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『鎌倉殿の13人』22話「征夷大将軍!」喜ぶ頼朝(大泉洋)の背後に曽我兄弟の暗殺計画

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』22話。義経(菅田将暉)、八重(新垣結衣)と人気の主要人物が立て続けに悲劇的な死を迎え、北条義時(小栗旬)の歩む道も決して明るいものではなく、妻を亡くした傷心は癒えない。「義時の生きる道」(副題)の回を、歴史とドラマに詳しいライター、近藤正高さんが、歴史書を紐解きながら解説します。

母の思いを守る金剛(森優理斗)

『鎌倉殿の13人』第22回は、義時(小栗旬)の「天罰だ」とのセリフで始まった。前回、川に流されて死んだ妻・八重(新垣結衣)について天罰が下ったのだと、彼は思い込んだのだ。同じ回で頼朝が「人の所業の正否を決められるのは天しかない」などと言うものだから、真に受けてしまったのだろう。

 義時は、あのとき川に居合わせた親友の三浦義村(山本耕史)に、八重が最後に何か言っていなかったと訊く。そこで義村は、そういえばと、彼女が死んだその日、「私はちっとも悔やんでいません。十分楽しかったし、私はとっても満足」と口にしていたのを思い出す。……あれ、八重がその日、川遊びをする子供たちを義村と一緒に見守るシーンはたしかに前回あったけど、そんなこと言ってたっけ? と思い、第21回をもう一度見返したところ、このセリフは出てこなかった(そもそも前回出てきていたら「何という死亡フラグ」とネットでも話題になったはずである)。

 一体、八重はどういう意図でそんなことを言ったのか? 義村は義時の気持ちを慮って、その日は肌寒く、思うように川遊びはできなかったが、子供たちは楽しそうだったので、八重さんはそう言ったのかもしれないともフォローするが、それにしては「ちっとも悔やんでいません」という言葉はやや重すぎる。ひょっとすると彼女は、子供たちの姿に自分の来し方を重ね合わせ、ふと口にしたのかもしれない。

 それにしても、気がかりだったのが義時と八重の息子・金剛(森優理斗)である。もとはといえば八重は孤児の鶴丸(佐藤遥灯)が溺れかけたのを助けようとして死んだのだから、金剛が鶴丸を恨んだりしないか心配だった。だが、今回、そんな視聴者の思いをフォローするように、義時は金剛に鶴丸を恨まないようにとちゃんと言い聞かせていた。そして「鶴丸を憎む暇があるのなら、そのぶん母を敬え。母のしてきたことを守るのだ」と肝に銘じさせる。

 金剛は父の言葉に従い、このあと、安達盛長(野添義弘)の息子・弥九郎(渡部澪音)にいじめられていた鶴丸をかばうことになる。しかも、そのことは一切言わず(義時は鶴丸に言われてその事実を知る)、思わず手を出してケガさせてしまった弥九郎に対し、父とともに謝る潔さには胸を打たれた。金剛は間違いなく、八重がどんな子供にも分け隔てなく優しく接する姿を思い出し、母の思いを守ろうと心に誓ったのだ。

後白河法皇(西田敏行)の最期

 さて、義時は傷心がまだ癒えないなか、頼朝(大泉洋)から命じられ、天下草創の総仕上げである上洛に付き従う。このとき、頼朝は後白河法皇(西田敏行)と面会した。建久元年(1190)11月9日のことである。

 誰も同席させずに対面した二人は、互いの腹を探るように言葉を交わす。法皇が「我らを亡き者とするならば、この日本(ひのもと)は治まらぬ。やれるものならやってみるがよい」と挑発したかと思えば、頼朝は「新しい世のため朝廷は欠かせませぬ」としれっと言ってのけ、続けて「(新しい世とは)戦のない世でございます」と断じた。すると法皇は思わず笑い、「薄っぺらいことを申すのう。誰よりも業が深いくせに」と図星を突き、「命からがら逃げ回るはもうまっぴら」と言い返す頼朝に「我が子かわいさ」と畳みかける。

 しかし頼朝も然る者、「戦がなくなり喜ばぬ者はおりませぬ。ただし、武士どもは別。あの者どもをおとなしくさせねばなりませぬ。ぜひともお力をお貸し願いたい」と自らの意向を伝え、「私がほしいのは……」と言いかけると法皇に「朝廷の与える誉れ」と言わしめた。これに乗じて「ついては我が娘を若き帝(後鳥羽天皇)の后としてしていただきたく存じまする」と一気に申し入れると、法皇は破顔一笑するのだった。

