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『鎌倉殿の13人』13話 義時(小栗旬)の想いがついに八重(新垣結衣)に!「小四郎殿…お帰りなさいませ」

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』13話。義時(小栗旬)の想いが八重(新垣結衣)にようやく届いてほっとした『幼なじみの絆」(副題)の回を、歴史とドラマに詳しいライター、近藤正高さんが振り返りながら解説します。

『ドライブ・マイ・カー』三浦透子登場

『鎌倉殿の13人』第13回では、前回の頼朝(大泉洋)の浮気を原因とする亀の前事件を受け、何もかもいやになってしまった北条時政(坂東彌十郎)が鎌倉を離れ、所領のある伊豆へ妻のりく(宮沢りえ)ともども引っ込んでしまった。

 御家人たちのあいだでも、浮気をしたあげく正妻の政子(小池栄子)に報復され、時政からも見放された頼朝に対して不信感が高まる。そのために、頼朝が信濃の木曽義仲(青木崇高)に対し、その腹の内を探るべく軍勢を送る案も拒否されてしまった。鎌倉に入って以来、慎重の上に慎重を重ねながら地盤を固めてきた頼朝だが、生来の女好きが祟って足もとをすくわれた格好である。

 この隙を突いて、何やら企む気配を見せる者も現れる。有力な御家人のひとり上総広常(佐藤浩市)は、義時(小栗旬)と酒を酌み交わした折、下手をすると鎌倉が2つに分裂しかねないとほのめかすが、もしそうなった場合、上総之介殿はどちらにつくつもりかと義時に訊かれると「さあ、どうするかな」とすっとぼけてみせた。

 また、頼朝の嫡男・万寿(のちの源頼家)の乳母を任された比企能員(佐藤二朗)とその妻・道(堀内敬子)は、時政の鎌倉離脱で北条の立場が弱くなると見越して、いまこそ源氏に取り入ろうと話し合う。このとき比企夫妻は館の部屋に寝そべり、いかにものほほんとした雰囲気であったが、話自体は、今後の比企と北条の対立を予感させるかなり生々しい内容だった。そもそも頼朝は、前回義時に説明していたように「一つの家に力が集まりすぎてはならん」との考えから、万寿の乳母役を北条ではなく比企に任せたわけだが、それがかえって比企家に野心を抱かせたことになる。

 比企夫妻は源氏に取り入る第一歩として、娘たちを頼朝の弟である範頼(迫田孝也)と義経(菅田将暉)に引き合わせた。二人は翌朝にも木曽義仲への使者として信濃へ発つ予定で、範頼はそれを理由に断るが、義経はまんまと比企の策略にはまり、娘のひとり里(三浦透子)と一夜をともにしてしまう。目覚めたときにはすでに日は高く昇り、範頼はすでに義時や三浦義村(山本耕史)と出発していた。

 里を演じる三浦透子は、先ごろ米アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した『ドライブ・マイ・カー』にも出演し、いまもっとも注目される若手女優のひとりだが、その顔立ちは政子役の小池栄子とどこか似ている。義経はもともと政子を母親のように慕い、膝枕などしてもらっていただけに、政子似の里に惹かれるのも当然と妙に腑に落ちた。

史実はドラマ以上にエグい

 義経は里と出会ったとき、亀の前事件で乱暴狼藉を働いた罰として謹慎処分中にあった。これはドラマ上の創作だが、当時の義経は別の事情から立場が危うくなっていた。それは、今回劇中でも描かれたように、彼の後ろ盾であった奥州の藤原秀衡(田中泯)がしきりに不穏な動きを見せ、頼朝が不安を募らせていたことだ。頼朝が秀衡を呪い殺そうと、京から文覚(市川猿之助)を招いて江ノ島の弁財天で調伏を行わせたというのも史実である。『吾妻鏡』の養和2年(1182)4月5日条(亀の前事件の起こる7カ月前)によれば、このときの調伏には頼朝と北条時政を含む主要な御家人たちも参加したというから、ドラマで描かれた以上にエグい。

 頼朝が秀衡を敵視したことはそのまま、義経の立場が危うくなることを意味した。もともと頼朝は、義経が秀衡から与えられた武力を率いて加勢して以来、彼を介した秀衡との連携を期待していた。しかし、その後、秀衡からは新たな支援がなかったために、頼朝は義経を冷遇するようになったとの見方もある(元木泰雄『源頼朝 武家政治の創始者』中公新書)。そんな自身の置かれた状況に、ドラマのなかの義経はまだ気づいていないわけだが……。

木曽義仲(青木崇高)登場

 さて、今回初めて木曽義仲が本格的に登場した。時間の制限もあってか、ドラマでは義仲の生い立ちについてはあまり触れられなかった。ナレーションでの説明どおり、義仲は頼朝のいとこにあたるが(年齢は頼朝より7歳下で、大泉洋と青木崇高の年齢差と同じ)、父親の源義賢は久寿2年(1155)、武蔵国の居館を頼朝の兄・義平に襲われ、討ち死にしていた。生後わずか1年にして父を亡くした義仲は、以後、逃げ延びた信濃木曽で育つ。頼朝が伊豆で挙兵した翌月、治承4年(1180)10月には義仲も信濃で挙兵するが、頼朝との競合を避けて北陸道に進みながら、勢力を広げていった。

