暮らし

おひとりさまが明かす「真の友達」との関係|終活ジャーナリスト・金子稚子さん、ピアニスト・ホキ德田さん

 厚労省のまとめによると、2019年の日本人の平均寿命は女性87.45才、男性81.41才で、ともに過去最高を記録した。内閣府の「令和2年版高齢社会白書」によると、2040年には65才以上の女性の24.5%、つまり約4人に1人がひとり暮らしになると予測されている。

 女性は男性より6年長生きし、「女のひとり暮らし」の質が問われる時代において、友達の有無は、健康寿命に大きく影響するといわれている。実際、夫に先立たれて、後半生を自分らしく生きている多くの女性は、友達との交流を欠かさない。そんな人生の先輩たちの声を聞いてみよう。

金子稚子さん「私に対して泣いてくれる」真の友達

 早くして夫を亡くすケースではどうだろうか。

「夫の通夜や葬儀のとき、友達の大切さを強く感じました」

 そう振り返るのは、終活ジャーナリストの金子稚子さん(53才)。流通ジャーナリストとしてテレビや雑誌に引っ張りだこだった夫の哲雄さん(享年41)は、2012年に希少がんの「肺カルチノイド」で亡くなった。がんの確定診断を受けたその日から、哲雄さんが残された時間を用いて自らの死を“プロデュース”したことは広く知られる。哲雄さんが闘病中に死の準備を重ねるなか、稚子さんは押し寄せる孤独に怯えた。

「夫も亡くなったら私には何もなくなると思い詰めていました。しかし、通夜や葬儀の場で私の学生時代からの友人たちが、わが事のように泣いている姿を目の当たりにして、ありがたくて涙が出ました。『この人たちは、夫ではなく私に対して泣いてくれている』という温かさを感じ、『ああ、ここに帰れば彼女たちがいるんだ』と心から安心しました」(稚子さん・以下同)

 最愛の夫と死別し、悲しみで疲れ果てた稚子さんにとって、変わらない態度で自分に接してくれる友人たちは、心を癒してくれる存在だった。

「『大変だったね』と声をかけてくれることはあっても、それ以外は、何にも変わらない。近寄りすぎたり、遠すぎたりもしない距離感で私のことを見守ってくれました。ゆっくり立ち直るためにつき添ってくれて、本当にありがたかった」

 夫の死は、友人関係を整理するきっかけにもなり得る。現在、終活ジャーナリストとして夫を亡くした多くの女性の声を聞いている稚子さんは、残念なケースも目撃してきた。

「夫を亡くしたのちに友人の態度がガラッと変わり、『これまでのつきあいは上辺だけだったんだ』『夫がいてこその私だったんだ』と傷つく人もいます。ひどいケースだと、『あなたは夫のおかげで幸せを謳歌できていたのよ』『やっと私の苦しみがわかったでしょ』などと、妬み嫉みをぶつけられる人もいます。きっと多くの人が、夫の死をきっかけに本当の友達とは何かを考えさせられるはずです」

 残酷なようだが、それまで築き上げてきた関係はその程度だったということだ。逆に言えば、深い悲しみをわかち合えるなら、それは一生ものの友達かもしれない。

 稚子さんは、人生の後半において「友」と呼べる相手には、「命とお金を預けても構わない」と言う。

「大切なお金とともに、延命治療の決断まで任せられるのが、私にとって真の友人です。私は延命治療を望んでいませんが、万一のとき、もしかすると母が延命治療を医師に希望するかもしれない。家族の心理はそういうものです。友人には、家族から一歩引いたところで、私の意思を伝えて延命治療を拒否する橋渡しをしてほしい。死生観を共有して、命まで預けられるのが大人になってからの友達の条件です」

 時には家族以上に、友達の存在は大きくなるものだ。

→自宅で看取るということ|菊田あや子さん・金子哲雄さんに学ぶ在宅介護

→終活におすすめ3つの準備| 厚生労働省のリスト、遺書サービス…|金子稚子さん

ホキ德田さん”互いに軽口を叩く”親友はデヴィ夫人

「ピアニストは孤独なのよ。練習もステージもひとり」

 にやりと笑いながらそう話すのは、日本最高齢の弾き語りピアニストとして知られるホキ德田さん(87才)。

 3才でピアノを始めた彼女は、カナダへの留学を経て国内で芸能界デビューしたのち渡米。1967年に42才年上の文豪、ヘンリー・ミラーと結婚して世を賑わせた。1978年にヘンリー氏と離婚し、2000年に帰国してからは、ライブ活動を中心に自由気ままな暮らしだったという。

 米寿を目前に、旅立つ友人をおくることが増えた德田さんだが、会えば互いに軽口を叩く親友がいる。その1人がデヴィ夫人(81才)だ。德田さんが、夫人との出会いを振り返る。

「私がヘンリーと結婚した頃、インドネシアのスカルノ大統領の子供を出産して世を騒がしていたデヴィを知人に紹介されました。当時は互いにマスコミにもみくちゃにされたから戦友みたいなもので、仲はいいわね。デヴィは私のことをリスペクトしてくれる面があるし、私も新たなチャレンジを続ける彼女をすごいと思うの。でも、たまに会うと『あら、まだ生きていたの』が最初のあいさつの言葉なのよ」(德田さん・以下同)

 德田さんは、2019年に東京・六本木に構えていた会員制ピアノバー「北回帰線」を閉めた。現在、マネジャーとして德田さんをサポートする男性は、德田さんが行きつけの店の常連客だった。

「コロナで仕事が減ったとき、デヴィと、彼と3人で食事したんです。そのときデヴィが、『あなた手伝いなさいよ』と言って、そのまま彼がボランティアで私のマネジャーをすることになりました。仕事のマネジメント業務だけでなく、ひとり暮らしの私の『見守り確認』もしてくれています。今年の正月に私の電話がつながらなかったときは、マンションの管理人にわざわざ連絡を取って確認してくれました。あのときは心配かけたわ(笑い)」

 血縁者でもない男性が、無償で日々の暮らしの面倒をみてくれる。そんな夢のような交遊関係に恵まれたのは、德田さんが家にこもるのではなく、「外出」を欠かさなかったからだといえる。

「もともと家でじっとしていられない性分で、毎日どこかで食べたり飲んだりしているうちに知り合いが増えました。いまは行きつけの店に行けば、誰かしら顔見知りがいて、そこで飲んでいると初対面の人でも気づけば顔なじみになります。自分で料理して食べると、誰ともおしゃべりしないから私には無理なの。外に出て、友人たちとしゃべりながらお酒を飲むことが楽しいのよ。ハハハッ」

 そう笑う彼女は孤独なピアニストではなく、常に人に囲まれる近所の人気者だ。

※女性セブン2021年4月1日号
https://josei7.com/

●大人になってから「友達」は必要か?健康寿命と友達の関係性

●「見せかけの友人なんていりません」下重暁子さんが提案する新時代の生き方

●老後ひとり暮らしのお付き合いマナー|おひとりさま向け3大サービスとは?

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