連載

人気介護ブロガー対談 あっけらかん×しれっと【第1回】介護は自分のためにやるものです!

 介護作家・ブロガーとして『40歳からの遠距離介護』サイトを運営する工藤広伸(くどひろ)さんと、義母“ばあさん”の介護の日々を描いた漫画ブログ『あっけらかん』を発信するイラストレーターのなとみみわさんによる対談が実現!まずは二人がどのようなスタンスで介護に携わり、ブロガーとして情報発信してきているのかを聞いた。

情報発信系ブロガーと漫画ブロガー

――お二人は以前からお知り合いだそうですが、お互いについてどのような印象を持っていましたか。

工藤さん(以下、敬称略) なとみさんは義理のお母さんを介護されていましたよね。うちは実母だったのでそれは違うなと思っていました。僕の場合は、あくまでも自分の母親、自分の父親だったので、義理の感覚ってちょっとわからないんです。

なとみさん(以下、敬称略) 私から見たくどひろさんは、すごく熱心に情報発信をしている人。実のお父さん、おばあさんを看取り、今は東京と盛岡という遠距離でお母さんの介護もされているじゃないですか。しかも、ありとあらゆる情報を集めて、使いこなしているだけでなく、皆さんにも発信しているって、すごい人だな!と思っていましたよ。

工藤 いえいえ(笑い)。なとみさんだって発信しているじゃないですか。

なとみ 私の場合は漫画なのであったことを描くだけですけれど、くどひろさんの場合はすぐに使える役立つ情報として、皆さんにわかるように伝えているのがすごいんですよ。併せて感情的なところもきちんと書かれていて、その両方があるというのがとても大事だと思いますね。

後悔を回収するために介護をしている

――実母と義母とでは違うものでしょうか。

なとみ それはあります。やっぱり、自分の親だと腹が立つ。でも、くどひろさんはいつも笑顔で、腹が立つことなんてなさそう。

工藤 僕だって腹が立つことはありますよ。認知症の人って何度も同じことを繰り返して言うじゃないですか。うちの母の場合はそれが普通の人の10倍くらいあって1分間で6回か7回も繰り返すんです。それが最近加速してきていて、かなりイライラしますよ。

なとみ くどひろさんの本の中に「どんな人でも5回以上聞かれるとストレスになる」って書かれてましたね。

工藤 そうそう。大阪市のものわすれクリニックの松本先生から「5回以上同じことを言われるとストレスが溜まるから、5回目以降は本人に指摘していい」と教えられて実践していたんですけれど、今や5回では1分も持たないんですから(笑い)。

なとみ うちの夫にとってばあさんは実母なので、くどひろさんと同じようにイライラしていました。夫がばあさんに対してすごく厳しくあたるので、かえってこちらは何も言えなくて。そういうのを見越して「こいつ、わざとやってる?」と思ったくらいですよ。そんな夫を見てきた人間からすると、くどひろさんは神様です!

工藤 神様ですか(笑い)。

なとみ たぶん、くどひろさんは色んな経験をして、学んできているんだと思います。ただ、以前おっしゃっていた「やりきれなかった後悔した気持ちを回収している」っていうのは、今すごくよくわかります。

工藤 僕は、脳梗塞で倒れた父と認知症の祖母と介護してきた中でさまざまな後悔があって、今残っている母の介護をすることでその後悔を回収している感じがするんです。あのときああすれば良かった、こんな決断をすれば良かったという後悔はすごく引きずるので、比較的母に対しては後悔のない介護ができているのかもしれません。たぶん、なとみさんもおばあさんのときの後悔を、今実のお母さんで回収しようとしているんじゃないですか?

なとみ それはあります。だから、ばあさんのためでも母のためでもなく、あくまでも自分のためです。

工藤 僕だって全然人のためではないです。自分のためだと思えば、腹が立たないですしね。親族や兄弟が手伝ってくれなくても、自分のためにやっていることだから誰も手伝ってくれなくていい。

ブログを書くことで心をリセット

――介護のことをブログとして発信しているのはなぜですか?

なとみ 私のブログはもともと育児ブログで、途中からばあさんの介護の話が中心になっていった感じです。「これはネタになる!」と思った出来事を漫画として描くにしても、思ったことをそのまま描くと誰かを傷つける可能性があるので、かなり考えて描いています。そうやって考えることで、イライラしていた気持ちとか大きすぎた期待感なんかが消化できる。ブログとして出すことで気持ちのリセットできるのは、ブログをやっていて良かったと思うことですね。

工藤 僕が母の介護を始めた頃は、40歳の男性で、介護のことを発信している人があまりいなかった。だから、今後自分のような人が出てきたときに自分が体験したことや苦労話を書いておけば、誰かの役に立つかもしれないと思ったんです。最初の3か月はほぼ毎日書いたものの、1日5PVとか、全然読まれませんでした。それでもなぜか「書きたい!」という気持ちが沸いてきて、毎日書くことができました。

なとみ やっぱり文章を書くのが好きなんですね。読みやすくてわかりやすいし、すごい上手ですよ。

工藤 いや、文章を書くのが好きだと思うようになったのは最近です。今モチベーションとなっているのは、講演をしてほしいと言われて全国各地に行ったときに、ブログの読者さんに会えたことですね。講演後に握手をすると涙を流される人もいますが、そういう体験をするとやってきた甲斐があったと思えます。

なとみ 手を握って涙を流すなんて、やっぱり神様ですよ!

工藤 なとみさんのブログにもたくさん熱いメッセージが届いていませんか? 僕もブログのコメントはうれしいですけれど、紹介したものの使い方を教えてほしいとか「メーカーに聞いてくれ!」と思うような相談もちょくちょくあって……。困ってしまうこともありますね。

なとみ 本の感想としてすごい長文を送ってもらったり、読んでいて涙が出ちゃうことのほうが多いですよ。コメントのところに自分の介護の思いを書き込んでくれる人もいますし、私が杖のことで困っているなどと書くと、色んな人がアドバイスを書き込んでくれて、それを読んだ人たちの情報共有にもなる。あれはすごいと思う。ブログの力ですね。

なとみみわ

イラストレーター、漫画家。雑誌、書籍、ムック、広告等を中心に活躍するほか、オリジナルキャラクターの制作も行う。義母“ばあさん”や家族との日々や離れて暮らす実母との関係を綴ったブログ「あっけらかん」が人気。著書は『まいにちが、あっけらかん。――高齢になった母の気持ちと行動が納得できる心得帖』(つちや書店・佐藤眞一監修)
ブログ「あっけらかん」https://ameblo.jp/akkerakan/
オフィシャルサイト http://www002.upp.so-net.ne.jp/natomi/index.html

工藤広伸(くどう・ひろのぶ)

40歳のときに祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護を始め、2013年3月に介護退職。祖母死去後、現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。著書は『認知症介護を後悔しないための54の心得』『認知症介護で倒れないための55の心得』(廣済堂出版)など。
ブログ「40歳からの遠距離介護」 https://40kaigo.net/

撮影/松本幸子 取材・文/牛島美笛

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