連載

86才、一人暮らし。ああ、快適なり【第50回 人生はライヴ】

 伝説のカルチャー誌『話の特集』を創刊し、30年にわたり編集長を務めた矢崎泰久氏は、御年86才。ジャーナリスト、作家として、現在も精力的に活動を行っている。

 独自の主義主張を貫きながら、さまざまなジャンルの人たちと広く交流を続ける矢崎氏は、ライフスタイルにも“矢崎流”が溢れている。自ら望んで、家族と離れて一人暮らし続けている矢崎氏の生き方、心持ちなどを執筆いただき、連載でお伝えしている。

 今回のテーマは「ライヴ」。講演会、対談などで、人々と直接触れ合う機会を数多く持っている矢崎氏が、ライヴにこだわる理由とは?

 * * *

ライヴが好き。誘われると何処にでも出席する

 雑誌『月刊現代』(講談社)で永六輔さんと私の対談の連載が始まって間もなく、

「矢崎さんは学生時代、サッカーの選手だったんでしょ」
「うん。中学・高校と6年間やってた」
「練習嫌いだったでしょ」
「……」
「やっぱりね。練習が足りないチームは弱いんです」
「……」
「雑誌の対談は月1回、しかも密室でやる。ぼくらも練習しなくては」

 永さんとのライヴが始まったのは、そんな会話がきっかけだった。

「スポーツをやってない永さんは、練習の経験なんてないでしょ」
「とんでもない。ボクは寺の子ですから、毎朝お経を読んでました」

 そんなわけで、月1回のライヴが始まった。

 永さんがこの世を去った後も、現在まで私はライヴに嵌まっている。

 仲間たちと御茶の水のエスパス・ビブリオでやっている『棺桶片足組』と、東中野のポレポレ坐で2か月毎に小室等さんとやっているライヴをずっと続けている。他にも誘われると何処にでも出かけて行く。

 8月10日にも、御茶の水のライヴ・ハウスで弁護士の山根二郎さんと「君たちは元号を生きるのか」と題して、ライヴをやった。熱暑の中、約30人の聴衆が参加してくれた。

 初めに、私が『日本人論』を。次に山根弁護士が『元号は憲法違反だ』を、次いで、現在、元号訴訟中の原告仲間で元官僚の北原賢二の3人に対して、会場からの質問を受けた。

 その詳細をお伝えしたいのだが、つくづく「人生はライヴ」だと感動したことについてだけ、述べておきたい。

元号について裁判を起こした

 元号訴訟の第1回公判は5月31日東京地裁で開かれた、傍聴人が多数詰めかけた結果、9月2日(月)に次回法廷が開かれることになった。

 何故、元号に私たちが反対するか。8月10日のライヴは、いわばその説明会に当たるものだった。

「元号は、憲法第13条に定められた基本的人権に違反する」というのが、私たちの訴えだが、これが一般的にわかりにくい上に、相手が国であるため法務大臣が被告になる。しかも、訴状の結論は。「元号廃止」であった。

 つまり国は負けられない。最初から原告側に敗訴を位置づける必要がある。厳しい裁判である。地裁→高裁→最高裁と送りながら、結論を示さずに、元号訴訟も棚上げにすることは明白だった。

 歴史をたどれば、もともと日本に元号が定着したことは無かった、あるいは存在しなかったというのは明白である。

 歴史上、最初の元号とされる大化は認められるのか。天皇は万世一系かどうか。紀元とは何か…。さまざまな説が議論されて今日に至っている。

 実際に世界で現在通用しているものは、いわゆる西暦のみである。

 元号が必要な理由は何か。徳川時代の年号は元号ではないという明白な事実。天皇制が作られたのは、明治によってであり、わずか150年ほど前のことである。元号制定には、そもそも無理がある。

 神話、歴史、信仰、古事、由来、縁起など明解にしなくてはならないことがある。何をどう学ぶか、それも論じられなくてはならない。

 短い時間の中で、これらの疑問が解決されるのは極めて難しい。ライヴに集まっている人はそれぞれの存在で、どこまで承認可能なのか。発言を求めた人が、どこのだれかは互いに不明に近い。

 ところが、私は中学校時代の同級生を質問者の一人に見つけて驚いた。その男性は、私と中学3年間成城学園という学校で学んだ。12才から15才くらいの頃だ。その面影は今もあった。

