SNS、就活、スクールカースト、いじめ……現代の若者を取り巻く問題を鋭く切り取った作品を世に送り出しているのが、史上初の平成生まれの直木賞作家・朝井リョウ氏(24)だ。大学生で華々しく文壇デビューしながら、周りの学生と同じように就活を経験。会社員との二足のわらじを履く異色の若手小説家は、若者たちが置かれた困難な状況をどのように変えていけばいいと考えているのか──。
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──専業作家にならず就職したのはなぜか。
朝井:たとえばスポーツ選手なら、明確なルールのもとで万人に勝敗がわかるかたちで試合をして、成績も数字で出ますよね。作家の場合はそういう客観的な基準のない世界。そこに居続けたら自分はどうなるんだろうという恐怖みたいなものがずっとあったんです。
人が人を評価するので評価が流動的です。最近、ある俳優の方と話した時に同じようなことをおっしゃっていましたが、「線」ではなくて、作品ごとに「点」で評価されるわけです。次に出す作品がダメで、評価がガタ落ちする可能性もある。だから、お金の問題はさておき、就職して会社で働いておかないと、何かがおかしくなるような気がしたんです。
会社に勤めながら小説を書くのは確かに忙しいですけど、時間がないぶん集中力が増します。「ああ、時間がない中でこんなに頑張ってここまで書けた」という満足感がすごく気持ちいい。勉強と部活の両立みたいなものでしょうか。
もちろん毎日たくさんの人に会うことで作品の着想を得るチャンスが増えるという面もあり、同年代のサラリーマンが登場する作品も書いてみたいと思っています。ただちょっと躊躇するのは、ありがたいことに同じ職場の人たちが私の作品を読んでくださっていること。サラリーマンの話を書くと会社の中で「この登場人物はあの人じゃないか」と言われそうな気がします。たとえばキャラクターとしての「課長」の描写ひとつも気になります。
──二足のわらじを履きながら創作活動を続けることで、若い世代からは自分たちの問題を描いてくれる代弁者と見られている。
朝井:そう見られているとしたら嬉しいですけど、突然、超高級マンションの住人しか出てこないような小説を書き始めたらごめんなさい(笑)。なおのこと、地に足をつけて生きていたい。小説家は政治家じゃないので、世の中の仕組みを変えることはできません。ただ、目の前に見えている世界以外に選択肢はたくさんあることを作品を通じて伝えられる。精神的なセーフティネットを提供することはできるんじゃないかと思っています。
※SAPIO2013年8月号