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2019.07.12 07:00  マネーポストWEB

日本の競争力を高めるために「AI人材」をどう育成するか

海外の最先端テクノロジー教育はどうなっているのか(イラスト/井川泰年)

 日本がAI(人工知能)の分野で世界と戦っていくために必要な教育とは、どのようなものか。経営コンサルタントの大前研一氏が、海外の事例をもとに考察する。

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 スイスのビジネススクールIMD(国際経営開発研究所)が発表した2019年の「世界競争力ランキング」で、日本は30位と前年より5つ順位を下げ、比較可能な1997年以降で最低となった。アジアでは中国(14位)、台湾(16位)、マレーシア(22位)、タイ(25位)、韓国(28位)よりも下で、インドネシア(32位)に近い。ちなみに1位はシンガポール、2位は香港、3位はアメリカだった。

 ただし、このランキングは、あまり気にする必要はない。シンガポールや香港の企業はIMDを崇め奉り、プログラム参加者を大量に送り込んでいる。台湾も同様で、IMDのドミニク・テュルパン学長が来ると経済界を挙げて大歓迎している。つまり、授業料収入が多い国・地域の順位が高くなるように評価項目が設定されているきらいがあり、IMDのランキングが下がったからといって一概に国際競争力がなくなったとは言えない、と私は見ている。

 だが、そうしたランキングの問題はともかく、グローバルな競争力がある人材を輩出できているかどうか、ということは国家にとって非常に重要だ。その点、今の日本は大量生産・大量消費時代の人材教育手法のままで、お粗末極まりない。

 これから訪れるシンギュラリティ(AIが人間の知能を超える技術的特異点)の時代には、AIに仕事を奪われないスキル、すなわちAIやIoT(モノのインターネット)を開発したり駆使したりするスキルが求められる。単にAIでアメリカや中国などに後れを取らないようにするには数百万人のAI人材が必要で、AI先進国に成るためには少数でも傑出した人材が不可欠となる。

 いずれにしても、日本はグローバルな競争力を持った人材を育成する仕掛け作りが急務となっている。

 実際、シリコンバレーには今、テクノロジー教育の専門機関が次々に設立されている。オンライン学習サービスの「ユダシティ」や「カーンアカデミー」などが知られているが、中でも私が注目している取り組みが、フランス発祥のコンピュータープログラミング学校「42(キャラントドゥ/英語ではフォーティーツー)」だ。私はサンフランシスコ・ベイエリアの同校を視察したが、その中身は実にユニークだ。

 創設者はフランスの実業家ザヴィエ・ニエル氏。私財を投じて2013年に設立した。学費は「完全無料」で、18歳以上なら学歴に関係なく誰でも入学できる。校舎には数千台のパソコンがあり、24時間・365日使用できる。ただし、教室も教師も存在しない。学習は個人個人のレベルに応じてパソコンから自動的に課題が与えられ、学生同士が教え合う「ピア・ツー・ピア」方式だ。

 入学の申し込みはネットからできるが、そこから先の「スイミングプール」と呼ばれるプロセスは過酷である。応募者はプールに投げ込まれるように膨大なプログラミングの課題の中に放り込まれ、1か月間休みなく必死にプログラムを書かねばならない。このプールで溺れずに泳ぎ切れば、好成績の者が晴れて入学できるという仕組みである。

 その後、規定の試験に合格したらアルバイトが可能になり、GAFA(Google, Amazon, Facebook, Apple)などのIT企業からパートタイムの仕事を受ける。するとアルバイトでも年収が1万5000ドルから始まって最高5万ドルほどになり、3~5年後の卒業時には初任給10万~15万ドルの人材に育つという。「42」は、いわばフライトシミュレーターで鍛えるパイロット訓練学校のIT版なのだ。

 実は私の次男も子供の頃から自分でプログラミングの家庭教師を見つけてきて、あっという間に身につけてしまった。現在はゲームアプリ開発用ミドルウェアを提供しているユニティ・テクノロジーズの日本担当ディレクターだが、20歳そこそこの時に世界的コンピューター企業が手に負えない業務を自宅で受託し、月200万円稼いでいた。それと同じようなことが、今や世界では当たり前になっているのだ。

 日本は音楽やスポーツの分野では、バイオリンの樫本大進氏、テニスの錦織圭選手、野球の大谷翔平選手、バスケットボールの八村塁選手ら世界で通用する才能の持ち主を輩出している。とくに音楽の場合はスズキ・メソードとヤマハ音楽教室が人材育成に大きく貢献し、そこから先は個別指導で大きく羽ばたいている。AI人材の育成も、日本が本気で取り組めば、さほど難しくないはずだ。

 しかし、それは今の文部科学省がやっている旧態依然の学校教育システムでは無理だ。私は本連載(第628回)で、もう文科省には期待できないから若手官僚が文科省の中にゼロベースで「アンチ文科省」を作り、新学府を創設せよと提言したが、そこで目指すべきは、まさに「42」や「ユダシティ」のような学校なのである。

※週刊ポスト2019年7月19・26日号

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