コラム

叩き上げの80代居酒屋経営者が新米社会人たちに伝えた「ビジネスの肝要」

24年通い続けている居酒屋「やまがた」にて(筆者)

 何もないところから裸一貫で勝負して、大きなビジネスを成功させる人は何が違うのか。そして、そうした人はこれからビジネスに取り組もうと考えている人に、どんなアドバイスを送るのか。山形から出てきて、東京・渋谷で複数の居酒屋店舗を経営するようになった社長の考え方について、同店の常連でもあるネットニュース編集者の中川淳一郎氏がリポートする。

 * * *
 東京・渋谷にある居酒屋「やまがた」の社長、T氏(80代男性)には本当にお世話になっています。私は24年通い続けていますが、警察関係の重鎮や、政財界の有力者も同店の常連で、T氏の好意で東京競馬場のVIP席に招待してもらったこともあります。いつも店に行くと奥の席に陣取っていて、「おい、ナカちゃん、こっち来いや!」と言い、ビールを一杯おごってくれたりもします。

 そしてその席から、店の前で入るかどうかを迷っている客に「いらっしゃーい!」と呑気に声をかけるのです。入店を逡巡していた客がT氏の愛嬌にほだされて中に入ってきたのを何度も目撃しています。

 そんなT氏ですが、山形から10代後半で上京し、その後、渋谷で居酒屋を複数店舗経営するまでに至りました。同氏の居酒屋経営の手法で注目すべきは、従業員が中国人という点だと思います。

 2000年代前半、生活に必死な中国人を雇ったらとにかく真面目に働き、さぼらない。以後、その信頼できる中国人従業員から、また信頼できる中国人を紹介してもらうようになって、常に従業員は中国人です。もちろん中国人なら誰でもいいというわけではなく、人を見る目に長けているのでしょう。

「9時が定時なら7時に出社しろ」

 長年、居酒屋経営を続けているT氏だからこそ、ビジネスの肝要を肌身で知っています。自分の仕事(居酒屋経営)と畑違いの分野であっても、どうすべきかということがわかっているように思います。

 T氏はかつて、就職を前にした甥に「お前は頭は良くない。だが出世する方法はある」と伝えたそうです。「朝の9時が定時だとしたら、7時に会社に行き、掃除をしたり色々と雑務をしろ。そしてタイムカードは9時に押す。そういうことを新入社員の最初からしておけ」と言ったといいます。

 こうした助言を「ブラック、パワハラだ!」と感じる方もいるかもしれませんが、T氏の考え方は、「どうせ新入社員なんて、何もできない。仕事の評価はまだされないが、そうやって誰もしないようなことをするだけでお前の名前だけは覚えてもらえる。最初だけでもそれをやっておけば、周囲の社員から『他の新入社員とは違う』と思ってもらえて、結果的に会社人生にプラスに作用する」というもの。ビジネスでは、地道な努力と人と人のつながりが大切だということを伝えたかったのです。

 甥はこの教えを守り、新入社員の時代から上司・先輩たちに目を掛けてもらえるようになり、そのまま会社で出世していったようです。きちんと実践した甥もすごい。

「結婚式場を見ればサービスのすべてがわかる」

 そして、別の甥は、サービス業を勉強したいと考えていたのですが、そこでもT氏のアドバイスがありました。T氏は「結婚式場を見ろ。そうするとサービスの全てがわかる」と言いました。

 たしかに結婚式場はおもてなしの心が詰まった場所です。主役の新郎新婦だけでなく、家族・同僚・友人ら列席者たち全員に満足してもらえる空間をプロデュースしなければなりません。居酒屋経営という同じサービス業に携わる者として、結婚式場の本質を見抜いていたのでしょう。

 彼はこの助言を聞き入れ、名だたる結婚式場で1年ずつ働き(しかも全国各地)、サービスの本質を学んだとのことです。様々な一流の結婚式場で鍛え上げられ、今では有名企業の管理職として、多数の部下を抱えるようになりました。この甥もやはりすごい。

 とはいえ、一番すごいのは、山形から一人出てきて、渋谷で複数の居酒屋を経営するまでに至ったT氏でしょう。T氏の経営手法や言葉には、ビジネスで大切なことがたくさん詰まっているように思います。こういう人が成功するんですよね。

【プロフィール】
中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は『炎上するバカさせるバカ 負のネット言論史』(小学館新書)。

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