作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が年末年始の特番のなかから、印象に残った番組について振り返る。
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年末年始、テレビでは大量の特番が流れました。が、「目からウロコ」の快感と発見をくれた番組は、そう多くはありません。その中で「あっ、なるほど!」と、思わず膝を打ってしまった番組が。NHK BS1の「為末大が読み解く! 勝利へのセオリー 世界とたたかう“逆転”の戦略」(1月3日放送)。
ロンドン五輪の女子競技では、なんと言っても「なでしこジャパン」が注目を集めた。けれどもよく考えると、メダルをとった女子バレーだって、すごい。「28年ぶり」のメダル獲得という偉大さ、もっと語られていいはず。と、元アタックナンバーワン少女だった私は感じていました。
この特番は、そのあたりをぴたっと押さえてくれた。
日本女子バレーの眞鍋政義監督に、プロ陸上選手の為末大氏がインタビューで肉薄。メダルにたどり着けた「秘密」と「理由」を、名将・眞鍋監督の言葉から引き出していく、という構成でした。
眞鍋監督と言えば、まず「データバレー」という言葉が浮かぶ。コートサイドで、手にiPadを持ったあの姿が印象的。
でも、「データバレー」って、いったい何なのか? 手にしているiPadは、具体的に何に役立っていたの? 中継や解説をいくら熱心に聞いても、今いちよくわからなかった、という視聴者が実は大量にいるのではないでしょうか。もちろん私もその一人。
チームスポーツといえば、いつでも監督の采配が注目される。特に女子の場合は、監督によるメンバーの人選や作戦が一人一人の選手の感情に深く響き、勝敗に大きく影響していくもの。男子に比べ、女子はチームへの愛着や結束力は強いとされる一方で、お互いの間に嫉妬やねたみといった「感情」が出ることもまた事実のようです。
「あなたをメンバーに選んだ理由は、この決定率の数字です」
「選ばなかった理由は、この効果率のためです」
iPad画面の「客観的数字」を掲げる。すると、泣く子が黙る。納得する。諦める。
決して監督の「気分」や「好き嫌い」ではなく、あくまでデータを根拠にスタメンや選手交代を決めているのだ――iPadを手にした姿を通して、眞鍋監督はそう表現していたのでした。ネガティブな感情をバサリと潔く整理する道具として、「数字」「データ」が使われ、威力を発揮していたというデータバレーの秘密が、番組からよく伝わってきました。
データとは、優れた名将が優れた小道具として使いこなした時に、大いなる力を発揮する。女子力を上手に引き出す、新しいツールだ。なるほど。目からウロコでした。
スポーツジャーナリズムは、こうあってほしい。紋切り型のいわゆる「感動秘話」「苦闘物語」ばかり追い求めるのではなくて、痒い部分に手を伸ばし、観客の中にくすぶっている「もやもや」を捉え、取材で追求し、平たい言葉で明快に腑分けし、視聴者のもやもやを晴らしてほしい。
そうすればスポーツへの理解はぐんと深まる。もっとその種目を見てみたい、と思う。秘められたスポーツの魅力に気付くことで、ファンはますます増加していくに違いないのですから。