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『半沢直樹』新シリーズ目前!「特別総集編」で7年ぶりの半沢にグっときた理由

 堺雅人主演『半沢直樹』の新作が7月19日からスタート、それにさきがけて7月5日、12日と2夜にわたって、前作の「特別総集編」放送中。5日に放送された「特別総集編」前編には、初々しい半沢直樹の姿が! 7年の時を経て観ると、当時は気づかなかった新たな発見もあったという「日曜劇場研究」を連載してきた近藤正高さんが、『半沢直樹』のストーリーを吟味、改めてその魅力と注目点を考察する。

→『半沢直樹』が帰ってくる!総集編でおさらい、チェックしたい新シリーズの見所

半沢の最初の闘い

 先週7月5日、『半沢直樹 特別総集編』の前編が放送された。これは2013年に放送された『半沢直樹』のうち前半にあたる5話分を約2時間にまとめたもの。今夜9時からは、これに続いて最終回までの残り5話をまとめた後編が放送される(なお、Paraviなどではこれに合わせて、まず前半5話の配信が始まっている)。

 総集編の前編では、最初のシーンから驚いた。東京中央銀行の大阪西支店に融資課長として勤める半沢直樹(堺雅人)が、ある町工場に赴くのだが、その社長を演じていたのが今年4月に亡くなった志賀廣太郎だったからだ。『半沢直樹』は本放送時にも見ていたけれど、志賀さんが出ていたのは忘れていた。彼の演じるいかにも実直そうな社長が、新たに開発したネジに社運を賭けていると切々と訴えるさまには、胸にグッとくるものがあった。半沢もその姿に打たれて、融資に応じる。ネジは、このあと徐々に明かされていくように、そもそも半沢が銀行員になるきっかけを与えた物でもある。

 前編では、大阪西支店を舞台に、半沢と支店長の浅野(石丸幹二)とのあいだで壮絶なバトルが繰り広げられた。発端は、半沢に浅野が強引にねじ込み、西大阪スチールという会社に5億円もの融資契約、しかも新規融資先にもかかわらずそれを無担保で取りつけたことだ。これにより浅野は営業目標を達成しておおいに面目を施すのだが、じつは西大阪スチールは莫大な負債を粉飾決算で隠蔽していた、とんでもない会社だった。このあと同社はあっけなく倒産し、結果、東京中央銀行は融資した5億円全額をだまし取られる格好となる。浅野はその責任をすべて半沢に負わせようと画策し、大和田常務はじめ銀行の上層部に根回しする。だが、これに半沢は猛然と反発、5億円全額の回収を宣言する。その際、もしこれが達成できた暁には、浅野に土下座して詫びてもらうと約束させるのだった。

 ここから半沢の最初の闘いが始まった。敵役も続々と現れる。今回の案件の当事者である東田社長(宇梶剛士)には、愛人の未樹(壇蜜)と一緒に逃げられ、半沢はずっと追い続けるはめになる。東京本部の人事部次長の小木曽(緋田康人)は浅野からしっかり根回しされていて、大阪西支店にやって来るたび机をバンバン叩きながら半沢の責任を追及する。そこへ国税局査察部も西大阪スチールの資産差し押さえに動き出す。国税に東田の資産を差し押さえられては、半沢は5億円を取り戻せないとあって、査察部統括官の黒崎(片岡愛之助)とも熾烈な攻防を繰り広げることになる。

