• TOP
  • コラム
  • 存在感増す米国産乳製品に潜む「遺伝子組換えホルモン」のリスク

コラム

2020.04.01 15:00  マネーポストWEB

存在感増す米国産乳製品に潜む「遺伝子組換えホルモン」のリスク

アメリカ人が20年以上前から避けていた乳製品が今日本に…(Getty Images)

 バターを塗った食パンにヨーグルトを添えて、コーヒーにはポーションミルクを1つ。ごく普通の朝食のメニューに見えるが、実はこれらのすべてに、アメリカから入ってきた“日本人向け”の乳製品が含まれる可能性がある。その危険性を知らずに食べているのは、私たち日本人だけかも──。

 都内に住む会社員の佐野さん(43才女性・仮名)は、筋金入りの“乳製品フリーク”を自任する。

「クリームやバターも好きですが、とにかくチーズに目がないんです。チェダーやパルミジャーノなどのハードタイプは濃厚でワインによく合う気がします。カルボナーラやクリームソースのパスタに“追い粉チーズ”をするのも大好き。食べてばかりじゃなくて、運動もしていますよ。筋トレ後に飲むプロテインも牛乳由来で飲みやすいんです」

 佐野さんのような熱烈な乳製品フリークでなくとも、気づけば乳製品をたくさん摂っているという人は少なくない。大型スーパーや輸入食品店に行けば、海外のおしゃれでおいしいお菓子やチーズが簡単に手に入る。今年になってからは、特にアメリカ産の乳製品が存在感を増している。

 これは1月に発効した日米貿易協定に起因する。チーズなど乳製品の関税がTPP(環太平洋パートナーシップ協定)加盟国並みに下がったのだ。

 実際、チーズの輸入量(財務省「貿易統計」)の2020年1月速報値を見ると、これまで主要な輸入元だったニュージーランド、オーストラリア、フランスなどの各国が前年実績を割り込んでいる中、アメリカ産だけが105%のプラスになっている。

 その理由は2017年のトランプ氏の大統領就任までさかのぼる。TPPからの離脱を決定したトランプ氏は「アメリカの主要な農産物の関税をただちに下げろ。さもなければ日本の基幹産業である自動車に25%の追加関税をかける」と脅しをかけた。今年11月に控える大統領選で再選を目指すトランプ氏は、自国の農産物を日本へ大量に送り込むことで、彼の大票田である農畜産業従事者にアピールしたかったのだ。

 実際に2020年1月、アメリカからの脱脂粉乳の輸入量は前年比122%に急増。これは乳飲料やお菓子のほか、粉ミルク、シチューのルー、プロテイン、アイスクリーム、ヨーグルトなどに幅広く使われる。前述したチーズも、チェダーチーズやゴーダチーズ、粉チーズなどは2033年までに段階的に関税が撤廃される。今後さらにアメリカ産の乳製品が増えることは明白だ。

 関税率の引き下げにより、海外の乳製品に手が届きやすくなるのは、冒頭の佐野さんほどの乳製品フリークでなくても歓迎だろう。だが、手放しでは喜べない事情がある。

◆「発がんリスク7倍」のホルモン剤

「アメリカ産乳製品には安全上の懸念がある」と話すのは、食品問題に詳しい東京大学大学院農学生命科学研究科教授の鈴木宣弘さんだ。

「アメリカでは『遺伝子組換え成長ホルモン』を投与された乳牛が飼育されています。牛乳の生産量を増やすために開発された『ボバインソマトトロピン』というホルモン剤を注射するのです。略して『γ(ガンマ)BGH』または『γBST』と呼びます」

 これにより、乳牛の出す乳の量は2~3割ほど増え、乳を出す期間も30日ほど延びる。エサなどの飼育コストも大きく抑えられる。酪農家にとっては夢のような話だが、これは世界のほとんどの国々で使用を禁止されているという。アメリカ・ボストン在住で元ハーバード大学研究員の内科医の大西睦子さんが説明する。

「γBGHを使用して生産された牛乳は、『インスリン様成長因子(IGF-1)』という成分が増える。人間が過剰摂取すると、異常な細胞増殖、つまり、がん化につながると懸念されています」

 発がんの因果関係は明らかになっていないが、最新のレポートでは、牛乳に含まれるIGF-1を摂取し続けることの危険性を示唆している。

「3月18日に発表された、米カリフォルニアのロマ・リンダ大学の研究です。5万3000人の女性を対象にした研究結果では、1日2~3杯の牛乳を飲む人は乳がんのリスクが80%増加することが判明しました。半面、豆乳を飲む人は乳がんリスクが32%減少。原因は判明していませんが、研究チームはγBGHによって増加するIGF-1と乳がんの関連性をにらんでいます」(大西さん)

 解明されていないとはいえ、人体に危険性があるものがなぜアメリカで使われているのだろうか。

「γBGHは、枯葉剤で有名なバイオ化学メーカーのモンサント社が開発したもの。1994年にアメリカで認可されました。発がん性の疑いがあるほか、10才以下の幼い子供に月経や乳房がふくらむといった異常な性発育が起きるなどして当初から安全性が疑問視されていましたが、モンサント社が日本の厚労省にあたるアメリカ食品医薬品局(FDA)を抱き込み、“γBGHは安全だ”という主張を押し通したのです」(鈴木さん・以下同)

