪(ムンプス)のウイルスによる『ムンプス難聴』もあります。これは発症したが最後、片耳(まれに両耳)の聴力が失われます。予防にはおたふく風邪の予防接種が必要です」(市村さん・以下同)

 ほかにも、耳の閉塞感や耳鳴り、吐き気や強いめまいを起こす「メニエール病」、通常閉じている耳管が開きっぱなしになる「耳管開放症」や、逆に耳管が狭くなる「耳管狭窄症」も、聞こえにくさを起こすという。

「難聴の症状は基本、両耳同時に出ます。片耳だけの場合、『聴神経腫瘍』という腫瘍ができている場合もあるので、少しでも聞こえづらさを感じたら、侮らずに医師に相談を」

こんなにある! 難聴の主な種類と特徴

感音難聴【1】:加齢性難聴

原因は老化なので誰もがなると覚悟を!

●原因

 音の振動を信号に変えて脳に伝える内耳の有毛細胞が加齢で減少して起こる。内耳から脳へ音を伝える神経経路の障害、脳の認知機能低下も関連。

●特徴

 左右の耳、どちらも同時に進行。小さい音は聞こえにくいが大きい音はうるさく感じる。

●治療法

 耳にやさしい生活を心がけ、補聴器を活用。

感音難聴【2】突発性難聴

突然起こるのが特徴。国内で年間3~4万人が発症

●原因

 ストレスや内耳の循環障害、神経障害などが疑われるが、原因は不明なことが多い。

●特徴

 突然、片耳だけが極端に聞こえにくいか、聞こえなくなる。めまいや耳鳴り、吐き気が起こる場合も。年齢に関係なく若くても発症する。

●治療法

 耳にやさしい生活を心がける。早期発見なら薬物治療も有効。

感音難聴【3】:急性低音障害型感音難聴

低い音だけ聞こえない! 20~30代に急増中!!

●原因

 ストレスや運動・睡眠不足から起こる肩こり、疲労が蝸牛のリンパのむくみ、血流の滞りを促して起こす。

●特徴

 片耳だけ、低い音だけ、突然聞こえにくくなる。「ぼー」という低い耳鳴りが続くことも。また、ふわふわとしためまいも起こる。再発しやすい。

●治療法

 肩こりを解消させ、しっかり休む。漢方薬や利尿薬も有用。

感音難聴【4】:騒音性難聴

別名「スマホ難聴」。騒音が大きい職場も要注意!

原因

 長時間、継続的に85デシベル(カラオケの音やパチンコ店内、工事現場などでの騒音レベル)以上の音を聞き続けると、聴覚器官(主に有毛細胞)に損傷が起こる。

●特徴

 イヤホンを耳の穴にさした状態で、音楽を聴き続けるとなりやすい。高音の耳鳴りがする。

●治療法

 補聴器。音の刺激を減らす。

感音難聴【5】:先天性難聴

主に遺伝が原因。500~1000人に1人が発症

●原因

 主に遺伝が原因だが、3~4割は非遺伝性。胎内でのウイルス感染や出生時仮死、低体重などが影響。

●特徴

 耳が聞こえないことによる脳の活性不足から、学習障害や発達障害の合併が懸念される。

●治療法

 早期発見、早期治療が重要。1才前から補聴器の装着による療育、または人工内耳手術も。

伝音難聴

もっとも改善しやすい難聴。一時的なケースも多い

●原因

 外耳炎、急性中耳炎、慢性中耳炎、耳小骨外傷、外耳道の耳垢が詰まっているなどが原因で、伝音系の器官に問題が生じ、聞こえにくくなる。

●特徴

 耳鳴りがする。耳が閉じたような感覚があり、音が小さく聞こえる。感音難聴より改善しやすい。

●治療法

 投薬、手術などで改善。耳垢をとるだけで改善することも。

教えてくれた人

市村恵一さん/自治医科大学名誉教授・耳鼻咽喉科専門医

取材・文/簗場久美子 イラスト/飛鳥幸子

※女性セブン2022年3月17日号
https://josei7.com/

●松崎しげるも…加齢による難聴は補聴器利用でコミュニケーションがスムーズに

●聞こえにくさを放置すると難聴や認知症に|耳かきやストレスが原因の場合も

●老人性難聴は認知症発症の危険も!脳の認知機能を高める「耳トレ」で対策を

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