 もちろん半沢にいるのは敵ばかりではない。東京本部にいる同期の渡真利(及川光博)は何かにつけて本部の情報を教えてくれる。大阪西支店に本部から裁量臨店(支店で融資が正しく行なわれているかどうかを調べる本部の内部検査)が入ったときには、小木曽たちとともに渡真利もやって来てくれた。このとき、半沢たちが提出した書類はことごとく不備を理由に突き返されてしまう。それというのも、小木曽が人事を盾に半沢の部下の中西(中島裕翔)を脅して、書類から重要なものを抜き取らせていたからだ。それを察知した半沢は、小木曽以下本部の面々の鞄のなかを見せてほしいと申し出る。もちろん小木曽たちは拒むが、そこで渡真利が機転を利かせて、何もなければただではおかないと半沢を脅すそぶりを見せつつ、まず自分からまず鞄を見せた。こうなると、ほかの連中も見せざるをえない。もちろん、なくなった書類は小木曽の鞄のなかから見つかるのだが、その前に一拍置いて、臨店係の灰田(加藤虎ノ介)の鞄から風俗誌が発見されてしまうのがコントのようでおかしい。このとき、半沢の部下のひとり垣内(須田邦裕)が灰田に言い放った「これはずいぶんとお楽しみだ」というセリフにもニヤニヤさせられた。

チームプレイを見せる場面も少なくなかった

 先週のレビューで筆者は、『半沢直樹』で闘う主体となるのは基本的に半沢という個人だと書いたが、こうして振り返ると案外、半沢はチームプレイを見せる場面も少なくなかったと気づく。銀行の外でも、西大阪スチールの倒産(じつは計画倒産だった)により連鎖倒産へと追い込まれた町工場の社長・竹下(赤井英和)と出会い、味方につける。竹下は倒産を苦にして首を吊ろうとしたところを救われ、さらに冒頭に出てきた町工場の社長とは旧知の間柄で、そこへ半沢が融資を決めたと知り、信用してくれたのだ。さらに連鎖倒産の被害者として板橋(岡田浩暉)も巻き込むが、じつはこちらは東田とつながっていて妨害を図ろうとする。しかし半沢はそれも見越して、事前に手を打っていた。その勘のよさには超能力か! と思わずツッコミを入れたくなるが、おそらく半沢は少年時代から世間の荒波にもまれることで、他人を簡単には信用しなくなり、人の心や動きを先の先まで読む能力を身につけていったのではないか。

 竹下は、浅野と東田が一緒にいるところを写真に収めたりと、何かにつけて半沢に貢献する。浅野は東田とじつは中学時代の同級生で、東田に融資する代わりに見返りを受けていた。半沢はそれを知るや、浅野に匿名で携帯メールを送って、精神的にもじわじわと追いつめてゆく。その後、ニューヨークの銀行に東田の隠し口座があり、それが愛人の未樹の名義になっていること、浅野への見返り金もそこから振りこまれているところまで突き止めた。半沢は決定的な証拠をつかむため、未樹に接触を図る。彼女がネイルサロンを出店する夢を持っていることを事前に知っていた彼は、それをネタにアプローチを試みるのだが、最初はある写真を東田に送ると脅迫まがいのことをしたために、ビンタされて終わる。ちなみに総集編では、未樹を脅すのに使った写真が何なのかまではわからなかったが、配信中の本編を見ると、それが彼女が板橋と密会しているところを撮ったものだとわかる。こちらも竹下が隠し撮りしたものだった(まるで文春砲並みの活躍だ)。

 一度断られても半沢はめげない。今度は、未樹が自力で出店するのであれば、銀行員として融資で協力すると切り出したのだ。これは、妻の花(上戸彩)が、半沢のためにパートタイムで働いて得た金で新しい鞄を買ってくれたことからひらめいたものだった。この作戦に未樹もついに心を動かされる。彼女はこのあと、国税に寝返るかのような行動に出るが、それはあくまでめくらましのため、一方ではちゃんと半沢宛てに隠し口座の通帳を送っていた(じつは国税に出頭することも半沢の入れ知恵であった)。こうして半沢はついに東田から5億円を取り返したのである。東田本人にも、彼が高級クラブで豪遊しているところへ乗り込み、回収した旨を告げた。

