他の地域発祥の食べ物が別の土地に伝わり、洗練されて流行っていくのはカレーやラーメンの例を引くまでもなくよくあること。ましてや国内ならなおさらだろう。話題の「なごやめし」を巡るネットのあれこれから、「大人の粋」について大人力コラムニスト・石原壮一郎氏が考える。
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小倉トースト、ひつまぶし、手羽先、天むす、味噌カツ、きしめん……。昨今、それぞれに強烈な個性をはなつ「なごやめし」が、熱い注目を集めています。先月末から11月11日まで名古屋で開催中なのが「なごやめし博覧会2013」。市内の270店舗以上が参加する“史上最大級の食べ歩きイベント”で、あらゆる「なごやめし」の魅力を堪能できます。
あらかじめチケット(5枚綴り2,900円など)を購入し、このお店の味噌煮込みうどんは2枚など、決められた枚数のチケットを使いながら食べ歩くシステム。創作メニューの人気を競う「新なごやめし総選挙」といった企画も行なわれています。
とても楽しそうなイベントですが、ネットの一部で思わぬイチャモンの声が上がりました。天むすは三重県津市生まれだったりなど、ほかの地域発祥の食べ物なのに「なごやめし」を名乗るのはどうなのか、といった調子です。それを言ったら、名古屋人が深く愛するエビフリャ~だって、名古屋で生まれたわけではありません。
ただ、もともと「なごやめし」というのは、名古屋発祥の食べ物かどうかではなく、名古屋から広まった食文化を指す言葉。「じつは名古屋生まれじゃない」という批判は筋違いだし、大人としていささか野暮です。そういったことを踏まえた上で、「なごやめし博覧会」に行ったときや、あるいは何かの拍子に「なごやめし」を食べる場面で、大人の粋を見せつける方法を考えてみましょう。
ひそかに狙っている女性といっしょにいるときに、天むすが目の前に出されてきました。まずは「この天むすも、すっかり『なごやめし』になっているけど、じつは三重県の津の生まれなんだよね」と、いったんケチをつけます。続けて「でも、名古屋が全国的に有名にしたんだし、周辺の地域のいいところを素直に取り込んで、それを育てるのも『なごやめし』の魅力だから、それはそれでいいんだけどね」と言えば、彼女は大人の粋やら大人の視野の広さやらを見せつけられてウットリせずにはいられないでしょう。
さらに「三重県のお店も偉いよね。怒ったりしないで、都会で大きく育っていく様子を見守ってきたんだから」と元祖側に寄り添った発言をすれば、いろんな立場に立って考えられる懐の深さも見せつけることができます。彼女はすっかりあなたのトリコになり、天のおぼしめしで無事にむすばれるに違いありません。天むすだけに。
実際、以前に元祖のお店を取材したとき、すっかり名古屋の食べ物と思われていることをどう考えているかを聞いたところ、「まあ、いいんじゃないでしょうか。ウチはウチなりに、精いっぱいおいしい天むすを作るだけです」という大人の寛大さに満ちた答が返ってきました。このエピソードも、彼女の心を揺り動かすために、どうぞご活用ください。
そんなこんなで、ぜひ「なごやめし博覧会」へ! もちろん、ひとりでも楽しめます!