連載

岩手でひとり暮らしする認知症の母の認定調査を東京からLIVEで見守った息子の話

 作家でブロガーの工藤広伸さんは、岩手でひとり暮らしをする認知症の母を東京から遠距離で介護している。現在要介護2のお母さんだが、最近、認知症が進行してきたため、要介護認定の区分変更をすることに…。いつもは立ち会いをしてきた工藤さんが、今回初めて、遠く離れた東京から認定調査を見守ったお話だ。

要介護2の母の介護区分変更を申請

 2017年の要介護認定で初めて要介護2の判定を受けた母は、2年間の有効期間を終えたところで、2019年に更新のための要介護認定を受け、再び要介護2の判定となりました。

 前回と同じ介護度だったので、有効期間が3年に延び、2022年11月末までの有効期間※となったのですが、期限の1年も前に、再び要介護認定を受けることになったのです。

※認定された要介護度の有効期間は、新規・変更申請の場合、原則として6か月、状態に応じて3~12か月となっている。前回と同じ判定結果が出た場合は、有効期間の上限は48か月となる。

区分変更とは?

 介護保険サービスを利用している人の状態が著しく変化した場合に、要介護・要支援の区分変更を利用できます。この区分変更を申請すると、再度認定調査が行われ、審査の結果次第で介護度が変更したり、現状維持と判断されたりします。

 新型コロナウイルスの影響で、わたしの帰省頻度が激減したこともあって、母の認知症の症状が悪化し、できないことが増えていきました。

 そこでヘルパーさんに布団を敷いてもらったり、訪問リハビリの時間を20分延長したりして、介護保険サービスの見直しを繰り返してきたのですが、要介護2の限度額を超過する月が出てしまったのです。

 超過分の支払いは全額自己負担になるため、区分変更の申請を決めました。

岩手での認定調査を東京から見守れた理由

 認定調査は、岩手の実家で行いました。

 以前の認定調査で母は、自分の年齢を分かっていないのに、当てずっぽうで答えた年齢が正解してしまったり、できないこともできると答えたりしてしまったために、市の調査員から「お母さんは、認知症ではないですね」と言われてしまいました。

 こうなると、ありのままの母ではないため、介護度が低く判定される場合があります。そのため、いつもの母の状態を調査員の方に理解してもらうため、わたしは必ず認定調査には立ち会うようにしていました。

 今回の認定調査は2021年12月で、コロナの感染者数は落ち着いていました。しかし、コロナ禍で帰省する際には、事前にPCR検査を受け、ホテルでの健康観察をしてから実家へ帰るようにしてきたため、認定調査日までに、これらをすべてこなして立ち会うのは困難でした。

 どうしようか悩んでいたところに、思いがけない朗報が飛び込んできました。なんと、認定調査の調査員が、母の担当ケアマネジャーに決まったのです。

 わたしの次に母の状態を分かっているケアマネさんなら、きちんと調査してもらえるだろうと思い、今回は立ち会わないことにしました。

 結局、どうしたかといえば、実家の居間にある見守りカメラの映像を東京からスマホで見ることにしたのです。

東京からLIVE映像で見守った認定調査の様子

 繰り返しになりますが、認定調査のポイントは、ありのままの母であることです。ケアマネさんは分かっているから大丈夫、だけど祈るような気持ちでカメラの映像を見守りました。

調査員:「いつも、何時ぐらいに起きていますか?」

母:「わたしはね、いつものんびり寝ててね。若い頃は、いっぱい寝れたのよ」

調査員:「今朝は、何時にご飯を食べましたか?」

母:「ご飯はね、いつも残り物でなんとかしててね。あるものを食べてるんですよ。子どもたちがいた頃は、ご飯の準備が大変でね」

調査員:「お薬はちゃんと飲めてますか?」

母:「はい、ちゃんと飲んでます」

(正解は飲み忘れが多く、ヘルパーさんにサポートしてもらっている)

調査員:「買い物は、どうされてますか?」

母:「自転車を杖代わりにしてね、自分で買い物に行きます」

(正解はヘルパーさんが買い物に行く。足が不自由な母は、買い物にしばらく行ってない)
 
 最初の2つの質問は、時間を覚えていれば答えられますが、母は残念ながら思い出せません。何か答えてはいますが、ちゃんとした答えにはなっていません。

 最後の2つの回答は、調査員によっては母の話を信じてしまう人もいます。こういうときのために家族が立ち会い、回答を否定することで母が傷つかないように、紙に回答を書いて渡したり、訂正したりします。

 調査員であるケアマネさんは、母の間違いが分かっているので安心でしたし、いつもの母のままだったので、答えは間違いだらけでしたが妙に安心しました。おそらく、何度も会っているケアマネさんだったから、安心して普段通り間違えてくれたのかもしれません。

 認定調査を最後まで見なくても大丈夫と判断したわたしは、見守りカメラの映像をOFFにし、1か月後の判定結果を待ちました。

要介護認定の判定結果は?

 2022年1月に、新しい介護保険証が実家に郵送で送られてきました。帰省していたわたしが、ドキドキしながら封を開くと、結果は要介護3。介護度は、一段階上がっていました。
 
 介護保険サービスがより多く使えるようになった喜びと同時に、母の状態が悪化していることが認定されたわけで、かなり複雑な気持ちにもなりました。

 要介護3からは、特別養護老人ホームへの入居が可能になります。これから先、厳しい遠距離介護になると思いますが、たくさんの介護保険サービスを使うことで、なんとか今の遠距離介護を維持していくつもりです。

 今日もしれっと、しれっと。

工藤広伸(くどうひろのぶ)

介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(78歳・要介護3)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/、Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442

●「梨の味噌汁!?」「油まみれの目玉焼き」認知症の母が作る料理に息子が感じた違和感

●認知症が進行していく母に「優しくありたい」と願う息子の心の葛藤と5つの壁

●認知症の母が暮らす実家の片づけが7年経っても終わらない 母の食器を捨てられない理由

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