コラム

中国「共同富裕」政策で示された「10の行動」 中国ハイテク株への影響は?

アリババ他、中国ハイテク株への政策の影響は?(Getty Images)

 規制強化で下落が続いていた中国ハイテク銘柄だが、再び投資妙味が高まってきているようだ。たとえば、アリババ集団(09988、香港市場)の株価は厳しい下げ相場が続いていたが、ここにきて、値固めが進んでいる。

 上場来安値を記録したのは8月23日。場中で151.2香港ドルを付けたが、その後は切り返している。9月13日は当局が関連会社であるアントフィナンシャルに対して融資業務の分離独立を指示したとマスコミが伝えたことから4.23%下落したものの、それでも終値は160.8香港ドルに留まっている。上場来安値から6.3%高い水準にある。

 8月中旬から最安値を付けた23日までの下落は、ハイテク企業への当局による統制強化懸念が要因だ。昨年11月にはアントフィナンシャルが直前で上場延期となっている。1-3月期には独占禁止法違反により182億元(3094億円、1元=17円で計算)の制裁金を支払わされている。当局との関係が悪化している上に、8月17日に開かれた中央財経委員会第10回会議で「共同富裕」の促進が中心議題となったことで、事業に対する統制がさらに強まるのではないか、何らかの負担金が課せられるのではないかといった思惑が働いた。

 市場の懸念はある程度当たったといえる。アリババ集団は9月2日夜、中国指導部が掲げた「共同富裕」を支援するために2025年までに1000億元(1兆7000億円)を投じ、「5つの方面から10の行動を起こす」と発表した。ただ、3日の株価は下落したものの、その後は大きく売り込まれることなく推移している。一部の投資家は悪材料ではなく、好材料と捉えている。

 内容をまとめるとまず、5つの方面として、科学技術イノベーション、経済発展、質の高い就業、弱者に対して愛情を以て関心を示す、共同富裕基金といった項目を挙げている。10の行動とは以下の通り。

【1】科学技術に関する投入を増やし、発展の遅れた地域のデジタル化建設を支援する
【2】中小零細企業の成長を支援する
【3】農業の産業化建設推進を助ける
【4】中小企業の海外進出を支持する
【5】質の高い就業機会創出に助力する
【6】荷物配達員、運転手など柔軟に仕事を行う人々の福利厚生を支援する
【7】都市部のデジタルライフの均質化を促進する
【8】情報格差を縮小し、弱者に対するサービスや保障を強化する
【9】基本的な医療水準の引き上げを支持する
【10】200億元(3400億円)の共同富裕発展ファンドを立ち上げる

 つまり、1000億元(1兆7000億円)を支出するといっても、政府に1000億元(1兆7000億円)を寄付するわけではない。ましてや、制裁金のように半ば強制的にカネを支払わされるわけでもない。

 ビジネスとして、“国家が需要を拡大したいところに十分供給を増やします”ということで、これは国家の支援を受けてビジネスを行うということだ。

 共産党が共同富裕を推進する目的は、共産党が理想とする社会を創り出すためであり、経済成長の話ではない。それを上手くビジネスに転換しようとしているところにアリババ集団の高いビジネスセンスが感じられる。

 テンセントも、美団も、主要なハイテク企業は同様な戦略を採るだろう。大雑把に言ってしまえば、農村部での需要拡大がテーマであり、それは決して収益率の高いビジネスではないだろう。当面は先行投資がかさみ、企業業績では売上は伸びても利益の伸びは鈍化するかもしれない。しかし、当局と同じ方向を向いて事業を行うことの安心感は大きい。今後、困難に直面すれば、当局からの支援が得られるだろう。事業リスクの低さは株価の評価に繋がる。

 中国の経済体制は、市場経済重視から国家資本主義重視に変わっていきそうだが、民営企業は思いのほか柔軟に対応できそうだ。株価が一時的に下落した水準にある現在、アリババ集団、テンセントに限らず、中国ハイテク銘柄は再び上昇基調に入っていくのではないだろうか。

文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。

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