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2019.06.07 16:00  マネーポストWEB

働き方改革に欠けている視点とは? 「定時で帰ります」の本当の意味

『わたし、定時で帰ります。』の主人公・結衣(吉高由里子)は退社後のビールを日々の楽しみにしている(C)TBS

 今話題のドラマ『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)。吉高由里子演じるウェブ制作会社のディレクターとして働く主人公・東山結衣は、過去に働きすぎて負ったトラウマから、残業しないスタンスを貫く。「絶対残業しない」をモットーに効率的に仕事をこなし、定時になるとさっと退社する。

「長時間労働」や、男女間をはじめとするさまざまな「格差」など、働く女性が社会や職場で直面する問題をリアルに描いた同作は、4月の放送開始直後から反響を呼び、ネット上では共感する女性の声が相次いでいる。

 昨今、連日ニュースで取り沙汰されている「働き方改革」。だが、働く女性の悩みや直面する壁に対して、本当に役立つ改革なのか―─そんな疑問をこのドラマは投げかけている。

『女性はなぜ活躍できないのか』(東洋経済新報社)の著者で、日本女子大学人間社会学部教授の大沢真知子さんが話す。

「専業主婦でいればよかった時代は終わり、もう女性が働かないという選択肢はありません。頭ではわかっていても、願わくば専業主婦でいたい、子供に時間を使いたいという理想を持つ女性は多いと思います。しかし、今後は女性も覚悟が求められる時代。これまでは、社会のせいにすればよかったことも、管理職の機会などが与えられた時、どこまで女性に準備ができているかが問われます。自分に自信をつけるために、女性たちに一歩踏み出す勇気を持ってほしいです」

 4月からは「働き方改革関連法」が施行されたが、残業が規制されたとしても過労死を防ぐ力はない、と指摘する識者は少なくない。また、大和総研の試算によると、働き方改革によって、残業代は国全体で年間8.5兆円も減るとされ、実際、残業代が減ったことで住宅ローンを払えなくなる家庭も続出しているという。

 過労死も止められず、残業代(生活費)を削る「働き方改革」に、どれほどの意味があるだろうか。大沢さんの言う通り、人口が減って、経済力の拡大が見込めない日本においては、女性も働くほかに選択肢は残されていない。

 どうせ働かなくてはいけないのなら、前向きに、やりがいをもって働いた方がいいに決まっている。人生の大半を占める「労働」をイヤイヤやることほど、不幸なことはない。今求められているのは「働き方の意識改革」なのだ。

◆仕事に「やりがい」さえあれば労働時間は関係ない

 しかし、政府の「働き方改革」は、それに真っ向から逆行する。松下電器(現パナソニック)創業者で「経営の神様」松下幸之助さんの薫陶を受けた小野豊和さん(松下OB、元東海大学経営学部教授)が指摘する。

「『働き方改革』は仕事を『時間』で区切ります。それによって、“自分の大切な時間を使わされている”という意識が生まれ、労働者の意欲は削がれます。その結果、生産性も落ちます。

 本来、仕事とは、『時間』ではなく、『能力・結果』で評価されるべきものです。仕事は、自分の能力を磨き、成果を挙げて、会社や社会に貢献することで、人生の満足感を得るものであるべきです。そうなれば、自ずと生産性は上がり、会社の業績も上がり、個人の収入も上がるはずです。

 最も大切なことは、働くことの『尊さ』『やりがい』『動機付け』をすることなのに、労働時間の規制をする働き方改革はまったくの見当違いです。仕事にやりがいさえあれば、時間など短くても、長くてもどちらでもいいのです」

 ジャーナリストの田原総一朗さんは、働き方改革に不可欠な3本柱を挙げる。

「1つは、働く人がモチベーションを持てること、2つ目は疲れないこと(無駄に長時間働かない)、そして3つ目が、女性が子供を産んでも負担にならない社会になることです。

 日本の生産性は世界で28番目、先進国ではいちばん低い。働き方改革の大目的である生産性を上げるためには、この3本柱の1つでも欠けてはダメで、すべてを整える必要があります。そしてこれは、男性、特に経営者の意識改革が必須です。経営側がこの3つを意識したうえで、積極的に女性を役職に就けるなどしていくべきでしょう。

 働くことは本来、楽しいこと。苦しくて問題にぶつかることもありますが、それを乗り越えることでモチベーションにつながっていきます。その繰り返しが、自分の糧となり、やがて仕事が好きになる。そうなれば、いくつになっても現役で働き続けられる力も沸いてくるものです」

◆「仕事をいちばん愛しているのは結衣なんです」

 そして、『わたし、定時で帰ります。』の原作者である作家の朱野帰子さんは物語に込めた思いを次のように語る。

「原作の結衣は父の過労死に怯えるという子供時代を過ごしていますが、ドラマではさらに結衣自身が新卒で入社した会社で、パワハラに耐えながら月100時間の残業をこなしていたという設定が加わりました。でも、そのうち、『病気かけがをしたら休めるのに』と考えるようになり、ある日それが本当になります。階段から転落し、意識不明の重体になってしまうのです。

 結衣が定時で働くことをモットーにしたのは、そうした重い経験があったからですが、実は登場人物の中で、仕事をいちばん愛しているのは結衣なんです。定時に帰るのは、私生活を充実させたいからだけではありません。会社だけの人間にならないことがよい仕事につながる、よい職場づくりにつながると、誰よりも労働と真摯に向き合ったからこその、自分にとっての『働くこと』への答えなんです」

 結衣のように、女性が自ら労働に「価値」を見出し、自分なりの働き方を手に入れる時が来ている。

※女性セブン2019年6月13日号

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