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2020.01.21 15:00  マネーポストWEB

命と生活を守るために… 家族・親族と「絶縁」する方法

切っても切れない「縁」で悩まないために(イメージ)

 家族について、多かれ少なかれ、悩みを抱えていない人はいないだろう。世間には、家族がらみの凄惨な事件のニュースが溢れている。多くの場合、家族は「最大の味方」だが、近すぎる関係だからこそ感情がもつれにもつれ、「最悪の敵」にもなりえる存在だ。いっそのこと、そんな家族と「絶縁」してしまう方法はないのだろうか──。

《父が、私たち家族に一切関わりませんように》
《息子が早く家を出ていきますよう、お願いします》
《義母が一刻も早く死にますように》

 京都にある由緒ある神社。ここは「縁切り神社」として知られ、家族への憎悪と怨念が書かれた絵馬が、ところせましと並んでいる──。家族とは、「大事なもの」であると同時に、「厄介なもの」でもある。嫁姑の不和は言わずもがな、相続や介護でも親きょうだいは揉めがちだし、最近は「毒親」もいれば、「パラサイト息子」もいる。今や虐待やDVは深刻な社会問題で、警察統計をみると、殺人事件の約半数は、親と子を含む親族の間で起きている。

 昨年、元農水省事務次官の熊沢英昭被告(76才)がひきこもり状態だった44才の長男を殺害した事件が大きな話題になった。長男は中学生の頃から両親に暴力を振るってきたという。事件当日、「頭を家具などにたたきつけられ、殺されると思った」と言う元次官は、台所で包丁を握りしめ、息子に向かっていった。家族関係や子供の権利に詳しい弁護士の佐藤みのりさんが話す。

「関係が近いからこそ、家族は支え合える一方で、トラブルが起きがちで、強い憎しみの対象にもなります。家族関係が限界を迎えて、事件が起きてしまう前に、距離を置くことで穏便に済むケースは少なからずあるはずです」

◆裁判所から「接近禁止命令」

 まずは、家族間で暴力があるような、緊急を要する状況ではどうすればいいのか。以前は警察に駆け込んでも、「家族内の問題には立ち入らない」とか「冷静によく話し合って」などと冷たく突き放されることも多かった。しかし近年はいくつかの法律ができて、家族であっても暴力の被害者がしっかりと守られる仕組みができつつある。

 18才未満の子供の虐待は「児童虐待防止法」(2000年施行)、配偶者への暴力は「DV防止法」(2001年施行)、子が老親に危害を加える場合には「高齢者虐待防止法」(2006年施行)といった法律が適用されることになっている。

「それらの法律によって、殺傷事件などが起こる前に、暴力的な環境から緊急保護を図りやすくなりました。しかし、一時的に離れることができても、必ずしも安全とは限りません。暴力を振るう親族が、逃げた先にまで追いかけてきて連れ戻されるケースも多いのです」(佐藤さん)

 いっそのこと、もう縁を切ってしまいたい──そんな時には、裁判所の力を借りるのが有効な手段の1つだ。

「DV防止法や児童虐待防止法に基づけば、裁判所により、暴力を振るう配偶者や親に『接近禁止命令』が出せます。これにより6か月間はつきまといなどが禁止され、違反した場合には刑事罰が科されます」(佐藤さん)

 配偶者間や18才未満の子ではない場合は、裁判所に民事保全法に基づいた「接近禁止の仮処分」や「面談強要禁止の仮処分」などを申し立てる方法がある。それらは仮処分なので違反しても刑事罰はないが、親族とトラブルが起きた時に警察が介入しやすいという大きなメリットがある。

「当然ですが、接近禁止命令や仮処分は単に“家族と顔を合わせたくない”といった理由では認められません。認めてもらうには、身に危険が差し迫っていることなどを裁判所に示す必要があります。

 家族間での身体的な暴力はもちろん、脅迫や待ち伏せ、押しかけやしつこい連絡などトラブルがあるならば、おおごとでなくても、警察の生活安全課や児童相談所、病院など、しかるべきところに相談しましょう。“被害を相談した”という事実や診断書などが裁判所の判断につながります」(佐藤さん)

 禁止命令や禁止仮処分が出ている間に、遠くへ引っ越したり、連絡先を変えたりして、親族に追ってこられないようにすれば逃げ切れるはず──と思いきや、そうとも言い切れない。実は、親族であれば意外と簡単に役所で「戸籍」や「住民票」が閲覧できてしまうため、転居先がつきとめられて、押しかけられることも少なくない。司法書士法人「ABC」代表の椎葉基史さんが説明する。

