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2017.08.03 17:00  マネーポストWEB

日銀黒田総裁 家計にカネが眠る日本の実態理解せぬ無責任役人

日銀の政策は矛盾だらけ

 日本には多額の金融資産が眠っている。ところが、その金が社会を潤している実感がわかない。経営コンサルタントの大前研一氏が、なぜ、このように奇妙な姿をした世界でも有数の「黄金の国」が生まれてしまったのかについて解説する。

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「黄金の国ジパング」──。かつてマルコ・ポーロは『東方見聞録』で日本をそう紹介したとされる。だが、この言葉は、まさに2017年の現在の日本に当てはまる。今や全国すべての家の屋根や屋上に金箔を貼り付けたとしてもお釣りが来るぐらい、家計にお金が眠っているからだ。

 日銀が発表した資金循環統計によると、家計が保有する金融資産は2017年3月末時点で1809兆円(うち現金・預金は932兆円)に達し、年度末としては過去最高を記録した。民間企業の金融資産も1153兆円(同255兆円)で過去最高となった。

 個人と企業を合わせると約1200兆円ものお金を、日銀のマイナス金利政策でスズメの涙ほども金利がつかない銀行などにジーッと寝かせているわけだ。実際、銀行や信用金庫などの預金残高は3月末時点でやはり過去最高の1053兆円に達している。その一方で、消費や設備投資は一向に増えない。こんな国は世界のどこにもない。これが、私が本連載などで何度も指摘している「低欲望社会」の異常である。

 金融資産にしろ銀行預金にしろ、保有している人の多くは退職金や年金を預け続けている高齢者だ。働き盛りの20~40代は、むしろ子育てや住宅ローンの返済などに追われて蓄えを増やす余裕がない。では、なぜ高齢者は金融資産を使わないのか? 将来が不安だからである。ならば、その不安を解消すればよい。それだけで膨大なお金が市場に出てくるはずだ。

 ところが、安倍晋三首相と日銀の黒田東彦総裁がやっていることは全く逆だ。2017年版「高齢社会白書」などによれば、日本は少子高齢化によって2016年10月1日時点で7656万人の生産年齢人口(15~64歳の人口)が毎年減り続けて2029年に6951万人と7000万人を割り、2065年には4529万人にまで減少すると推計されている。

 そういう中で安倍首相はアベノミクス「新・3本の矢」の「第一の矢」として名目GDP(国内総生産)を現在の500兆円から600兆円に増やすという目標を掲げている。GDPを増やすためには、生産年齢人口を増やすか、労働時間を増やすか、労働生産性を上げるしかないが、日本は生産年齢人口が減り、残業規制で労働時間も減り、ホワイトカラーの労働生産性は欧米よりも格段に低いままである。GDPが増えるはずはないだろう。

 そして黒田総裁は、給料がほとんど上がらないこの時代に、消費者物価上昇率2%を目指すインフレ・ターゲットを継続している。頭が混乱しているとしか思えないが、どうしてこんな明らかに矛盾した政策を何年も続けているのか?

 安倍首相らは、アメリカからノーベル経済学賞受賞者のポール・クルーグマン教授や、FRB(連邦準備制度理事会)のベン・バーナンキ前議長などを呼んでは、ご意見を拝聴している。だが、彼らは“プレイ・ナウ、ペイ・レイター”の「高欲望社会」であるアメリカの経済・金融の専門家だ。「低欲望社会」の日本の実情は何も知らないし、そもそも100年前の古いケインズ理論などに基づいたマクロ経済学者だ。

 おそらく世界で唯一、伝統的なマクロ経済政策が機能しない日本という国で、そういう人たちの意見を聞くのは、患者を直接診察していない医者のオピニオンを聞くようなものである。アベノミクスはマクロ経済学の理論通りに金利を引き下げ、マネタリーベース(資金供給量)を増やしているわけだが、それは自分で患者を診察せず、隣の病院から処方箋をもらってきているに等しい。

 つまり、彼らの意見を聞けば聞くほど間違えるのだ。これが、4年半経ってもアベノミクスの効果がほとんど出ていない最大の理由である。

 案の定、クルーグマン教授もバーナンキ前議長も、今になって日本の金融緩和策に対する自分たちの考えの間違いを認めている。そして彼らを“師”としてきた黒田総裁は、来年4月までの任期中に2%物価上昇の目標を達成することは事実上、不可能になった。以前、本連載で「黒田総裁が出口を見つけられたら天才と呼ぶ」と述べたが、結局彼は天才でも何でもなく、日本のミクロ経済の実態を理解していない、ただの無責任な役人だったようだ。

※週刊ポスト2017年8月11日号

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