 頼朝はこのあと、朝廷の実力者である九条兼実(田中直樹)と会談し、法皇の死後も見据えて自分たちが天皇を支えるべく連携を深めていくことを確認する。ただし兼実は自分の娘はすでに帝の后となっていると、頼朝に釘を刺すことを忘れなかった。

 それから2年後、後白河法皇は死の床に就く。法皇はうわごとのように「守り抜いたぞ」と繰り返し、すがる後鳥羽天皇(菊井りひと)にも「守り抜かれよ」と伝えたうえ「楽しまれよ」と付け加えると、そのまま息を引き取った。平家、木曽義仲、そして頼朝と、続々と現れる猛者たちを相手に朝廷を守り抜いたという自負をここぞとばかりアピールしながらの大往生であった(享年66)。それと同時に若き天皇に伝えた「楽しまれよ」という言葉に、法皇らしさがうかがえる。

「征夷大将軍」とは?

 それから4カ月後、建久3年(1192)7月、頼朝が自らを大将軍とするよう要求したのを受けて、朝廷は彼を征夷大将軍に任じた。このときのナレーション(長澤まさみ)で、頼朝が朝廷に対し要求したのが「大将軍」であり、続けて「数ある将軍職のなかで朝廷が任じたのは」征夷大将軍だったと説明したところに、最近の研究成果が反映されている。

 かつては、頼朝はかねてより征夷大将軍を熱望していたが、後白河法皇はそれを拒んだため、任官がその死後になったと理解されてきた。しかし近年発見された新史料(内大臣・中山忠親の日記『山槐記』の抜書きである『三槐荒涼抜書要』の建久3年7月9日・12日の記事)により、頼朝が申請したのは征夷大将軍ではなくあくまで「大将軍」であり、朝廷はそれに応えて複数の職を先例も踏まえて検討したうえ、征夷大将軍を選んだ事実があきらかになった(元木泰雄『源頼朝 武家政権の創始者』中公新書、川合康『源頼朝 すでに朝の大将軍たるなり』ミネルヴァ書房を参照)。

 新史料からは、頼朝が征夷大将軍になったのには偶然という側面があったとも解釈できる。だとすれば、かつての教科書などでおなじみだった「鎌倉幕府は1192年の頼朝の征夷大将軍任官をもって成立した」とする説にはほとんど根拠がないことになる。

 もっとも、この説は、新史料の発見のずっと前から支持する研究者は少なかった。それというのも、頼朝の時代、征夷大将軍は幕府首長の官職として確立していたわけではないからだ(頼朝はこの職を2年後には辞任したとされ、その死後、跡を継いだ源頼家=万寿が同職に就くまでには10年近くあいだが空いている)。そもそも鎌倉幕府とはあくまで後世の歴史家がつくり出した学問上の概念なので、学界では以前より、「鎌倉幕府の成立はいつか」という問題は、《「幕府とはなにか」という学者の考えかたの相違を反映して、多様にならざるをえない》ことを前提に議論されてきた(石井進『日本の歴史7 鎌倉幕府』中公文庫。ちなみに同書の親本が出たのは1965年である)。

色恋になるとそうとうしつこいらしい

 解説が長くなってしまった。話をドラマに戻すと……任官が決まり、政子(小池栄子)から祝われるも冷静を装っていた頼朝だが、やがて耐え切れなくなってうれしさを爆発させ、夫婦で喜びを分かち合う。大泉洋と小池栄子はこれまでにもたびたび共演してきたとあって、このときの間合いの取り方などさすがに息ぴったりであった。

 うれしいことは続き、翌月には頼朝と政子のあいだに男児が産まれ、千幡と命名される。のちの鎌倉幕府第3代将軍・源実朝である。千幡の乳母には、北条時政(坂東弥十郎)の娘である実衣(宮澤エマ)が選ばれた。これに対し、頼朝の嫡男・万寿の乳母父である比企能員(佐藤二朗)と道(堀内敬子)の夫婦は、よもや千幡が北条を後ろ盾として頼朝の後継者になったりしまいかと恐れを抱く。そこでさらなる一手として、姪の比奈(堀田真由)を頼朝の側室とすべく御所に送り込んだ。

