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『鎌倉殿の13人』北条時政、義時、泰時の悲劇から紐解く大河ドラマ史の「父と子」

 NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』を貫くテーマのひとつは「父と子」の対立。権力の座をめぐっての北条家の悲劇は多くのひとを惹きつけてやみません。このテーマは、大河ドラマで繰り返し扱われ、さまざまな名場面を生んできました。近藤正高さんが、NHKオンデマンドなどで配信されている作品からピックアップして振り返ります。

『鎌倉殿の13人』の父と子

『鎌倉殿の13人』では先の放送回で、鎌倉幕府の執権・北条時政(坂東彌十郎)が、妻のりく(宮沢りえ)から言われるがままに娘婿である平賀朝雅(山中崇)を源実朝(柿澤勇人)に替わって鎌倉殿に担ぎ上げようとしたために、実の息子の北条義時(小栗旬)から謀反との断罪を受け、鎌倉を追放された。

 時政と義時はそもそも、源頼朝(大泉洋)の死後、次の鎌倉殿を誰にするかをめぐって対立したのを皮切りに、時政がりくの希望もあって次第に権力欲に取りつかれていくなかで溝を深めていった。義時は義時で、頼朝の遺志を継承し、何事においても政権の安定を優先するがあまり冷酷な判断を下すこともあいつぎ、そのたびに息子の泰時(坂口健太郎)から非難されている。

 こうして見ると、父と息子の関係は、『鎌倉殿の13人』を貫く大きなテーマといえる。いや、このテーマは歴代の大河ドラマでも繰り返し扱われ、さまざまな名場面を生んできた。今回は、現在、NHKオンデマンドなどで配信されている作品からいくつか振り返ってみたい。

足利尊氏vs.直冬

『鎌倉殿』でりくを演じた宮沢りえは、トップアイドルだった1991年に大河ドラマ『太平記』に出演している。『鎌倉殿』が北条氏が権力を掌握していく時代を描くのに対し、『太平記』では北条氏が足利尊氏(当時は高氏/真田広之)によって滅ぼされる過程が描かれた。宮沢が演じたのは、その尊氏が上洛した際に一夜をともにした藤夜叉という白拍子である。

 藤夜叉はその後、高氏の子をひそかに生み育てる。不知哉丸(いざやまる)と名づけられたその子を藤夜叉は武士にするつもりなどなかったが、彼女が死んだあとで、尊氏が引き取ろうとする。結局、これは彼の正室の登子(沢口靖子)の反対で断念せざるをえなかった。その後、不知哉丸は尊氏の弟・直義(高嶋政伸)の養子となり、直冬の名を与えられる。

 だが、室町幕府が成立してから尊氏と直義の確執が強まるにしたがい、直冬(筒井道隆)は尊氏と敵対することになる。最終回では直義が尊氏に毒殺され、これに怒った直冬は京に攻め上ると、ついに尊氏の軍勢と衝突するにいたった。互いに殺し合うことにはならなかったとはいえ、父と叔父の対立に巻き込まれる形で、血で血を洗う事態に追い込まれたのは十分に悲劇である。そもそも直冬が自分の父が尊氏だと知りさえしなければ、彼は武士になどならず、父と争うことにもならなかっただろう。

斎藤道三vs.義龍─『国盗り物語』『麒麟がくる』ほか

「出生の秘密」が原因で父子が決裂したといえば、戦国時代の美濃を主な舞台とした『国盗り物語』(1973年)の斎藤道三(平幹二朗)と義龍(若林豪)もそうだった。道三の跡を継いだ義龍だが、実の父が美濃国の守護・土岐頼芸と知って激怒し、母親の深芳野(三田佳子)を問い詰める。そして最終的には父子で戦って道三を討ち取った。

 戦力で義龍にかなわないと悟った道三は、美濃を隣国・尾張の織田信長(高橋英樹)に譲るとの遺書をしたためていた。道三は義龍よりも娘婿である信長を自分の後継者に選んだのである。この点は、その後の大河『信長 KING OF ZIPANGU』(1992年)も変わらない。