「そんな時に有効なのが、『住民票閲覧制限の支援措置』です。ストーカー被害やDVなどがあれば、警察などの意見をもとに市町村が対応してくれます。支援措置の期間は1年間ですが、必要に応じて延長もできます。もし閲覧制限をかけていたのに家に押しかけられた場合は、DV防止法やストーカー規制法、各市町村の迷惑防止条例などで対応できます」

 ここまで手続きを終えれば、事実上の絶縁といえるだろう。

◆「捜索願不受理届」で警察は動かない

 いきなり裁判所の命令や処分に頼るのはハードルが高いと感じる人や、家族と話し合った上で距離を取りたい人は、弁護士に相談する手もある。家族で直接話し合おうとするとヒートアップして手が出てしまう場合や、話し合うこと自体が苦痛な場合は、代理人弁護士を立てて『今後、一切の連絡は弁護士を通じて行うこと』とすれば、直接のやりとりを控えさせられます。

 弁護士に依頼しなくても、家庭裁判所に話し合いの場を設けてもらい、中立的な調停委員を間に入れて、『親族関係調整調停』をすることもできます。調停は、当事者同士が直接顔を合わせることなく、交互に話を聴く形でまとめられることが多いです。正式に『今後、一切つきまとい等をしない』などと調停調書を作成できれば、法的に強い効力があります」(佐藤さん)

 そんなことをするのは面倒だから、家族の前から忽然と姿を消してしまいたいという人もいるだろう。しかし、残された家族が警察に「捜索願」を出せば、元も子もない。

「それ相当の理由があれば、警察に『捜索願不受理届』を出すことができるんです。それさえ出しておけば、捜索願が出ても警察は動かない上に、警察から“捜索願が出たが、親族にどう説明すればいいか”という連絡までくるのです」(ベリーベスト法律事務所・川崎オフィスの金井啓弁護士)

 ただ、それらの対応をしても、法的に家族が絶縁したわけではない。いくら逃げても、法律上は家族のままだ。子は親きょうだいに対して「生活扶助義務」という扶養義務を負う。親や兄弟が生活に困った時は支援をしなければならないというのが世間の常識でもあり、実際、親が生活保護を申請した場合、役所から子供に「扶養できるか」の確認がくる。

「生活扶助義務は、自分の社会的地位に見合った生活をした上で、なお余裕がある場合に、相手に最低限の生活を維持させる義務に過ぎません。自分の生活に余裕がなければ、金の無心だって無視していいし、生活保護の親を支援する必要もなく、ましてや親の借金の肩代わりをする必要などないのです」(佐藤さん)

 唯一、法的にも親子関係を絶縁できるのは、15才未満の子供が親と縁を切る時だけだ。

「他人と『特別養子縁組』を結ぶことで、実親やきょうだいと法的に絶縁できます。今までは原則6才未満の子に適用されていましたが、今年4月から施行される新民法では、上限年齢が原則15才未満と大きく引き上げられました。本人の意思確認も充分に考慮されますので、育児放棄や虐待に悩む子にとっては朗報です」(椎葉さん)

 江田京子さん(仮名・60才)はこんな悩みを吐露する。

「姑との折り合いが悪いです。もし病気がちの夫に先立たれ、その後も姑が生きていた場合は、姑の介護を続けないといけないのでしょうか。そもそも“家族”を続けるのもイヤなんですけど……」

 そのケースでは「姻族関係終了届」を本籍地または住所地の市区町村役場に提出するだけで、法的に縁を切ることができる。いわゆる「死後離婚」だ。義父母らの同意は必要なく、自分の意思のみで提出できるという。

「ただし、自分は義父母と縁切りができても、自分の子供は義父母らと血のつながる血族なので、縁を切ることができないことには注意が必要です」(椎葉さん)

 また、江田さんが心配していた義父母の介護は、そもそも義務ではない。死後離婚の手続きをしなくても、必ずしも介護をする必要はないのだ。実際に家族と絶縁に至るのはレアケースだろう。しかし、「いざという時には縁も切れる」と知っていれば、家族のさまざまな問題に正面から向かい合う「心の余裕」ができるというものだ。

※女性セブン2020年1月30日号

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