 半沢は所期の目的を達成すると、浅野に刑事告発すると迫った。それを聞いて浅野は顔色を変え、何でもすると懇願する。そこへ偶然、東京から来ていた浅野の妻の利恵(中島ひろ子)が現れた(浅野は大阪には単身赴任で、家族とは別居していた)。彼女は浅野の置かれた状況を察したのか、いきなり半沢の手を握ると、「こんな人ですけど、本当にどうか、どうかお願いします」と頼むのだった。いったんは鬼になった半沢だが、支店長室を出たあとで利恵の言葉を思い出し、心変わりする。再び支店長室に戻ると、東京本部の営業第2部に次長ポストで異動させろと要求、それができたら見逃してやると浅野に伝えた。営業第2部とは、東京中央銀行の経営の中枢である。入行時より将来は頭取になると同期たちに宣言した彼にとって、何としてでも食い込みたいところだった。それと同時に、融資課の全員を希望のポストにつけることも約束させたあたり、半沢の優しさだろう。そして最後に、初めの約束どおり、浅野に土下座させたところで、前編は幕を閉じたのである。

半沢だってネイティブな大阪弁が話せるはず

 総集編ではカットされてしまっていたが、浅野が東田の融資に応じて見返りを受けたのは、株取引で失敗した損失を穴埋めするためだった(半沢との最後の場面でそう明かしている)。しかし、不正融資の原因はそれだけではないような気がする。想像するに、故郷である大阪に赴任した浅野は、中学の同級生である東田とひょんなことから再会し、そこで無茶な融資を依頼されたのではないか。しかも東田はなぜか浅野が株で失敗したのを知っていて、その弱みにつけこんでごり押しした……真相はそんなあたりだろう。東田と浅野が同席した場面を見たかぎり、中学時代は東田のほうが立場は断然上で、きっと何かにつけて浅野に命令していたに違いない。故郷に転勤したばかりに、過去の関係を蒸し返されたあげく、危ない橋を渡らされたと思えば、浅野に同情しないでもない。

 もっとも、浅野は一切大阪弁をしゃべらなかったし、その点ではやや不自然ではあったが。それは半沢にも同様のことがいえる。総集編の前編では、竹下を味方につけた半沢が、思わず「お願いしまっせ、社長はん」と口にしたところ、竹下から「気色悪い大阪弁はやめてくれへんか」とたしなめられる一幕があった。だが、そのあとに出てきた半沢の少年時代の回想シーンでは、町工場(冒頭に書いたネジはここで登場する)を経営する彼の父親がコテコテの大阪弁で銀行の人間に融資を頼み込んでいたではないか。その父親のもとで育ったのなら、半沢だってネイティブな大阪弁が話せるはずだが、なぜそうならなかったのか? 融資してもらえずに工場が倒産したため首をくくった父親を忘れるためなのか? それとも銀行で出世するには標準語でなければと思い(そんな必要はないとは思うが)、大阪弁を捨てたのか? 色々と想像はふくらむが、正解は案外単純なのかもしれない。そう、半沢の父親役にふさわしいとスタッフが見込んだ笑福亭鶴瓶が、たまたま大阪弁しかしゃべれなかったから、なのではないか……。しかし考えてみれば、鶴瓶の実の息子である駿河学からして、大阪弁の印象はさほどないのが不思議なところではある。

 総集編の後編では、舞台を東京中央銀行の本部と融資先の観光ホテルに移してこの駿河学も登場する。前編ではほんの少ししか出番のなかった、香川照之扮する大和田常務も満を持して半沢の前に立ちふさがる。ここから物語は7月19日より始まる新シリーズへとどうつながっていくのか。そのあたりも頭に置きつつ視聴すると、いっそう楽しめるはずである。

『半沢直樹』(前回シリーズ)は配信サービスParaviで視聴可能(有料)

文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)

ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。

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この記事へのみんなのコメント

  • りょち

    わたしも大好きで、見ました。前半を一気に凝縮した内容だったので、このように記事にしてくださると、振り返りが整理でき、とても良かったです。またライターの方が同い年なので、さらに共感できました!

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