 行政機関の幹部に元関係者が入り込み、出身会社への利益をもたらそうとする「回転ドア人事」が行われたという。

「私は認可当時のアメリカにいました。激しい反対運動が起きたのを記憶しています。大手スーパーも『危ない牛乳は売らない』と反発したものの、商品パッケージへの表示を義務化できず、運動は鎮静化しました」

 ホルモン剤を使っていないことを示す「γBST/γBGHフリー」の表示は認められたが、FDAから“物言い”がついた。

「FDAの指示で、ホルモン剤フリーの表記をしたければ、『γBST/γBGHを使用しても安全性は変わらない』ということを付記しなければならなくなったのです」

 モンサント社が商品の表示を操作したために一時は売り場に溶け込んでいった“ホルモン牛乳”だが、1996年、1998年に相次いで『サイエンス』や『ランセット』などの権威ある医学誌に「γBGH/γBST入りの牛乳はIGF-1の濃度が高まる。IGF-1の血中濃度が高い人は乳がんの発症率が7倍、前立腺がんの発症率が4倍になる」との論文が掲載され、反対運動が再燃した。

「アメリカの消費者が再び立ち上がり、ダノンやウォルマート、スターバックスコーヒーなどの大手企業が、『γBGH/γBST使用牛乳は扱わない』という姿勢を打ち出したのです。これは消費者が声を上げた結果だといえます」

 実際にアメリカのスーパーで売られている牛乳パックを見ると、《認証オーガニック商品は合成ホルモン(γBGH /γBSTなど)を使用していません》と明記。さらに《以下は、FDAの要求に基づいた表示です》と太字で強く前置きしたうえで、《γBGH/γBSTを投与していてもいなくても、牛乳の安全性に明確な違いはありません》と記載している。

 大西さんによれば、米国農務省の調査で、2000~2005年の期間に17%の牛にγBGHが使用されていたことが判明しているという。ところが──。

「500頭以上の牛を飼育する大規模経営の牧場に限っては、γBGHの使用率は40%以上です。アメリカの消費者の意識は高まっており、最近では一般的なスーパーに並ぶ乳製品のほとんどにホルモンフリーの表記があります。

 つまり、“ホルモン入り牛乳”は、アメリカ国内には出回らず、海外に輸出されている可能性が高いのです」(鈴木さん・以下同)

 しかし、EUやオーストラリアではγBGHの使用はおろか、それを使った乳製品の輸入も一切認めていない。肉牛を早く大きく育てるために投与する合成女性ホルモンは残留基準値が設定されているのに対し、γBGHは「使用すること自体がアウト」だ。

 では、γBGHを使ったアメリカ産乳製品はどこへ行くのか。そう、日本である。

◆「原産国名表記」も安心できない

「日本は国内でのホルモン剤の使用は認可されていないものの、輸入されてくる製品についてはザル。すでにどんどんアメリカからの“ホルモン入り乳製品”が入ってきているのが現状です」

 別掲の表に各国が定める残留ホルモン基準値をまとめたが、いかに日本がゆるいかがわかる。日本だけがアメリカの“お得意さま”というわけだ。

 実際に私たちが口にする商品はどうか。ダノンは日本市場でもアメリカ産乳原料不使用をうたい、スターバックスは一部のライセンス店舗を除くすべての直営店でホルモン入り乳原料不使用。一方、西友を運営するウォルマートが販売するプライベートブランドの乳製品にはアメリカ産のものも散見される。

 そのほか、国内の大手乳製品メーカーの商品はどうなのか。女性セブンがアンケート取材を行ったところ、多くの企業が主要な乳原料は国産としつつも、コストなどの面でアメリカ産を使う場合もあるとしている。使用する乳原料にγBGHが残留しているかどうかを調べるには莫大な費用がかかるうえ、表示義務や違法性がないため、メーカーに検査の義務はない。たとえ検査していたとしても、公表することはないだろう。

 では、何をどう選んで買えば安全な乳製品だけを口にすることができるのだろうか。

「外食は安いアメリカ産を使っている可能性が高い。また、スーパーで売られている加工食品への原産国名表示は2018年から義務化されているが、必要なのは重量比率が最も多い品目だけ。それも、原産国が複数なら『輸入』とだけの記載も許されており、消費者ウケが悪い原産地名をあえて隠すことも可能なのです」(食品業界紙記者)

 ただし、見分ける方法がないわけではない。

「国内で売られている牛乳は学校給食を含めすべて日本産なので、安心して飲める。加工食品も国産乳を使っていればそう明記するはずです」(鈴木さん)

 チーズやバターなどの加工品やお菓子も、アメリカ以外の国のものは基本的にホルモン剤不使用だと考えていいという。フランスやイタリア、ドイツなどのEU圏なら間違いない。一方、カナダや韓国は日本同様にアメリカ産の乳製品を輸入しているため、注意が必要ともいえる。吟味して手に取りたい。

※女性セブン2020年4月9日号

関連記事

トピックス