「やっぱりネイティブスピーカーに比べると語彙力が足りないし、日本語を使う外国人の話を聞いていて、ああ、私はこういう表現使えないなあと思ったりすることがあるんです。自分はまだまだだなと思わされること、多々あります」
いやいや御謙遜を、などと(それこそネイティブスピーカーのふるまいで)返すのは違うと思った。エマさんは本当にそう思っているのだ。話し方から伝わってくる。
エマさんはなぜ日本に留学することになったのだろう。まずはきっかけから伺ってみよう。
「昔、父が日本で働いていて、日本の良さや魅力をよく話してくれました。自分自身も高校の国際史の授業で戦後の日本について学んで、さらに興味が湧きました。
戦後すぐの日本は貧しかったし、地下資源もない。でもいい人材を育てて国を発展させた。ベナンも国土が狭くて、あまり地下資源に恵まれていないという点では同じだけれど、なぜ日本はそこまで発展したんだろう? と理由を知りたくなりました。実際に行って、自分の目で見てみたいなと。
ゾマホンさんというタレントさんがいますよね。彼はベナン出身なんですが、父が日本にいた時『息子さんを留学させたらどう?』とゾマホンさんに勧められたことがきっかけで、日本へ行くことになりました。高校を卒業して、18歳の時、日本語学校に入学しました。
その頃の日本語力は……『おはよう』も分からなかったんじゃないかな(笑)。目標は日本の大学に入って博士号を取ることだったんですけど、ほんとにゼロからの出発でしたね」
まったく初めての日本語。第一印象はどんなものだったのだろう。
「ベナンはいろんな民族がいる国で、自分の民族の言葉だけでなく、他の複数の民族の言葉も喋れる人が多いです。私はヨルバ民族で、ヨルバ語とフォン民族のフォン語、それからフランス語を使っていたのですが、ヨルバ語と日本語の音はすごく似てるな、親しみやすいなとまず思いました。なじみあるわ、って。
でも字は全然分からない。特に漢字に興味津々でした。これはなんやろう? 絵なのか? どうすればこれを書けるようになるんだ? どういう順番で書くんだ? 自分も書けるようになるのか? ってもう『?』ばかり。でもそれらの疑問が楽しみな気持ちに変わっていくのも早くて、漢字って奥深いなあと思うようになりました。
田んぼの田とか、月とか、最初の頃、先生が絵を使ったりしながら形と意味を紐づけてくれて、そうか、誰かがでたらめに考えたものではなく、ちゃんと何かを表現しているんだって分かったんですね。知れば知るほど面白くて、読み書きへの意欲がどんどんわいてきました」