 これが一昨年、2020年の大河『麒麟がくる』ではちょっと違っていた。伊藤英明演じる義龍(道三生前の名は高政)は、母の深芳野(南果歩)がもともと土岐頼芸(尾美としのり)の愛妾だったため、自分は頼芸の子ではないかと疑っていた。出自からいえば、道三(本木雅弘)が油売りの子だったのに対し、頼芸は源氏の流れを汲む申し分ない血筋であった。そのため義龍は、自分の父は頼芸だと思い込むようになり、頼芸をないがしろにする道三に憎しみを募らせていく。

 やがて頼芸は道三との諍いから美濃を逃げ出し、義龍は真の父を失ったと動揺する。そんな息子に、道三は「そろそろ家督を譲ろうと思うておったが、いまだし(まだ早い)じゃのう」と言い捨てる。これには義龍以上に、彼が道三の跡を継ぐことを願っていた深芳野がショックを受け、酒浸りとなったあげく、ついには川で溺死してしまった。義龍はその亡骸を前に、母親への償いとして自分に家督を譲るよう道三に迫り、承服させる。

 美濃の守護代となった義龍は、道三が娘の帰蝶(川口春奈)を信長(染谷将太)に嫁がせてその関係を強化したのをひるがえし、信長と敵対する岩倉織田家や今川家と結びつこうとしていた。これに帰蝶は、弟の孫四郎や喜平次に働きかけて抗おうとするも、義龍は弟2人を殺害してしまう。義龍はここぞとばかり、自分は土岐源氏の血筋であると喧伝し、人々を従えようとした。これに道三はとうとう「偽りを申す者は必ず人を欺く。そして国を欺く」と怒りをあらわにし、正義のため義龍と一戦交えると決意する。

 義龍は圧倒的な兵力を持ち、道三に勝ち目はなかった。だが、道三は最後はひとりで義龍に向かっていく。ここで道三から父の名を問われた義龍は当然、頼芸の名を挙げる。だが、道三はこの期におよんでなお自分を飾ろうとする彼をあざ笑う。そして「そなたの父は、この斎藤道三じゃ!」「成り上がり者の道三じゃ」と言い聞かせるのだった。いきり立った義龍は、兵に討てと命じ、自ら手にかけることなく道三を討ち取る。最後の力を振り絞って義龍のもとへ歩み寄った道三は、息子の胸のなかへ崩れ落ちたかと思うと、「我が子……高政……」「勝ったのは道三じゃ」と言って息を引き取った。

『麒麟がくる』の斎藤道三は、それまでの大河ドラマの道三とは違い、義龍を自分の子だと言いながら死んでいった。それは義龍こそ自分の後継者だと信じて疑わなかったからだろう。義龍にとってはおそらくそれがプレッシャーだったはずだ。それゆえ血筋を偽り、道三の敷いたレールから何としても脱却し、自分なりの道を進もうとしたのではないか。なお、その後、義龍は志半ばで病死し、その息子の龍興は信長の侵攻に抗するも、古くからの家臣たちに裏切られ、美濃を出ることになる。

武田信虎vs.信玄『武田信玄』『風林火山』

 父と息子の確執をテーマにした大河といえば、戦国時代の甲斐を舞台とした『武田信玄』(1988年)は外せない。何しろ第1回のサブタイトルからして「父と子」である。主人公の信玄(中井貴一)は、晴信と呼ばれた少年時代より、傍若無人な父・信虎(平幹二朗)に反発してははねのけられてきた。

 信虎は圧政を布き、領民たちを苦しめる。たまりかねた信玄はついに甲斐の国を守るため、父の追放を決意。家臣たちを自分の側に取り込むと、信虎の受け入れ先を今川義元(中村勘九郎=のちの勘三郎)の治める駿府と定め、義元と駆け引きを繰り広げながらも、合戦からの帰途、ついに計画を実行した。ここまでが最初の3回分で一気に描かれる。

 その信玄もその後、嫡男の義信(堤真一)と確執を深めていった。それは川中島の合戦で信玄が自分の采配に背いた義信を罰そうとしたことで決定的なものとなる。このとき、信玄は無意識のうちにかつて自分が信虎に言われたのと同じことを義信に向かって口にしていた。義信もまた、若き日の信玄のように正義を貫こうとするあまり、謀反を企てる。その意を受けて守役の飯富虎昌(児玉清)が信玄を襲おうとするも失敗に終わり、首謀者である義信をかばって切腹した。義信自身は幽閉され、久々に信玄と面会したあと自害を遂げる。

