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『はじめてのおつかい』が海外で大人気「アメリカだと幼児虐待で炎上するよ」は嘘だった

人気バラエティ『はじめてのおつかい』(日本テレビ)の配信がNetflixで始まり、海外で大人気だという。小さな子供をおつかいに出すシンプルなドキュメンタリーが、なぜそんなに受け入れられたのか。「英語字幕つきで観てほしい」と言うゲーム作家(『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『変顔マッチ』など)でライターの米光一成さんが人気の理由を考察します。

海外配信タイトルは『Old Enough!』

『はじめてのおつかい』がNetflixで配信スタートして、全世界的に話題になっている。

 日本テレビ系の番組『はじめてのおつかい』は1991年にスタート、30年の長寿番組だ。

 ちいさな子供(だいたい2歳~6歳!)のはじめてのおつかいの様子をカメラで捉えたバラエティ番組だ。日本ではスペシャル番組として不定期放送されている。おつかいのVTRを観て、所ジョージさんと森口博子さんをMCにスタジオでわいわいトークが繰り広げられる。

 Netflix版は、スタジオからの笑い声っぽい音声が残っていたりするが、基本的に「おつかいVTR」だけで再編成し、1話10分程度の全20話で構成されている。

 海外向けタイトルは『Old Enough!』、直訳すれば「じゅうぶんな年齢」、雰囲気込みで訳せば「もうできるもん!」だろうか。

 ぼくは、好きなテレビ番組は何かと聞かれたら『はじめてのおつかい』と答えるぐらいに大好きな番組だ。が、ときどき『はじめてのおつかい』が苦手な人がいる。「アメリカで放映されたら幼児虐待で炎上するよ」と無粋なことを言い出す人もいる。

 Netflix版で世界190カ国に同時配信された結果、どうだっただろうか?

親が子供に与えることのできる最大の贈り物は

 結論から言えば、炎上などしていない。

 英語を中心に検索で40以上の記事を読んでみた。みんな冷静。場所が日本であり、安全性が確保されている(カメラマンやスタッフがカメラに映り込んでしまうことでそのことが伝わる)ことを理解している。

 もちろん、「息子にこんなことさせたら、逮捕されちゃうよ(“If I let my son do this stuff, I’d get arrested,”*注1)」という感想を紹介するところもある。が、そのあとに「L.A.でおつかいに出そうとは思わないけど、自分の娘がいろんな用事を頼んでほしい年頃になってるんだと確信した」といった展開になる。

『npr』のMichaeleen Doucleffの記事(“A 4-year-old can run errands alone … and not just on reality TV”*注2)は、『はじめてのおつかい』を紹介しながら、子供の自律性について論じている。 全米で、1995年以来、毎年失踪する子供の数は50%減少しおり、その大半は、子供が家から逃げ出すか、親のどちらかが連れ去るケースであることを指摘する。同時に、いくつかの州では、ひとりで公園まで歩かせたり、学校まで歩かせたりした親が逮捕されることがある状況を示す。

 そして、ステップを踏んで安全に娘をおつかいに出したエピソードを描き、心理学者のHolly Schiffrinの「親が子供に与えることのできる最大の贈り物は、自分自身で決断する機会である」という言葉を引用する(良い記事なのでぜひ原文を読んでみてください)。

「となりのトトロだ、ジブリの世界だ!」

 Netflix配信『はじめてのおつかい』は、おつかいVTRのセレクションがいい。「これぞ日本」という回がピックアップされていて、英語字幕つきで観ると、いつのまにか自分が日本人じゃないスタンスで「和の国、すばらし!」みたいな気持ちになってくる。

 お地蔵さんにカサをかぶせて、友達に腹帯を届けるおつかい(第3話)や、なかよし二人組が神社の石段を登ってお守りとおだんごを買いにいくおつかい(第5話)、魚屋さんに刺し身にさばいてもらって妹のためにリンゴを買ってくるおつかい(第8話)、みかん畑で働くみんなのためにみかんジュースを作ってくるおつかい(第2話)など。「となりのトトロだ、ジブリの世界だ!」と奇妙にねじれた感懐が沸き起こってくる。

 特に、城下町の商店街での2歳の心路(みろ)ちゃんのおつかい(第7話)は、『はじめてのおつかい』の凄さが詰まったエピソードだろう。

 そば打ちエプロンを忘れて困っているお父さんのところに行って、途中で時計屋さんに寄っておかあさんの時計を受け取ってくるおつかい。白い線から出ちゃダメって言われてて道が渡れない心路ちゃんを金物屋のおじさんが助けてくれる。

 エプロンを届けたころには、心路ちゃんのおつかいは商店街の噂になっていて、みんな「がんばってー」と応援。応援に答えてるうちに時計屋さんを見逃してしまう(心路ちゃんにとってお店の看板の位置は高すぎて見えない!)。

 お母さんのところにもどった心路ちゃんは、「時計屋さんわからんかった」と悔し泣き。お母さんは「じゅうぶん」だと思って終わりにしようと思ったけど、心路ちゃんは「行く」と言って、みんなの応援を背にうけて(差し入れの漬物を食べて)再び出発。おせんべいやさん、着物屋のおばちゃん、街のみんなが応援してくれる。

 もう、『魔女の宅急便』のクライマックスシーンのモデルだと言われると信じてしまいそうだ。

 他人を不寛容に警戒しすぎることで、街や地域の交流が失われていく。見守りではなく監視で覆われる社会になってくる。そのことで、われわれは何を失っているだろうか。海外の人だけでなく、日本人も考え振り返るためにも『Old Enough!』を観るべきだ(エピソード数、増やしてほしい)。

『はじめてのおつかい』Netflixで配信中(写真は第7話『町が見守る古い城下町』2018年撮影)

*注1
『EATER』“The Charm of Watching Kids Running Mundane Food Errands on ‘Old Enough’”
https://www.eater.com/23022387/old-enough-netflix-review-japanese-show

*注2
https://www.npr.org/sections/goatsandsoda/2022/04/20/1093153651/a-4-year-old-can-run-errands-alone-and-not-just-on-reality-tv#:~:text=Now a Japanese reality show,lives — all around the world

文/米光一成(よねみつ・かずなり)

米光一成

ゲーム作家。代表作「ぷよぷよ」「BAROQUE」「はぁって言うゲーム」「変顔マッチ」「あいうえバトル」「記憶交換ノ儀式」等。デジタルハリウッド大学教授。池袋コミュニティ・カレッジ「表現道場」の道場主。

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