ライフ

電力会社の“3%ルール”が障壁 太陽光や風力などは使い辛い

「原発に頼らない安心できる社会」を目指す城南信用金庫(東京・品川区)が、東京電力との契約を打ち切り、PPS(特定規模電気事業者)の最大手であるエネット(東京・港区)から電気を購入し始めた。いま、電力自由化の現実はどうなっているのか。ジャーナリストの小泉深氏がPPS最大手・株式会社エネット・経営企画部長の谷口直行氏に聞いた。

* * *
エネットは創業11年で社員数40数名の会社ですが、現在、約8000件の契約数があり、電力の規模で言うと約330万キロワット供給しています。近年、競争入札によって電力会社を決定する官公庁や学校、病院などの施設が増えており、我が社が入札で獲得したこれらの契約は約2000件です。

エネットが供給する電力は、大株主の東京ガス、大阪ガスが所有する天然ガス発電所のほか、自家発電設備を持っている事業者など、約100か所から調達しています。

昨年3月11日以降、数か月間でメールでの問い合わせが1000件以上に上りました。増え続ける需要に対応するため、自社発電所の保有や自家発電設備を持った事業者の余剰電力を探すなど、調達先の確保に日々取り組んでいますが、それでも仕入れが追いつかず、全てに対応しきれていないのが実情です。

発電所を増やす、と一口に言っても簡単にはいきません。発電所建設には環境評価に3年半、許可が下りるまでに数年かかるなど、計画から稼働まで合計10年近くを要し、規制でがんじがらめになっています。

そもそも、電力会社以外の事業者が発電事業に参入するのは難しい。作った電気がいくらで売買できるのか、はっきりとした指標がないため、事業計画が立てづらいのです。

これらの課題をクリアして電力供給を始めた後も、厳しく規制されます。PPSが調達した電気は電力会社の送配電ネットワークを利用して送られますが、その際に電力会社に支払う「託送料金」は、小売単価の15~20%を占めています。

電力会社の電気料金にも託送料金は含まれていますが、総括原価方式ではそれがいくらに設定されているのか、本当のところは分からない。

PPSにとってさらに厳しいのは、電力会社のネットワークを利用するために、需要電力と供給電力を30分ごとに誤差3%以内に合わせなければならないという「30分同時同量規制」です。

電力会社のエリアごとにこの「3%ルール」を守らねばならず、供給が足りなかった場合には高額のペナルティを支払わなければなりません。逆に、多く供給しすぎた場合は、その電力は無料で電力会社に取られてしまいます。

再生エネルギーに注目が集まっていますが、 こうした規制がそのままでは、 太陽光や風力など、自然条件によって発電量が変動するエネルギーは使いづらいのが現状です。

電力の小売り自由化がスタートして10年以上が経過し、現在では総販売電力量の6割以上が自由化されているとはいえ、自由化対象の電力需要にPPSが占める割合はわずか3%台に留まっています。高い託送料金や電力会社に支払うペナルティなどは、電力小売り自由化と引き替えに作られた障壁なのです。

福島第一原発事故以降、電力業界が抱えてきた問題が明らかになりました。今後の電力業界には、サービスを充実させるための競争に向けた仕組みづくりが求められます。

電力会社やPPSが納得できるルールの下で競争し、顧客にもっと選択肢を与えるべき。少なくとも、消費電力をリアルタイムで把握するなど、自分が利用している電力について多くの情報を知ることで、電気の使い方が工夫され、省エネ、節電に結びつくことが理想ではないでしょうか。

※SAPIO2012年2月1・8日号

関連記事

トピックス

眞子さんと佳子さま(時事通信フォト)
《眞子さん出産発表の裏に“里帰りせず”の深い溝》秋篠宮夫妻と眞子さんをつないだ“佳子さんの姉妹愛”
NEWSポストセブン
「子供のころの夢はスーパーマンだった」前田投手(時事通信フォト)
《ワンオペ育児と旦那の世話に限界を…》米国残留の前田健太投手、別居中の元女子アナ妻が明かした“日本での新生活”
NEWSポストセブン
宮内庁は小室眞子さんの出産を発表した(時事通信フォト)
【宮内庁が発表】眞子さん出産で注目が集まる悠仁さま成年式「9月ならば小室圭さんとともに出席できる可能性が大いにある」と宮内庁関係者
NEWSポストセブン
若松次郎を演じる中島歩(左)は歴史上のある有名人の子孫にあたるという(C)NHK連続テレビ小説「あんぱん」NHK総合 毎週月~土曜 午前8時~8時15分ほかにて放送中
朝ドラ『あんぱん』ヒロインの“婚約者”を演じる中島歩は国木田独歩の玄孫 「中学と高校の国語教師の資格取得」に見える文豪の片鱗
週刊ポスト
会話をしながら歩く小室さん夫妻(2025年5月)
《第1子出産》“叱らない子育て”が育んだ小室圭さんと“プリンセス教育”を受けた眞子さんが築いていく“これからの教育方針”「佳代さんはトイレトレーニングもせず」
NEWSポストセブン
田中容疑者の“薬物性接待”に参加したと証言する元キャバクラ嬢でOLの女性Aさん
《27歳OLが告白》「ラリってるジジイの相手」「女性を切らすと大変なんだ…」レーサム創業者“薬漬け性接待”の参加者が明かした「高額報酬」と「異臭漂うホテル内」
週刊ポスト
「大宮おじ」「先生」こと飯田光仁容疑者(32)の素顔とは──(本人SNS)
〈今日は〇〇にゃんとキスしようかな〉32歳無職が逮捕 “大宮界隈”で少女への性的暴行疑い「大宮おじ」こと飯田光仁容疑者の“危険すぎる素顔”
NEWSポストセブン
明るいご学友に囲まれているという悠仁さま(時事通信フォト)
悠仁さまのご学友が心配する授業中の“下ネタ披露” 「俺、ヒサと一緒に授業受けてる時、普通に言っちゃってさぁ」と盛り上がり
週刊ポスト
ラウンドワンスタジアム千日前店で迷惑行為が発覚した(公式SNS、グラスの写真はイメージです/Xより)
「オェーッ!ペッペ!」30歳女性ライバーがグラスに放尿、嘔吐…ラウンドワンが「極めて悪質な迷惑行為」を報告も 女性ライバーは「汚いけど洗うからさ」逆ギレ狼藉
NEWSポストセブン
田中圭の“悪癖”に6年前から警告を発していた北川景子(時事通信フォト)
《永野芽郁との不倫報道で大打撃》北川景子が発していた田中圭への“警告メッセージ”、田中は「ガチのダメ出しじゃん」
週刊ポスト
TBS系連続ドラマ『キャスター』で共演していた2人(右・番組HPより)
《永野芽郁の二股疑惑報道》“嘘つかないで…”キム・ムジュンの意味深投稿に添付されていた一枚のワケあり写真「彼女の大好きなアニメキャラ」とファン指摘
NEWSポストセブン
2日間連続で同じブランドのイヤリングをお召しに(2025年5月20日・21日、撮影/JMPA)
《“完売”の人気ぶり》佳子さまが2日連続で着用された「5000円以下」美濃焼イヤリング  “眞子さんのセットアップ”と色を合わせる絶妙コーデも
NEWSポストセブン