 主演の中井貴一は当時27歳だったが、実年齢で3歳しか違わない堤真一を相手に、すっかり老獪になった信玄に扮しても違和感がなかった。信虎演じる平幹二朗も、シェイクスピア劇に出てくるかのような暴君をときにエキセントリックに演じ、強烈な印象を残す。追放直前には、愛妾のらん(宮崎萬純)からちょっとからかわれたことに激怒して、彼女を縛りつけて折檻し、それを正室の大井夫人(若尾文子)が必死になってやめさせようとする……なんてシーンも出てきた。

 駿府に預けられてからも信虎はしたたかで、今川の家臣を集めてクーデターを呼びかけ、危うく殺されかけたりもする。それでも信玄より長生きし、最終回前には、死の床にあった息子を見舞い、叱咤するほどであった。

 信玄による信虎追放劇は、信玄の軍師となる山本勘助(内野聖陽)を主人公とした『風林火山』(2007年)で再び描かれた。このとき信玄を本作出演を機に一般的に知られるようになった市川亀治郎(現・猿之助)が、対して信虎を新劇界の大御所・仲代達矢が演じた。

『風林火山』における追放劇は、『武田信玄』とは状況がちょっと違い、信虎は駿府で義元と会って甲斐に戻ってきたところを信玄たちに追い返される。その去り際も、仲代信虎がまるで人生が終わったかのような呆然自失とした表情を見せたのに対し、平信虎は信玄たちに見送られるうち笑みを浮かべ、堂々と去っていった。その違いは演じ手の放送当時の実年齢(平・55歳、仲代・75歳)を反映しているようでもあり、興味深い。

徳川斉昭vs.一橋慶喜─『青天を衝け』

 エキセントリックな一面を持つ父親に息子が手を焼くという点では、昨年の大河『青天を衝け』における徳川斉昭・慶喜父子も同じだ。徳川御三家のひとつ水戸徳川家の当主だった斉昭は、ペリー来航後、開国へと傾く幕府に、その立場にもかかわらず激しく抗った。演じた竹中直人がまた現存する肖像写真の斉昭そっくりであった。

 やがて病弱だった13代将軍・家定(渡辺大知)の跡継ぎ問題が起こると、大老・井伊直弼(岸谷五朗)が後継に徳川慶福(のちの家茂/磯村勇斗)を据えようとしたのに対し、斉昭は自分の息子である慶喜(当時、御三卿のひとつ一橋家に養子に入っていた/草なぎ剛)を推す急先鋒となった。

 しかし、当の慶喜は事態の収拾を図るべく、江戸城で直弼とひそかに会って慶福を次の将軍とすることに賛同を示す。その翌日、登城の日ではないにもかかわらず斉昭は藩主の座を譲った嫡男の慶篤(中島歩)らとともに押しかけて直弼と面会した。そこで斉昭は、慶喜が次の将軍に慶福を認めたと知らされ驚愕する。こうして慶福が新将軍に決まるが、慶喜は、自分は斉昭の夢をつぶしてしまったかもしれないと、その心中を妻の美賀君(川栄李奈)にだけ打ち明けたのがせつない。

 将軍後継問題を乗り越えた直弼は勢いづき、今度は幕府に反対する勢力の粛清に乗り出す。いわゆる安政の大獄だ。そのなかで慶喜は斉昭とともに謹慎を命じられるという皮肉な結果となる。謹慎中、慶喜が部屋から一歩も出ず直弼に無言の抵抗を続けるなか、直弼は水戸浪士らに暗殺され、直後には斉昭も急死、死に目に会えないことを親不孝と嘆き、慟哭するのだった。彼が斉昭が望んだとおり15代将軍に就任するのはその6年後、1866年のことである。翌年には大政を朝廷に奉還することになる。

 こうして並べてみると、父と息子が権力の継承をめぐって対立するという話が何と多いことか。思えば、北条家の人たちだって、もし源頼朝の挙兵に加わらなかったら、権力闘争などとは無縁のまま伊豆の一介の豪族として仲睦まじく暮らすこともできたはずである。一方で、ここに挙げた話は、親と子の望む方向は必ずしも一致せず、それゆえに関係がこじれてしまうという、どこの家庭にもありえる普遍的な部分を持っていることにも気づかされる。その意味では、大河ドラマはホームドラマである、ともいえるかもしれない。

→『鎌倉殿の13人』のレビューを読む

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある

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