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2019.06.16 07:00  マネーポストWEB

アベノミクスを牽引するはずの「未来投資会議」がお粗末な理由

「未来投資会議」では何が話し合われているのか(イラスト/井川泰年)

 アベノミクス“3本の矢”の第3の矢を実現するために「未来投資会議」が開催されているが、世の中はさほど盛り上がっていない印象だ。こうした事態に陥っているのはなぜなのか、経営コンサルタントの大前研一氏が解説する。

 * * *
 安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」は、全く成果がないまま7年目に突入した。その中で政府が“3本の矢”の第3の矢「民間投資を喚起する成長戦略」を実現するための司令塔として開催しているのが「未来投資会議」だ。

 だが、マスコミも含めて世の中の盛り上がりはゼロである。たとえば、議題は4月が「地銀・乗合バス等の経営統合・共同経営」、5月が「全世代型社会保障における高齢者雇用促進及び中途採用・経験者採用促進」という“未来投資”とはかけ離れたもの。会議後の記者会見・質疑応答は4月が9分間、5月が7分間という短さで報道も少なく、なおざりの感は否めない。

 安倍政権は過去最大の101兆円を超える予算を組み、それを支えるために日本銀行が国債を買いまくって本来は“禁じ手”の「財政ファイナンス」を続けている。だが、それでやっているのは、成長につながるとは思えない無駄な政策ばかりである。つまり、未来への投資ではなく、未来からカネを借りてきて浪費しているだけなのだ。

 なぜ、こんなにお粗末な状況になっているのか? 原因は三つある。

 一つ目は政治家の劣化だ。小選挙区制になって小粒化し、外交や国全体の産業政策を担う人材がいなくなってしまった。

 二つ目は役人の劣化である。かつては欧米をモデルにしながら産業政策、福祉政策、教育政策などを主導していたが、19~20世紀の古いシステムと規制を墨守し、あまりにも歪みが大きくなったら少しだけ穴を開けたり「○○特区」のような例外を作ったりしているだけなので、21世紀の世界の変化や新しい流れについていけなくなっている。

 そして三つ目は未来投資会議のような有識者の諮問会議である。だが、それらの「有識者」の多くは、政府に近い大学教授や経団連幹部などだ。国家の重要政策を左右する組織に片手間の学者や片手間の経営者を使うのはやめてもらいたい。

 実際、時間と税金を浪費する中で、日本はどんどん世界から取り残されている。

 典型は医療制度だ。未来投資会議では健康・医療・介護サービスをテーマにした議論も行なわれているが、その中身はマイナンバーカードを健康保険証として利用できる「オンライン資格確認」の本格運用を2020年度に開始する、といった時代遅れのことばかりだ。

 いま世界で勃興しているデジタル時代の新しいサービスの大半は、アナログ時代の縦方向の法律、規制、業界秩序などをすべて取っ払い、横方向につなげないとできない。だが、日本の役所にはその発想がなく、相変わらず縦方向の許認可システムで既存業界の保護を続けている。

 金融サービスにしても、21世紀のデジタル時代はルーターで世界中とつながる時代であり、「ローカル=グローバル」だ。それは国民国家の枠組みをも超越する。だから、中国のアント・フィナンシャルはモバイルQR決済サービスの「アリペイ(Alipay=支付宝)」と信用評価システムの「ゴマ・クレジット(芝麻信用)」で一気に中国国民の個人情報を掌握したのである。

 ところが日本は、未来投資会議の議題を見れば分かるように、地銀をどう守るかに汲々としている。しかし、ローカル=グローバルの時代は世界最強の銀行が一つあれば事足りるので、地銀は存在理由がない。そもそもアベノミクスの中心的な政策であるゼロ金利の中では、銀行そのものが生存できない。

 20世紀は現場ベースの連続的な社会変化の時代だった。しかし、21世紀はサイバーベースの不連続なデジタル・ディスラプション(デジタル技術による破壊的イノベーション)時代である。そこで優先されるべきは「グローバル最適化」であり、生活者、消費者、患者、受益者の立場から見て不要な規制は、すべからく廃止すべきなのである。

 そのためには、いわば「縦のものを横にする」発想が必要だ。たとえば農業は農協の組合組織を株式会社化し、意思決定ができるようにしなければ生き残れない。金融サービスは、全銀システム(*)を経由しなくても、ブロックチェーンを用いれば安全な決済が世界中とできる時代である。

【*全銀システム/全国銀行データ通信システム。決済業務の中核を担うオンラインのデータ通信システムで、日本のほとんどの預金取扱金融機関が参加しており、そのコストは預金者の手数料によって賄われている】

 21世紀対応のサービスとシステムを構築できるように、その障害となるすべての法律を書き換え、すべての既得権益を排除しなければならないのだ。それを理解できないどころか、20世紀の古いシステムの延命を職務と考えている政治家、役人、有識者などに、未来を語る資格はないのである。

※週刊ポスト2019年6月21日号

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