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2018.09.05 07:00  マネーポストWEB

ドン・キホーテ 流通界の「巨大風車」Amazonに挑むしたたかな戦略

ドン・キホーテがAmazonに勝る強みとは(写真:共同通信社)


 世界最大手のスーパーマーケットチェーン、米・ウォルマートが、傘下の総合スーパー、西友を売却する方針だと報じられるや、引き受け先に注目が集まった。

「北海道から九州まで全国300店舗以上を擁する一大チェーンだけに、買収額は3000億円とも5000億円ともいわれる」(全国紙経済部記者)

 名乗りを上げるのは、業界最大手のイオンか、2番手のセブン&アイか―─。そんな中、手を挙げたのは意外な企業だった。

「西友に興味はあります」──8月13日、決算会見の場でこう発言したのは、ディスカウントストア「ドン・キホーテ」などを運営するドンキホーテホールディングス(以下、ドンキ)の大原孝治社長だ。

 2018年6月期のドンキの売上高は、9415億円(前期比13.6%増)と1兆円の大台に迫り、29期連続で増収増益。8月時点で421店舗を展開する同社は、2020年までに500店舗まで拡大することを旗印として掲げ、飛ぶ鳥落とす勢いで成長を続けている。

「この時代に小売りでこれほどの急成長は驚きだ」と、経済誌記者は舌を巻く。

 多くの小売業が苦戦に喘いでいる。これまで右肩上がりを続けてきた総合スーパーは2017年度決算で主要8社のうち4社が減収となり、イオンやセブン&アイの2強ですら、総合スーパー部門は赤字に転じている。

 スーパー事業の低迷と対照的なのが、ネット通販の伸張である。中でも最大手の米企業・アマゾンの存在感は圧倒的だ。経営者向け雑誌『経済界』編集局長の関慎夫氏が解説する。

「これまでの日本の総合スーパーの強みは、あらゆる商品が1か所の店舗に揃っていることだった。しかし、2億種類以上の商品を揃え、自宅にいながらスマホで注文できるアマゾンには、効率の面で敵わない。2010年には約4370億円だったアマゾンの売上高は、2017年度には約1兆3300億円と3倍に膨れ上がった。効率を求める同じ戦い方では、小売業は太刀打ちできなくなってしまった」

 しかしだからこそ、流通のガリバー・アマゾンが小売業を侵食する中で、ドンキの成長は異彩を放っているのだ。

◆「魔境」vs「効率」

 ドンキがアマゾンに侵食されない理由はどこにあるのか。前出・関氏が言う。

「ドンキの店内を回ると、天井近くまでゴチャゴチャと商品を積み上げられている“圧縮陳列”という独自の陳列方法を採っています。加えて、既存スーパーの整然とした動線に比べて、迷路のように入り組んでいる。思わぬところに安売り品を並べて、宝探しのような感覚で客の滞在時間を長くする効果を生んでいる」

 創業者の安田隆夫氏が、「魔境」と名付けたこの陳列法は、効率を重視するアマゾンとは対極をなす“逆転の発想”だろう。新宿歌舞伎町店を訪れると、入ってすぐの天井近くにリュックサックが売られ、その下には靴下、お風呂グッズと並んでいた。1階には他にも、お菓子、制汗剤、パーティグッズと様々な商品が雑多に陳列されている。

 こうした商品の値付けや仕入れを、店舗近隣の客層によって変えている点も、全国一律サービスを提供するアマゾンとは異なる。

「大手チェーン店であるほど、陳列や値付けは本社の決定によって一律に決められることが多い。しかしドンキは、店舗のスタッフに取り扱う商品の品揃えや、陳列方法を任せているため、店舗周辺の客層に合わせた商品構成や値付けができ、集客につながっている。

 たとえば、都心店では若者や外国人客などを意識した珍しい商品を前面に出す一方で、郊外店では生鮮食品や日用雑貨などの生活に密着した商品を取り揃えることで、ファミリー層からシニア客まで幅広い客層に訴求力を持たせている」(前出・経済部記者)

◆「人」vs「ネット」

 今後は、前述した2020年までに500店舗突破を目指す拡大戦略の成否が、ドンキにとって大きな分岐点となる。前出・関氏はこう言う。

「ドンキがアマゾンに勝る強みは、店舗ごとに独自の販売戦略を立てるスタッフがいる“人の力”でしょう。今後、足腰の弱いシニア層が多い地域では圧縮陳列をやめてみるなど、顧客のニーズに沿って拡大することができれば、アマゾンに対して風穴を開けることもできるのではないか」

 ドン・キホーテは、セルバンテスが小説に描いた主人公がごとく、流通界の“巨大風車”に挑んでいる。滑稽で無謀に見える構図ながら、そこにはしたたかな戦略が隠れている。

※週刊ポスト2018年9月14日号

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