現役官僚として改革提言を続けベストセラーを連発する古賀茂明氏と、SAPIOの人気連載「おバカ規制の責任者出てこい!」の著者・原英史氏は経済産業省の先輩後輩にあたり、自民党政権時代には国家公務員制度改革推進本部でともに「霞が関改革」に取り組んだ。船出した野田新政権は「官僚の壁」を越えて改革を進めることができるのか、同志2人が徹底議論した。
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――野田政権も震災復興と原発事故処理が2大テーマだ。まず原発政策では、原子力安全・保安院など規制官庁を経産省から切り離して環境省に移す方針が打ち出された。
原:「本末転倒と言うほかはない。3首脳の交代人事では、原子力安全・保安院の院長に商務流通審議官が昇格した。従来と同じ経産省内部の人事ローテーション。なぜ、まず人事の段階で外部の民間の専門家を登用して、これまでのやり方を改めようとしないのか。組織改革は法改正が必要だが、幹部を入れ替える人事はすぐにできたはずです」
古賀:「組織を移すという発想が限界を露呈していて、保安院は1回つぶすと考えたほうがいい。組織が大事なのではなく、何をやるためにどういう組織がいいかの順番で考えるべきです」
原:「不祥事や大きな事故が起きるとすぐ組織改革をやるのは官僚の入れ知恵。国際標準で考えたら、欧米では、米国のNRC(原子力規制委員会)など専門家がトップに就いている機関が規制している。しかし、今回の日本の改革案は、環境省の下に『原子力庁』のような機関をおいて大臣がトップの“普通の官僚組織”にするというもの。環境省には原子力の専門家はいないから、結局、現在の保安院など原子力村の官僚が環境省に移るだけで実態は変わらない」
古賀:「実際は、保安院にはもともと原発を規制する能力などないんですね。保安院には鉱山保安を担当していた人々がたくさんいて、鉱山が閉山した時に原子力が拡大したから組織を吸収させたわけです。日本の場合、難しいのは、原子力がちゃんとわかる専門家が原発推進派である電力会社とメーカーにしかいない。学者も、電力会社に依存しているケースが多い。米国では原子力空母や原潜があるから、軍の原子力専門家がいて、そこからNRCなどで規制に携わるルートがあるから電力会社とは中立性が保てる。
だから、私は高い給料を払っても、外国人の専門家を入れたほうがいいと思う。そうすれば、これまでのように電力会社と役所、メーカーの専門家が、『これは聞かなかったことにしよう』などと都合の悪い情報は出さない体質は通用しなくなる」
原:「3月の事故の際にも、日本の原子力安全委員会は論外だが、NRCやフランスのほうがよほど正確な情報を持って事態を冷静に分析していた」
古賀:「本来、原子力のような高度な専門的知識が必要で、重要な安全規制こそ、政治的に中立な第三者機関が求められる。今回、放射性物質の拡散を予測する『SPEEDI』の情報が隠されたのは、『公表してパニックになったら大変』という政治判断でしょう。専門家が科学的知見と倫理観のみを判断材料にやっていれば、公表して夜のうちに住民を強制的に避難させる手段が取れたと思う。それが政治的中立性の真の意味です」
原:「だから、今の組織改革案では、今後、原発推進派の政権ができた時に、『津波の基準は3mでいいことにしておこう』とか、政権の政治判断で決められる危険がある。どんな政権になっても、科学的知見と良心で安全基準を変えない仕組みが重要なんです」
●司会・構成/武冨薫(ジャーナリスト)
※SAPIO2011年10月5日号