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2021.06.16 16:00  マネーポストWEB

中国の配車アプリ・滴滴出行が米上場へ 超大型IPOを取り巻く利害関係者たち

滴滴出行の米上場は今年最大規模のIPO案件になる可能性も(Imaginechina/時事通信フォト)

 中国本土最大の配車アプリ企業である滴滴出行(DiDi)は6月10日、アメリカ証券取引委員会に上場申請(ティッカーはDIDIを予定)を行った。

 上場のための業務を主導するのは欧米系投資銀行である。引受幹事団はゴールドマンサックスを筆頭に、モルガンスタンレー、JPモルガンなどが名を連ねている。中国系では、中国企業の引受業務を主要業務とする華興資本(香港上場、01911)が加わっている。

 現段階ではIPOの規模がどの程度になるのかはわからない。しかし、現在の時価総額は、類似会社であるUberとの比較から600億ドル(6兆5400億円、1ドル=109円で計算、以下同様)~1000億ドル(10兆9000億円)程度と推測される。ちなみに、Uberの現在の時価総額は1000億ドル(10兆9000億円)弱である。こうしたデータから発行規模を類推すると、今年最大クラスの大型案件となる可能性もありそうだ。

 上場申請資料によれば、2020年12月期の売上高は1417億元(2兆4089億円)。前年同期と比べ8%減少した。利益面では106億元(1802億円、1元=17円で計算、以下同様)の赤字。前年同期も赤字で赤字幅は9億元(153億円)ほど拡大した。

 滴滴出行は中国を始め、15か国、4000以上の都市で事業を展開。インターネットを使った配車、タクシー、乗り合いタクシー、自転車(電動自転車)シェア、運転代行、送迎サービス、貨物輸送から金融、自動運転まで、幅広く業務を展開している。収益は多様化しているようにもみえるが、実態は売上高の94%は中国本土での売上であり、また、その大半を配車を含めた広い意味でのタクシー関連業務が占めている。

 コロナ禍で人流が大きく制限される中でタクシー需要が減少、2020年12月期は厳しい決算となった。とはいえ、2021年3月末までの1年間におけるアクティブユーザーは4億9300万人(内、中国が3億7700万人)、アクティブドライバーは1500万人(内、中国が1300万人)に及び、世界最大規模である。滴滴出行は巨大市場中国でトップシェアを持つといった大きな強みを持っている。

 自動車業界全体をみると今後、EV化が進むとともに自動運転技術が急速に発展するだろう。配車サービスの提供などを通じて獲得した厚い顧客基盤は需要の構造的な変化に対して高い対応能力を持つはずだ。今後の発展が期待される。

◆幹事団を組成する欧米系投資銀行の狙い

 バイデン政権は6月3日、軍部との関係の深い企業、人権侵害に繋がる監視技術を開発している中国企業など59社に対して、株式購入などを通じての投資を禁じる大統領令に署名した。これは、トランプ前政権が昨年11月に発令した投資禁止措置をさらに拡大させる内容だ。

 また、トランプ前政権は2020年12月、外国上場企業に対する規制を厳しくする法案「外国企業説明責任法」を成立させた。これにより、監査法人が公開企業会計監査委員会の検査を3年連続で受け入れなかった場合、その監査対象企業は上場禁止となるのだが、現状では、海外の機関が中国国内の監査法人から監査資料を得たり、現地での調査をしたりするのを中国政府は許していない。法案成立を受けてアメリカ証券取引委員会は3月24日、実際に新規制の導入を開始したと発表している。

 多くの民営海外上場企業について、事業の実体は中国本土にあるのだが、租税回避地を本社登記地としている。こうした“細工”はすべて欧米系投資銀行の“入れ知恵”であろう。欧米系投資銀行は、バイデン政権が中国企業排除政策を強化しようとも、それを上手く躱すことができると読んでいるからこそ、幹事団を組成し同社のIPO申請を行ったのではないか。こうした大手投資銀行の動きをみる限り、バイデン政権の対中強硬策は決してアメリカ産業界の総意ではないということが分かる。

 一方、中国政府について、滴滴出行に対する政策スタンスは不透明なところもある。滴滴出行が行なう事業はイノベーションによって世の中を大きく変えていくものであり、そういう点では中国政府は積極的に支持したいと考えている。

 しかし、業界全体は悪性の過当競争に陥りつつある。同社は大量の優待券をばらまき、大幅な赤字を容認する形で顧客の囲い込みを進めたことで、独占禁止法に触れかねない規模まで事業は拡大している。規模の拡大によって管理の届かない部分(サービスの低下、犯罪など)が出てきてしまい、それが問題になったりしている。(当局から圧力を受けたと言われる)アリババのジャック・マーの件があるだけに、共産党とうまく折り合っていくことができるかどうかが、発展のカギとなりそうだ。

◆ソフトバンクグループは発行済み株式の21.5%を所有

 それにしても、中国企業のイノベーションには目をみはるものがある。

 1983年生まれと若い程維会長が同社を創業しようと思い立ったのは2012年の冬である。北京の凍てつく夜、タクシーが来るのを長時間待ち続けたときに、長い待ち行列ができているのを見て、配車サービスの事業化を思い立ったそうだ。

 それからわずか9年で市場価値が10兆円と評価される企業を作り上げている。創業者である程維会長、柳青総裁の事業にかける情熱は素晴らしい。しかし、このビジネスの将来性を見抜き、創業当時から巨額の資金を投じてきたVC(ベンチャーキャピタル)、エンジェル投資家たちの先見性があってこそとも言える。

 筆頭株主はソフトバンクグループ(Vision Fund)で発行済み株式総数の21.5%を所有。そのほか、Uberが12.8%、テンセントが6.8%の株式を所有している。

 2017年、孫正義会長は同社へのファイナンスを申し出た。しかし、100億ドルのファイナンスを行った直後であったことから資金は充分足りており、程維会長は一旦、断ろうとしたそうだ。その時、孫正義会長は、「あなたが我々の資金をいらないというなら、この資金はあなたの競合相手に提供する」と言ったそうだ。ソフトバンクグループの発展もまだまだ続きそうに思える。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。

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