 彼は後に、東京の私立高校の教師になり、独自な教育者として知られるようになった。それほど親しくはなかったが、互いにそれぞれの立場からの交流はあった。

 その彼が、山根二郎と、縄文・石器からの日本人の認識について論じているではないか。日本という国に生きてきて、日本とは、日本人とは何かを、常日頃より考察してきた。

 意見に相違はあっても、日本人の不可解で謎だらけの存在について、深く思いを巡らせてきたことに違いなかった。

 元号によって、浮かび上がった日本人についての考察は大変に貴重なものである。

今を生きる

 ライヴに集まった全員の抱いているそれぞれの人生。それがあちこちに響き合って、人生そのものがライヴだと教えてくれる。

 在りし日の永六輔さんが、私とこだわり続けてきた、生きた言葉で語り合うライヴの執着を思い出させてくれた。

 今、ここで、眞険に語り合う。その意味がひしひしと伝わってくる。人間は現在にしか存在しない。

 私たちは、もっと自分を信じて、言葉を大切にするべきではないか。その上で、今を生きるべきではないか。

「人生はライヴ」だから、逃げたり、いい加減にしてはならない。毎日が、実は眞険勝負なのだと思う。

 ライヴは、現在そのもの。それ以外の何ものでもない。逃げ隠れはできない。あるがママの自分をどう伝えるか。今、この瞬間を大切にする。それを決して忘れない。

 

 裁判所で会いましょう!

【お知らせ】
山根二郎氏、北原賢二氏、矢崎泰久氏が、「元号は憲法違反」として、国を相手取り、元号制定の差し止めを求めて東京地裁に提訴した裁判は9月2日(月)11時に、東京地裁第103号法廷で開かれます。傍聴希望の方は、5分前までに入場してください。

●「86才、一人暮らし。ああ、快適なり」は今回が最終回となります。長い間、ご愛読いただきありがとうございました。

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矢崎泰久(やざきやすひさ)

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1933年、東京生まれ。フリージャーナリスト。新聞記者を経て『話の特集』を創刊。30年にわたり編集長を務める。テレビ、ラジオの世界でもプロデューサーとしても活躍。永六輔氏、中山千夏らと開講した「学校ごっこ」も話題に。現在も『週刊金曜日』などで雑誌に連載をもつ傍ら、「ジャーナリズムの歴史を考える」をテーマにした「泰久塾」を開き、若手編集者などに教えている。著書に『永六輔の伝言 僕が愛した「芸と反骨」 』『「話の特集」と仲間たち』『口きかん―わが心の菊池寛』『句々快々―「話の特集句会」交遊録』『人生は喜劇だ』『あの人がいた』最新刊に中山千夏さんとの共著『いりにこち』(琉球新報)など。

撮影:小山茜(こやまあかね)

写真家。国内外で幅広く活躍。海外では、『芸術創造賞』『造形芸術文化賞』(いずれもモナコ文化庁授与)など多数の賞を受賞。「常識にとらわれないやり方」をモットーに多岐にわたる撮影活動を行っている。

●追悼・矢崎泰久さん 自由とタバコと女性を愛した人生、貫いた信念

第1回 そもそものはじまり
第2回 老いはするが老人にはならぬ
第3回 自由って何だろう
第4回 おいしい生活
第5回 通院の帰り道
第6回 好色のすすめ
第7回 夢の続き
第8回 耽るということ
第9回 テレビの功罪
第10回 遊び
第11回 ギャンブル好き
第12回 便利は復讐する
第13回 老作家が描くエロスの凄み
第14回 スマホって何だろう
第15回 不倫スキャンダル
第16回 明治維新と向き合う
第17回 無駄遣い
第18回 ラブレター
第19回 老いらくの恋
第20回 料理人(シェフ)はアーチスト
第21回 エロティシズム礼賛

第22回 泰久塾縁起
第23回 養老院(ホーム)探訪記
第24回 老スモーカーの独白
第25回 トルとドス
第26回 さらば友よ
第27回 油断大敵
第28回 妄想のタイムラグ
第29回 甘えは怖い
第30回 貯金嫌い
第31回 七転び八起き
第32回 どうするかい同窓会
第33回 ハッケヨイ
第34回 ヘルプ・ミー
第35回 不可能にチャレンジ!
第36回 不思議大国
第37回 早し良し
第38回 生きる工夫
第39回 誕生日異変
第40回 映画館へ行こう
第41回 永遠の美女を探せ!
第42回 笑って死にたい
第43回 生涯を見届ける
第44回 スポーツは誰のものか
第45回 悔いてなんぼ
第46回 うん・どん・こん
第47回 ひまつぶし
第48回 永遠のロマン
第49回 要介護

 

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