 義仲と頼朝が不和になり、武力衝突寸前に陥ったのは、『平家物語』の諸本では寿永2年(1183)の春とされるが(ちなみに『吾妻鏡』ではこの年1年間の記事がまるまる欠落している)、もっと早い時期だとする研究もある。その原因も、頼朝に所領を求めて断られた源行家が、義仲のもとに走ったことだとする説や、甲斐源氏の一人が縁組を申し込んで断られた腹いせに、義仲は平氏と結んで謀反の意図があると頼朝にウソの密告をしたためとする説など、いくつか伝えられる。『鎌倉殿』ではそれらの説を取り入れながら、頼朝は義仲の本意を探るべく、先述のような御家人たちとのゴタゴタから軍勢ではなく使者を信濃に送って本人に直接問いただすというふうに描かれた。

 劇中の義仲はとにかく実直な男であった。一行を自ら川で捕ってきた魚でもてなし、焼きが足りずに範頼が腹を下すと素直に謝る。平家と通じていない証しとして人質を出せとの要求にも、義仲のもとに身を寄せていた行家(杉本哲太)を出せばいいものを、自分を頼ってきた者を追い出す真似はできないとして、代わりに息子である木曽義高(市川染五郎)を差し出し、義時と義村を驚かせた。

 そんな義仲には巴御前(秋元才加)という幼なじみがいた。巴は初恋の相手である彼に、いまは武術をもって終生尽くすと決めているという。彼女の両眉がつながっているのは、あえて手入れしないことで、恋心は捨てたとの決意を示したのではないか。その姿はまた、さまざまな苦難に見舞われながらも情熱に生きた20世紀メキシコの画家フリーダ・カーロを彷彿とさせた。

義時(小栗旬)と八重(新垣結衣)がやっと

 幼なじみといえば、今回は「幼なじみの絆」というサブタイトルのもと、義時と八重の関係に大きな展開があった。義時は江間の館に住まわせた八重のもとへほぼストーカー扱いされつつも通いつめ、食材を届けていた。やがてその心遣いがつらいと彼女から言われてしまうのだが、義時は「私は好きなのです……八重さんの、笑っている姿が」「いつか八重さんに笑いながらお帰りなさいと言ってほしい」と本心を伝えた。これが彼なりのプロポーズだったということに、ラストシーンでようやく気づかされる。

 ラスト、信濃からの帰り、再び八重を訪ねた義時は、もう八重さんに振り向いてもらいたいなどと大それたことは考えないとして、「振り向かなくても構わない。背を向けたいのならそれでもいい。私はその背中に尽くす。八重さんの後ろ姿が幸せそうなら、私はそれで満足です」と告げる。「尽くす」という言葉に、巴御前からの影響がうかがえる。

 彼はさらに「八重さんはどうかここにいてください。あなたはやっぱり伊豆の景色がよく似合う。伊東の館にアジサイを持ってきたあの日から、ずっとそう思っておりました」と打ち明けた。アジサイとは、第1回で義時が伊東の館を訪ねた折、八重が幼い頃の思い出として、彼が摘んで持ってきてくれたと話していた花だ。ただ、このとき彼女は、自分が好きなのは野に咲く花で、摘んだ花は死んだ花だと付け加えている。思えば、そのとき以来、二人の心はすれ違いっぱなしだった。

 それがようやく通じ合う瞬間が訪れる。帰りかけた義時を八重は「待って」と引き止めたかと思うと、「小四郎殿……お役目、ご苦労様でした」と両手をついて頭を下げ、顔を上げると「お帰りなさいませ」と笑みを浮かべたのだ。まさに先に伝えた望みがかなえられ、義時は感涙しながら「ただいま、帰りました」と返す。江間の館が彼にとって“通う家”から“帰る家”に転換するというドラマチックな結末にうならされた。

 このとき、義時と入れ違いで頼朝が八重をこっそり訪ねるも、指をしたたか噛まれて追い返されていた。結果的にこれが彼女と義時の距離を縮める一因となる。思えば、第10回で二人を取り結んでやると言っていた頼朝だが、当人には不本意な形ながらその役目を果たしたわけである。

政子(小池栄子)と亀(江口のりこ)の同級生感

 頼朝自身は今回、自業自得とはいえ、まるでいいところがなかった。八重に噛まれる前には、鷹狩にかこつけて亀(江口のりこ)の家を訪ねたところ、思いがけず政子と遭遇し慌てて逃げ去っていた。先の騒ぎがありながらまったく懲りない男である。

 政子が亀に会いにきたのは、改めて頼朝から手を引くよう釘を刺すためであった。しかし、逆に亀から話があると切り出すと、唐突に和泉式部の歌を暗誦し、それを知らない政子の不勉強さを指摘する。ずいぶん上から来たが、これは亀なりの政子へのエールだった。続けて「大事なのはこれから」「あなた、御台所と呼ばれて恥ずかしくない女になんなさい」と発破をかけ、「憧れの的なんだから、坂東中の女の」とさりげなく言う。「坂東中の女」を「学園中の生徒の」と置き換えれば、まんま玉の輿に乗った学園の人気者に贈る言葉ではないか。演じる江口のりこと小池栄子は同い年だから、このシーンのやりとりはよけいに同級生感があった。

 このように頼朝周辺の人間関係はよくも悪くも変わりつつある。次回以降は、頼朝にも時政や義経、そして義仲とのあいだに大きな変化があるに違いない。今度こそ頼もしい頼朝を見たいところだ。

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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