 比企夫妻の思惑どおり、頼朝は若くきれいな比奈を気に入った。さっそくすごろくを手取り足取り指南していると、政子が現れたため、とっさに義時の後妻にどうかと思っていたのだと言い訳する。だが、政子はこれに怒るどころか、じつは私も同じことを考えていたと言い出した。あの子が義時と結ばれれば比企と北条の架け橋になってくれるはずだというのだ。頼朝もそう言われては、泣く泣く比奈を義時に譲らざるをえなかった。

 もっとも、当の義時はまだ八重への思いが強く、私は後妻をもらうつもりはないときっぱり断る。そのうえで比奈には「一応、あなたの気持ちも聞いておく」と告げたのだが、これに彼女は不機嫌になり(まあ当然でしょう)「私の気持ちを聞いてどうなさるのですか。私はまわりに言われたことをすることだけ。自分の思いで動いたことはございません」と語気を強めた。だが、義時はそんな彼女に、八重からも同じことを言われたと、つい笑ってしまう。

 あきれながら比企の館に戻った比奈は、能員たちに「噂によるとあのお方、色恋になるとそうとうしつこいらしいんです」と言う。義時がかつて伊豆に戻っていた八重のもとに足繁く通ったという話は、どうやら鎌倉ではそんな噂として伝わっていたらしい。

曽我兄弟と頼朝暗殺計画

 今回は後白河法皇が亡くなったとはいえ、安らかな最期だったし、誰かが殺されたりすることもないまま後半に入った。だが、頼朝の上洛のときから、御家人たちのあいだでは彼に対する不満が徐々に高まっていた。戦時体制から平時体制へ移行するなかで、頼朝が周囲を気心の知れた身内で固めるようになったのがその要因だ。ここからやがてある計画が動き出す。その主役は曽我十郎(田邊和也)と五郎(田中俊介)の兄弟であった。

 曽我兄弟は、以前にも少年時代に登場してほのめかされていたように、父である伊豆の豪族・河津祐泰を工藤祐経(坪倉由幸)に殺されて以来、いつか祐経に復讐すべく時機をうかがっていた。そして、建久4年(1193)5月に入り、ついに実行に向けて動き出す。そのためまず協力を求めたのが、烏帽子親(男子の成年の儀式で烏帽子をかぶせる仮の親)の北条時政であった。時政は仇討ちの話を聞かされ、妻のりく(宮沢りえ)とともに支援を約束する。

 だが、時政は兄弟がもうひとつ大きな計画を進めていることは知らされなかった。それは頼朝暗殺計画である。兄弟の父・祐泰は伊東祐親の長男であった。兄弟は自分たちの祖父である祐親を死に追いやった張本人として、頼朝を祐経とともに仇とみなしたのだ。

 このときも比企能員がキーパーソンとなる。兄弟は養父の幼馴染である岡崎義実(たかお鷹)も味方につけて能員のもとを訪ねると、この計画について打ち明け、協力を求める。これに対し能員は初めは相手にしなかったが、時政もかかわっていると聞いて態度を一変させる。頼朝暗殺はおそらく失敗に終わるだろうが、そうなれば北条は責任を問われて失脚するだろうし、また仮に頼朝が殺されたら殺されたで、比企にはかえって都合がよいかもしれない。そんな算段で計画に乗ると決める(このときの能員の心の変化を、佐藤二朗は表情により見事に表現していた)。

 しかし、梶原景時(中村獅童)も善児(梶原善)を通じてこの企みを察知していた。景時は義時を呼ぶと、計画への時政の関与を伝える。これと前後して、頼朝は万寿の披露目の場として、富士の裾野で巻狩(狩場を四方から取り巻き、獲物を追いつめる狩猟)を催すことを祐経と大江広元(栗原英雄)と決めていた。これが自分たちが襲われる舞台となろうとは、祐経も頼朝もまだ知らない。

 ちなみに曽我兄弟が工藤祐経とともに源頼朝を襲撃するとは、いかにも三谷幸喜の創作っぽいが、れっきとした史実である。6月8日放送のNHKのBSプレミアムの歴史番組『英雄たちの選択』では、この事件の真相をその背景から探っていた。NHKオンデマンドなどでも配信中だが、ぜひ、次回放送に合わせて地上波でも放送してほしい。

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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